友の協力を得て

次の日の朝、太一は目を覚ました瞬間に寝不足を感じた。

昨夜は昼間の出来事のショックが尾を引いた事に加え、白いワンピースの少女の事を聞き出す方法が思い浮かばず、ほとんど寝る事が出来なかったのだ。

告白する人の気持ちは分からないが、今なら振られた人の気持ちは良く理解出来ると強く太一は思った。

寝惚けた頭でそう考えるくらい、未だ太一は昨日の事を引きずっていた。


重い目を擦りながら登校すると、太一は自分が好奇の目に晒されているのを感じた。

恐らく、昨日、多くの生徒の前で振られた事が原因だろう。


誤解を解く方法が思い付くはずもなく、足早に自分の教室に逃げ込むと、太一に気が付いた雄大がすぐに声を掛けてきた。


「太一、お前突然どうしたんだ?」


「昨日の事だろう? あの女子に聞きたい事があったんだよ」


すると雄大は訝しげな顔をする。


「聞きたい事? 俺はお前が振られたって聞いたぞ?」


「僕が話し掛けたら、告白は受け付けていないって即答されたんだ。ただそれだけだよ」


太一が答えると、雄大は天を仰いだ。


「あぁ、そういう事か。太一が告白なんて突然過ぎて不思議だったんだ。それにしても、夏美ちゃんもいくら沢山告白されるからって話も聞かずに振るのは違うよな」


「……ちょっと待って。夏美ちゃん? 雄大はその人と知り合いなの?」


「まぁ、数回話したくらいだけどな」


雄大は相手の懐に入り込む事が上手いので、女子の知り合いも多いのだ。

雄大に聞くという選択肢を考えもしなかった太一は、その幸運にとても感謝をした。


「雄大、一つお願いがあるんだけど……」


「夏美ちゃんに取り次いで欲しいのか?」


今の話の流れで分かったのか、雄大は太一の願いを口にした。


「そうなんだ、申し訳ないけどお願いしたい」


「別に良いけど、夏美ちゃんに聞きたい事ってなんだよ。太一と夏美ちゃんは関わりが無いだろ?」


「僕の知り合いが、その子とも知り合いみたいなんだ。僕はその子に知り合いについて聞きたい事があるんだ」


「知り合いって、太一が時々言っている名前も知らない白いワンピースの少女の事か?」


出来れば隠しておきたかったが仕方がない。

太一は渋々頷いて、その通りだという事を伝えた。

太一のその動きに雄大は良く分からないと伝えるかのように首を横に振った。


「白いワンピースの少女とはほぼ毎日近所の公園で会ってたって言っていたよな? 一体何があったんだ?」


その質問は自分を心配する気持ちもあるだろうと太一は思ったが、これ以上話すと超能力じみた事があった事を伝えなければならなくなる。

それは避けたかった太一は力技で押し切る事にした。


「とにかく申し訳ないけど紹介して欲しい」


「……分かった。取り敢えず、聞いてみるから後で連絡するな」


「ありがとう、雄大」


隠し事は心苦しいが雄大は取り敢えず理解を示してくれた。

会えるかどうかはまだ分からないが、これが白いワンピースの少女に繋がるきっかけになれば良いと太一は思った。


「そうだ雄大。聞きたい事があるんだけど」


雄大は視線で太一の発言を促す。


「夏美さんの苗字と学年を教えてほしい」


「……海堂夏美。学年は一つ下だ」


そう短く伝えると、雄大は自分の席に戻っていった。


次の日の放課後、太一と雄大は第三会議室に来ていた。

あの後、雄大が夏美に連絡を取ってくれたとの事。

夏美は初めは嫌がっていたが、告白は絶対にしない事と人気のない教室である事を条件に渋々了承してくれたらしい。

雄大には後で何か奢ろうと太一は強く思うのだった。

第三会議室に来て少し経った頃、部屋の扉が開かれ小柄な少女が覗き込んだ。


「来てくれてありがとう、夏美ちゃん」と雄大が声を掛けると「全然、大丈夫です!」と明るく言ってこちらに近付いてきた。


太一と目が合うと「雄大先輩に聞きました。昨日は話もちゃんと聞かずにすみませんでした、太一先輩」と言ってぺこりと頭を下げた。


異性に下の名前で呼ばれた事などほとんど経験が無い太一はたじろいたが、他の二人が平然としているのを見て恥ずかしくなり、変な間がこれ以上広がる前に言葉を返さなければと感じた。


「こちらこそ、昨日は突然声を掛けてごめん。今日は時間を作ってくれてありがとう」


そう言うと、太一も夏美に習ってぺこりと頭を下げた。


互いに挨拶を済ませたところで、太一は雄大に目配せをした。

太一の意図を察した雄大は一つ頷くと「夏美ちゃん。俺は廊下に居るから何かあったら呼んでくれ」と夏美に声を掛けて第三会議室から去って行った。


雄大が去った瞬間に夏美から威圧的な空気を感じ、太一は開こうとした口を閉じざるを得なかった。

沈黙が場を支配するが、それを破ったのは夏美だった。


「それで、太一先輩が聞きたい事って何ですか?」


そう言って夏美は鋭い視線を太一に向ける。

太一の視線と夏美の視線がぶつかった瞬間、太一は夏美が刺々しい態度をとる理由がなんとなく分かった気がした。

告白などするなとその視線は言っているのだ。

夏美にとって告白される事は相当面倒臭い事なのだろう。


そう考えると昨日の話し掛けた瞬間に拒否の言葉が返ってきた事も何となく理解出来る。

相手が本題を言う前に話を終わらせてしまえば無かった事に出来ると夏美は考えたのだろう。

そこまで告白を避けたがる理由は分からないが、太一は自分には関係が無いとそこで夏美に関する思考を止めた。


今は白いワンピースの少女について聞こうと太一は気持ちを切り替えて口を開いた。


「海堂さん、変に感じるかもしれないけど、僕は名前も分からない女子を探しているんだ。その女子はいなくなる前、海堂さんの事を知っているような事を言っていたんだ。海堂さんの周りに髪が長くて、その、白いワンピースをよく着ている人はいないかな」


我ながら何を言っているのかと太一は思うが、これ以上、今の説明に付け足す言葉はない。


夏美は小さく顔を横に振った後、口を開いた。


「太一先輩、白いワンピースを着ている人は私の知り合いにはいませんね」


夏美から白いワンピースの少女に繋がればと思ったが、ここで線が切れてしまった。


白いワンピースの少女は夏美を含む映像の少女を助けてと言っていたが、夏美は助けを必要としているようには見えない、具体的にどうすれば良いのか、太一はすぐに思いつく事が出来なかった。


太一が黙ってしまった事に居心地の悪さを感じたのか、夏美は気を使うように静かに口を開いた。


「太一先輩。言いづらいんですけど、流石に名前も分からない人を探し出す事は難しいと思いますよ?」


夏美の言う事はもっともだ、人を探すには今の情報の数では少なすぎる。

夏美にはこれ以上聞いても何も出てこないだろう。

最悪、不審がられて今後話しかける事が困難になる可能性がある。

ここが引き際だろうと太一は結論を出した。


「そうだよな。ありがとう。少し考えてみる」


「いえ、私の方こそ力になれずすみません。太一先輩は雄大先輩と一緒で話しやすいので、私で力になれそうな事があったら協力しますので言ってくださいね」


その協力的な言動を聞いて、太一は一つ気付いた。

先程の威圧的な空気を感じなくなっているのだ。

約束通り告白をしなかったからだろうか。

白いワンピースの少女に関する情報は得られなかったが、夏美は何かあったら協力してくれると言ってくれた。

取り敢えず、収穫はあったと思う事にして、太一は夏美と第三会議室を後にした。

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