裏切り者には死を……!

 それからしばらくして食事を終えた俺たちは、出かける準備を始めた。といっても俺は特に何も用意するものがないのですぐに終わったのだが……一方夏希たちはというと、何やら忙しそうにしている様子だった。


「おい、大丈夫か?」


 心配になった俺が声をかけると、彼女らは少し疲れた様子で答えた。


「ちょっと手間取っちゃってて……」

「こっちの服の方がいいかな?」


 どうやら服選びに苦戦しているらしい。確かに彼女らの持っている服はどれも可愛らしいものばかりだからな……どれを選んでも似合うと思うぞ? そんなことを思いながら待っていること数分――ようやく準備を終えた彼女らが姿を現した。その姿はいつもとは違った雰囲気を醸し出しており、思わず見惚れてしまったほどだ。


「どう……かな?」


 頬を赤らめながら聞いてくる夏希に対して俺は素直に感想を述べた。


「ああ、すごく似合っているぞ!」


 俺が褒めると、彼女は照れ臭そうにしながらも嬉しそうに微笑んだ。


「お兄ちゃん、私は?」

「冬香ちゃんも似合ってるよ」


 俺が褒めると、冬香ちゃんは満面の笑みを見せた。


 そして俺たちはショッピングモールへと向かって歩くことにしたのだが、途中にある信号で止まると、反対側の歩道に見覚えのある顔を見つけた。それは昨日俺に告白してきた茜の姿だった。どうやら彼女も休日らしく私服姿だ。しかし、その表情はとても暗く悲壮感が漂っていた。その様子を見て心配になった俺は思わず声をかけようとしたのだが、それよりも先に信号が青になり、茜は走り去ってしまったため叶わなかった。


 俺たちはショッピングモールに着くと、まずは服屋に向かった。夏希たちは各々気になる服を手にとっては俺に感想を求めてくるので、俺も必死に答えることにしたのだがーー正直言ってよく分からなかったため曖昧な返事しかできなかったのだが、それでも彼女らは満足している様子だったので良かったと思うことにしよう。


 それからしばらくの間、店内を見て回っていた俺たちだったが、途中で俺はトイレに行きたくなり、近くにあった男子トイレに入った。


「ふぅ……スッキリしたぜ」


 俺が手を洗いながら独り言を呟いていると、個室トイレの中から全身包帯で巻かれている人物が出てきた。俺は思わず声を出してしまう。


「えっ……」

「裏切り者には……死を!」


 次の瞬間――全身包帯人間の周りには無数の鎖が出現した。そして、その内の一本が俺の腕に巻き付いたかと思うと、そのまま俺を引っ張ってきた。


「なっ!」


 俺は急いで全身包帯人間に向けて魔法を放つ。


「ダーク・シャドウ・セカンド!」


 全身包帯人間の足元には闇の沼が出現し、無数の手が現れる。その手は全身包帯人間の片足を掴むと、そのまま沼の中に引きずり込もうとするのだが――。


「無駄だ!」


 全身包帯人間はそう叫ぶと同時に、鎖を勢いよく引っ張り、俺を自分の目の前にまで移動させた。そして次の瞬間には俺の腹に強烈な蹴りを入れてきた。


「ぐふっ!?」


 俺は腹を抑えながらその場に膝をつく。そんな俺を見下ろすようにしながら全身包帯人間がゆっくりと近づいてきた。そして――再び俺に攻撃を仕掛ける。


「ワンス・チェイン!」


 今度は全身包帯人間を中心にして巨大な魔法陣が現れたかと思うと、その中から無数の鎖が現れ俺の体に巻き付いてきた。そして、そのまま俺を宙吊りにする。


「くっ……離しやがれ!」


 俺が抵抗しようと試みるも虚しく、全身包帯人間は更に力を込めてくる。それにより俺は完全に身動きが取れなくなってしまった。そんな俺を見て全身包帯人間が笑みを浮かべると、突然背後から声が聞こえてきたのだ。それは聞き覚えのある声だった。


「隼人! 大丈夫!?」


 振り返るとそこには夏希の姿があった。


「夏希! 離れてろ!」


 俺は叫ぶようにして言う。しかし彼女は一歩も動こうとはしなかった。それどころか両手を広げて全身包帯人間に向き直り、俺を庇うように立ち塞がったのである。そして――夏希は口を開いたのだった。


「隼人を……解放しろ!」


 夏希の口調はいつもとは違い、強い意志を感じさせるものだった。そんな彼女を見て、全身包帯人間はニヤリと笑みを浮かべると再び俺に話しかけてきた。


「この少女を殺すぞ?」


 その言葉に反応するようにして鎖が俺の首を絞めてくる。


「ぐっ……」

「どうだ?  苦しいだろ?」


 全身包帯人間は楽しげに言う。俺は必死に抵抗を試みるのだが、全身を縛られている状態なので身動きが取れずどうすることもできなかった。


「くそっ……」


(このままだと夏希が……)


 そんなことを考えていた時のことだった――不意に俺の体に巻き付いていた鎖が解かれたのだ。一体何が起こったのか分からず困惑していると、今度は全身包帯人間が苦しみ出したかと思うと、そのまま倒れ込んでしまったのだ。よく見ると彼の体には無数の切り傷ができていた。そして――その傷からは黒い煙のようなものが立ち上っていた。


「何が起こったんだ……?」


 俺が呟くように言うと、隣にいた夏希が答える。


「あの鎖を隼人の体に巻き付けてる間、アイツは魔法を使いすぎてオーバーヒートを起こしたのよ」

「なるほど……そういうことか」


 俺は納得しながら全身包帯人間を見る。奴は既に息絶えていたのだった――。

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