魔法少女にプロポーズされて……

 俺は起き上がると、再び魔法を放つ準備をする。それを見た男は笑みを浮かべると、同じように俺に向かって手をかざした。そして、魔法を放つ。


「ジスク・グラビティ!」


 しかし、何も起こらなかった。男は不思議そうな表情を浮かべるが、すぐにハッとしたような表情を浮かべた。そして、慌てて自分の足元を見る。そこには先ほど俺が放った魔法によってできた闇の沼があったのだ。どうやら俺の狙い通りだったようだな……。ダーク・シャドウの闇の沼を踏んでいる間は、魔法を放っても闇の沼が吸収してくれる。要するに……魔法が無効になるというわけだ。


「なっ!? そんな馬鹿な!?」


 男は慌てて足元の闇の沼から離れようとするが、もう遅い――俺はすでに次の魔法の準備を終えていた。


「ダーク・シャドウ・セカンド!」


 俺が手をかざした途端、男の下に巨大な魔法陣が出現する。そこから大量の闇の手が伸びてくると、男の体を拘束した。そして、そのまま地面に叩きつけてしまう。その衝撃で地面が大きく揺れ動いた。どうやらかなりのダメージを負ったようだ。しかし、それでもなお男は立ち上がろうとする……だが、それを阻止するかのようにして新たな魔法を放った。


「ダーク・シャドウ・サード!」


 男の足元に更に無数の手が伸びてきて男の動きを封じる。そして、そのまま地面に倒れ込んでしまった。俺はゆっくりと近づいていくと、男の顔を覗き込んだ。すると――そこには恐怖の色が浮かんでいた。どうやら俺の実力を目の当たりにして恐れているようだな……まあ無理もないか。何しろ今まで戦ってきた相手の中でもトップクラスの実力者だからな……この程度で怖気付くようなら最初から戦いになど挑まないはずだろう? 


 だが、この男は違うようだ……その証拠に今もなお俺に立ち向かおうとしているように見える。正直言って見苦しいな……どうせ勝てないことがわかっているはずなのに、なぜ無駄な足掻きを続けるのか理解に苦しむところだ。まあでも、だからこそ面白いとも言えるのかもしれないがな。俺はそんなことを考えながらも男に話しかけた。


「最期に言い残すことはあるか?」


 すると、男は無言のまま俺を睨みつけてきた。どうやら答えるつもりはないらしい……ならば仕方がないな。


「ダーク・ライン」


 俺は闇魔法を発動して――男の胴体を真っ二つにして殺した。


「ふぅ……終わったか」


 俺は一息つくと、ゆっくりと立ち上がった。そして、周囲を見回す。そこには大勢の死体が転がっていた。


「はぁ……これからどうするかなぁ……」


 俺がため息混じりに呟くと、突然背後から声が聞こえてきた。振り向くと、そこには茜が立っていた。彼女は心配そうな表情を浮かべていた。どうやら俺の戦いが終わったことを確認しに来たようだ。


「大丈夫? 怪我はない?」


 茜は俺に近づきながら問いかけてくる。そんな彼女に対して、俺は答える。


「ああ……問題ない」

「そう……」


 茜は安心したような表情を浮かべると、俺の肩に手を置いた。そして――そのまま顔を近づけてきたので思わずドキッとする。彼女は真剣な表情のまま口を開いた。


「あなたが嘘をついてないって、この光景を見て確信したわ。ありがとう」

「あ、ああ……」


 俺は戸惑いながらも返事をする。すると、茜は少し頬を赤らめてから目をそらしてしまった。そんな彼女を見て俺も恥ずかしくなってしまうのだった。まあ、何にせよ無事で良かったよ……本当にな。それからしばらく経ってから、俺たちは第5のアジトを後にした。


 そして、アジトを出てからもしばらくの間歩き続けたのだが――途中で茜が話しかけてきたので立ち止まることにした。一体何の用だろう? 俺が不思議に思っていると、彼女は真剣な表情を浮かべて言った。


「ねぇ、あなたさえ良ければなんだけど……」

「ん?」


 俺は首を傾げると、彼女の顔を見る。すると、茜は意を決したように口を開いた。


「私と……結婚してください!」

「えっ……」


(それってつまり……)


 俺が動揺していると、茜は更に言葉を続けた。


「いきなりこんなこと言われても困るでしょうけど……でも! 本気なの!」


 彼女の目は真剣そのものだった……どうやら本気で言っているらしい。俺はしばらく考え込んでいたのだが――やがて意を決したように口を開いた。


「すまないが、俺には付き合ってる彼女がいるんだ。だから、色坂茜……君とは結婚はできない」


 俺が申し訳なさそうに言うと、茜は少し寂しそうな顔をしながら俯いた。それから少しの間黙り込んでいたが……やがて、ゆっくりと顔を上げて言った。


「そう……なんだ……」


 彼女はどこか残念そうな表情を浮かべていたものの――それでも笑顔を浮かべて言うのだった。


「ごめん……」


 一言だけ告げると、そのまま走り去ってしまった。俺はそんな彼女の後ろ姿を黙って見送るしかなかったのだった――。

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