修羅場とお誘い

次の日の放課後、太一は校舎内を歩いていた。

夏美以外の映像の少女を探すためだ。

夏美から白いワンピースの少女に関する情報が得られなかった以上、他の二人から情報を得るしかない。

そう考えた太一は帰宅する生徒ではなく、部活動を行う生徒に狙いを移していた。

しかし、堂々と活動の場に入るわけにはいかない。

窓から少し覗くのみ留め、なるべく怪しくならないように太一は努めた。

三階にある美術部を確認し終えた時だった。


「夏美ちゃんはどうして男子に色目ばっか使うの!」


廊下にいる太一にも聞こえるくらいの声量で響いてきた。


美術室の先には活動している部活は無いはずだ。

それに太一の耳にははっきりと夏美と聞こえていた。

昨日、話を聞いてくれた恩がある。

太一は念の為、部屋を確認する事にした。

部屋ではまだ話が続いてるようで、先程のようにはっきりとではないが話し声が聞こえてくる。

そのお陰で部屋はすぐに特定できた。

昨日、夏美と話をした第三会議室だった。

生徒の間で秘密の話をするならここが良いと話題になっているのだろうか。

太一は中にいる生徒に気付かれないよう気をつけながら扉の窓から中を覗いた。


中には四人の女子がいた。

どうやらその内の一人が夏美のようだ。

その時、夏美以外の三人の内の一人が夏美の肩を押した。

夏美は倒れる程ではないが、バランスを崩しよろけた。

このまま放っておくとさらにヒートアップする可能性があると太一は強く感じた。

こういうものは勢いが大事だと太一は考え、何も案が無いまま扉を開いた。

四人の視線が太一に向く。


「……大きな声がしたけど、何かあったか?」


夏美以外の三人の圧力に耐えながら何とか言葉を絞り出した。

三人は口々に「また男に助けてもらってる」、「男が居ないと生きていけないんだよ」、「それな! もう放っておこう」と言いながら、太一の脇を通って第三会議室から出て行った。


残った太一と夏美の間に重い空気が漂う。

この様な状況は言うまでもなく太一には経験がない。

太一にはこの場に相応しい言葉を思い付く事が出来なかった。


その重い沈黙を破ったのは夏美だった。


「太一

先輩、校内で人に見られると厄介なので、私のオススメのカフェがあるのでそこで少し話をしませんか?」


夏美に誘われて太一は一つ考えが浮かんだ。

白いワンピースの少女は「三人の少女を助けてあげて」と言っていた。

どの様に助ければ良いのか見当もつかなかったが、この誘いに乗ればきっかけが掴めるかもしれないと太一は予感した。

それならば断る理由は何も無い。

太一は小さく頷くと、夏美と共に校舎を後にするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぼくはキミの幻影を追いかける 宮田弘直 @JAKB

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ