魔法少女の最期を思い浮かんでしまって……

 時刻は18時を過ぎ、俺は夏希の家に帰ってきた。扉を開けて靴を脱ぎ、リビングへと向かう。そこには妹の冬香ちゃんの姿があった。彼女はソファに座ってテレビを見ている。俺はそんな彼女に声をかけた。


「ただいま」


 すると、彼女はこちらに視線を向けて笑みを浮かべる。


「お兄ちゃん、おかえり!」


 そして、ソファーから立ち上がると、俺の元に駆け寄ってきて抱きついてくる。俺はそんな冬香ちゃんの頭を撫でてやった。すると、夏希が声をかけたきた。


「隼人、おかえり。もうすぐ夕飯が出来るからね」


 彼女はキッチンで料理をしながら、顔だけこちらに向けて言った。


「ああ、ありがとう」


 俺が礼を言うと、夏希は照れ臭そうに頰を赤らめた。そして、再び料理に集中するのだった。それからしばらくしてから、食卓には美味しそうな料理が並んでいた。俺は席に着くと、早速食べ始めることにしたのだが――そこでふと疑問に思ったことがあったので、彼女に問いかけた。


「なあ、夏希……」

「ん? 何よ?」


 彼女は首を傾げる。そんな仕草もいちいち可愛いと思ってしまう自分がいた。俺は咳払いをしてから話を続けることにした。


「最近何か変わったことはあったか?」


 俺がそう聞くと、夏希は少し考え込んだ後で口を開いた。


「特に何もないと思うけど……どうしてそんなこと聞くの?」


 不思議そうに尋ねてくる彼女に対して、俺は答えた。


「いや、ちょっと気になっただけだ」


 俺の答えを聞いた彼女はそれ以上追求してこなかったため、俺はホッと胸を撫で下ろすのだった。その後は特に会話もなく食事を終えた後、俺たちは順番に風呂に入った。そして、リビングに戻るとソファーに横になり、今日の出来事を振り返る。まず最初に思い浮かんだのは茜のことだった。


(あいつ……俺のこと好きなのかよ……)


 正直言って驚いたが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。むしろ嬉しさの方が勝っているくらいだ。しかし、俺には付き合っている彼女がいるのだから応えることはできないし……まあでも、告白されたという事実だけでも嬉しいものだなと思う俺だった。


 次に浮かんできたのは茜と共に第5のアジトに乗り込んだ時のことだ。第6のボスと戦ったときは、マジで負けるかと思ったけど、何とか無事に生還できた。悪の組織同士で殺し合うこともあると知ったし、どの悪の組織のボスや幹部は、強力な魔法を持っていることが分かった。


「死ぬときって呆気ないんだな……」


 第6のボスを殺してから、ずっと俺は人間の最期について考えていた。そして――自然と茜の最期を思い浮かべてしまった。


(俺は今……どんな表情をしているんだろうな?)


 そんなことを考えながら、天井を見つめるのだった。それからしばらく経った後、寝室に向かうべくソファーから立ち上がると、リビングの扉が開かれた。そこにはパジャマ姿の冬香ちゃんの姿があったのだ。彼女は俺を見るなり満面の笑みを浮かべて言った。


「お兄ちゃん! 一緒に寝よ?」


 彼女の手には枕が抱えられていることから察するに、どうやら本気で言っているようだ。俺は断る理由もないので承諾し、結局今日も一部屋で夏希を含めた三人で寝るのだった――。


 翌朝――目を覚ました俺は体を起こした。すると、俺の体に抱きつくように冬香ちゃんが眠っていることに気がついた。しかも彼女の手は何故か俺の股間を触っている……一体どういうことだ?  俺が困惑していると、隣で眠っていたはずの夏希が目を覚まし、俺に声をかけてきた。


「隼人、おはよう」


 彼女は目をこすりながら挨拶してきたので、俺もそれに答えることにする。


「ああ、おはよう」


 俺が返事をすると、夏希は少し照れ臭そうにしながらも笑みを浮かべたのだった。


 それからしばらくしてから身支度を整えた俺は、朝食をとるためにリビングへと向かった。そこではエプロン姿の夏希が料理をしている姿があった。彼女の後ろ姿を眺めていると、なんだか幸せな気分になるな……そんなことを考えているうちに料理が完成したようで、テーブルの上に並べられていく。今日のメニューは味噌汁や焼き魚、玉子焼きといった和食が中心のようだ。


「「いただきます」」


 俺と冬香ちゃんが同時に言うと、食事を始めた。それからしばらくは他愛もない会話をして過ごしていたのだが、やがて話題は俺の今日の予定に移った。


「ねえ、隼人は今日どうするの?」


 夏希に聞かれたので、俺は正直に答えることにする。


「今日は……特に何も予定はないけど……」


 俺が答えると、彼女は嬉しそうな表情を浮かべながら言った。


「じゃあさ! どこか行かない? せっかく休みなんだし!」


確かに彼女の言う通りかもしれないと思った俺は了承することにしたのだった――。

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