海堂夏美
一人目の少女
室内にスマホのアラームの音が鳴り響く。
桜木太一は久々に聞いたその音に苛立ちを覚え、アラームを止めた。
「……今日から学校か」
そう呟き、太一はゴールデンウィークが終わった事を実感する。
白いワンピースの少女との衝撃的な出来事があったのは連休初日。
その後から今日の朝まで太一はずっと部屋で引きこもって過ごしていた。
太一の様子を心配して見に来る者もいない。
思考に費やす時間は沢山あった。
しかし、どんだけ考えても理解する事は難しい。
映像が頭の中に流れてきたり、突然目の前から姿を消したり、とても現実で起こり得る事とは思えない。
そして彼女の一方的な別れの言葉。
思い出すだけで、ジワジワと暗い気持ちが這い上がって来る。
夢であってほしいと何度思ったか。
だが、太一の頭に居座っている映像がそれを否定する。
太一はゆっくりと目を閉じた。
思い浮かぶのは三人の少女。
何日経ってもその記憶は鮮明でぼやける事がない。
あの時は冷静に考える事が出来なかったが、気付いた事がある。
映像の中で三人は同じ制服を着ていた。
そして、それは太一が通っている高校の女子の制服である。
太一の高校は履いている上履きの色で学年を確認する事が出来る。
しかし、映像の中の少女は全員上半身のみ。
足元は分からない。
それでも、街中、もしかしたら日本中を探し回る事よりは大分範囲が狭まったと言えるだろう。
学校中を歩き、映像の少女達を探す。
当面はこの方法で行くしかないだろう。
太一はそこまで考えると勢い良く起き上がった。
太一は丁度ホームに来ていた電車に乗り、電車に揺られて約20分、海浜幕張駅に着いた。
駅の前には広大なイベント会場が広がり、その先には海がある。
イベントの撤収作業等があるのだろうか。
連休明けでも多くの人がそちらへ流れて行く。
太一はその人の流れを避けながら、反対口へ向かった。
そこからさらに歩いて五分、太一の通う海浜高校が見えてきた。
「おっ、太一、久しぶり!」
太一が自分のクラスである二年三組に入ると、長身の男子が話しかけてきた。
男子の名は寺島雄大で太一とは一年生の時から同じクラスのクラスメイトだ。
「久しぶり、雄大」
雄大は挨拶を返した太一の顔をマジマジと見続けている。
「お前、いつも覇気がないけど、今日は一段と覇気がないぞ。連休中に彼女と何かあったか?」
太一は雄大に何度か白いワンピースの少女の話をした事があった。
しかし、その時は超能力じみた事をする少女だとは思わなかったから話せたが、今はとてもじゃないが話す事は出来ない。
「彼女じゃないって。それに連休中はぼーっとしてたし」
太一は結局、嘘ではない無難な返答をすると雄大は「つまんねー」と言いながら席に戻って行った。
その日は休み時間になる度に太一は映像の少女達を探し回ったが、短い時間だと限度がある。
そこで、太一は放課後に再び探す事にした。
帰る生徒もいるはずだが、ホームルーム直後に探し始めれば問題ないはずだし、その後は各部活を見て回れば良い。
そう決めた太一はホームルームが終わると予定通り行動を開始した。
目的地は帰る生徒が殺到するであろう玄関だ。
ここで、太一は邪魔にならない場所で立って、映像の少女を探し始めた。
だいたい同じ時間にホームルームが終わる為、生徒が多い。
どうしても確認漏れが出てくる。
これは根気のいる作業だぞ、と太一は気合いを入れるのだった。
結局、その週は全て空振り。
動きがあったのは、土日を挟んだ月曜日の放課後だった。
太一はその日もホームルームが終わると玄関に向かい、生徒の顔を確認し始めた。
生徒の流れがまばらになってきた頃、太一はついに映像の少女の一人を見つけた。
その少女は肩口までの軽くウェーブが掛かっている髪型で軽く化粧をしている。
パッと見た印象だと小柄で可愛らしい印象だ。
そこまで観察して太一は大事な事に気が付いた。
どう声を掛けるかだ。
いきなり声を掛けると不審がれるに決まっているが、かといって次はいつ接触出来るか、分からないのだ。
このまま見過ごすわけにはいかない。
太一はどう声を掛けるか必死で考え、ついに思い付いた。
彼女と白いワンピースの少女は関わりがあるはずだ。
なら早い段階で白いワンピースの少女について質問をすれば、特に不審がられず、自然に聞き出せるはずだ。
太一は足早に近付いて声を掛けた。
「あの、すみません。聞きたいことがあるのですが……」
「あっ、すみません!今告白は受け付けていないので!」
少女はそう答えると足早に去って行ってしまった。
瞬殺である。
今まで告白をした事がないのに初めて振られるという衝撃的な経験をした太一は思わずその場に立ち尽くした。
しかし、あの少女と接触しない事には白いワンピースの少女まで辿り着けない。
作戦の練り直しが必要だと自分を奮い立たせると、太一は重い足をなんとか踏み出し家路に着くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます