第39話
「あいつらにざまぁしてぇなぁ…あーくそ不快だ…」
姫路渚や月城真琴、そしてモブの分際のくせに自我を出しやがったくそどものせいで俺は不快な気分のまま午前の授業を受けていた。
死んだと思っていた姫路渚が生きていたのは僥倖だ。
だが、主人公である俺に暴力を振るったのは本当に許し難い。
この仕返しは絶対にしなければならない。
俺は暴力系ヒロインが大っ嫌いなんだ。
姫路渚はそのうち絶対に主人公である俺に逆らえないように教育するとしよう。
あと、俺に噛ませ犬だなんて抜かしやがった月城も許さん。
あいつには絶対にいつかざまぁしてやる。
あいつが俺と敵対し、無様に敗北するのは物語の終盤だ。
かませ犬であるあいつはいずれ俺に負けて悲惨な死を迎えることになる。
だがそれまで待っていられない。
その前に絶対にざまぁしてかませ犬はあいつの方だということを思い知らせてやる。
原作知識がある俺にはそれが可能なはずだ。
「くそ……これからどうするか…」
イライラしながら俺はこれからの行動方針を考える。
魔術大戦に参加するのは面倒だというのは変わらない。
戦いには極力関わりたくない。
まぁ世界の修正力が健在であることが姫路渚が生き延びていたことで確認できたので、参戦してもいいのだが……無駄なイベントは今後もスキップする方針は変えなくていいだろう。
俺はそれよりもヒロインたちを薔薇色の毎日を楽しみたい。
これまでは姫路渚だけにこだわってきたが、考え方が変わった。
姫路渚より先に、他のヒロインから攻略していこう。
「そうだ…そっちの方が手っ取り早い…ククク…」
姫路渚以外のヒロイン……たとえば月城円香や花村萌は初期から俺に対する好感度が圧倒的に高い。
俺がちょっとその気になれば簡単に家に連れ込むことができるだろう。
「俺があいつらを関係を深めれば……流石の姫路も黙ってないだろ」
そして俺が他のヒロインたちと関係を深めれば、姫路渚も黙っていないはずだ。
きっと他のヒロインたちに俺を取られたと思って嫉妬して、素直になれなかった自分の態度を悔いるに違いない。
姫路渚が俺の気を引くために冷たい態度をとったように、俺の方も姫路渚を嫉妬させるために他のヒロインたちとお近づきになればいい。
我ながらとんでもない名案じゃないか。
「さぁて……そうと決まったら誰にするか…」
俺は最初にどのヒロインに行くかを吟味する。
そして一番確実な選択肢を取ることにした。
「月城円香行っとくかぁ…ククク…」
俺はまず手始めに月城円香をモノにすることに決めた。
月城円香はいわゆる後輩ヒロインってやつだ。
かませ犬である月城真琴の妹で、毎日弁当を作ってくれるぐらいに俺が好きだ。
原作通りなら終盤で月城真琴と共に命を落とすことになるわけだが……まぁ本命じゃないのでそれはどうでもいいだろう。
とにかく大事なのは、月城円香が初期からほとんどマックスレベルで俺に対する好感度が高いことだ。
多分俺が誘えば簡単に家まで着いてくるだろう。
最近は俺に弁当を持ってくることは無くなったが、それは俺が一度断ったからだ。
きっと円香は今でも俺と関われるきっかけを探しているに違いない。
「見た目はあんまり好みじゃないが……まぁ抱けば女なんてほとんど変わらないだろ…」
俺は月城円香とヤるときのことを頭の中で想像し、悶々としながら午前の授業をやり過ごした。
キーンコーンカーンコーン。
「行くか…ククク…」
やがて午前の授業が終わり、昼休みになった。
俺は月城円香に会いに行くべく、席を立つ。
階段を降りて一年の教室へ。
月城円香は金髪碧眼の珍しい見た目をしているため、すぐに見つけることができた。
きっと俺の方からわざわざ一年の教室まで訪ねてきたと知ったら喜ぶに違いない。
「おい、円香。俺だ。きたぜ」
「…え?先輩?」
俺の顔を見て月城円香は首を傾げる。
もっと喜ぶかと思ったが表情は変わらない。
あまり感情が表に出ないタイプなのだろう。
「この間は悪かったな。お前の弁当について色々言って。俺も気が立っていたんだ」
「いえ、もう気にしていません。先輩は正しかったと思います。金輪際先輩に弁当を作ることはないので安心してください」
「いやいや、そこまでは言ってないって。お前の弁当をたまになら食べてやってもいい気分になってな。ちょうど今日がその日なんだ。
その弁当、俺の分なんだろ?」
円香の机の上には風呂敷に包まれた弁当箱らしきものがあった。
きっと俺に断られてからも俺の分を作って渡す機会を窺っていたに違いない。
「いえ、これは私の分とそれから兄さんの分です」
「は…?」
「もう金輪際先輩に弁当を作って迷惑をかけることはないので。それでは」
呆気に取られる俺を置いて、円香は立ち上がり教室を出ていこうとする。
「待て待て。どこに行くんだよ」
俺はそんな円香を引き止めた。
円香が一瞬表情を曇らせてから、言った。
「兄さんのところへ。弁当を届けに行くんです」
「真琴に弁当を届けるのか?必要ないだろ。前から思ってたが、あんなやつに円香ちゃんがそこまでしてやる義理はないんじゃないのか?」
「いえ、そういうわけにはいかないので」
「その弁当俺にくれよ。その方が円香ちゃん的にもいいでしょ?真琴には俺から言っておくからさ」
「意味がわかりません。これは兄さんの弁当です。先輩にはあげれません」
「おいおい、俺にそんな態度とっていいのか?」
「先輩…離してください」
「…!?」
円香が俺が掴んでいた手を無理やり振り払った。
「これは兄さんの分の弁当です。兄さんに早く弁当を届けなくてはいけません。今まで、弁当を押し付けてしまっていたのは謝ります。もうこれからは先輩に弁当を作ったり、関わったりすることもないので、安心してください」
「は…?」
「それでは」
円香が一礼して、それから逃げるように走っていった。
「…」
俺は一年の生徒に奇異の視線を向けられながら、呆然とそこに立ち尽くしてしまった。
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