第33話


「ちょっとぉお…今いいところなのに〜…誰なのよぉ…」


「あん?なんだこいつ…」


突如乱入してきた日比谷倫太郎に、解体屋と火炎使いが動きを止める。


日比谷倫太郎は全く警戒心の感じられない歩みで、こちらに近づいてくる。


「おいおい、俺のことまだ覚えてねーの?引き立て役のくせに主人公の名前も覚えてないとか生意気だぞ?」


「はー?何意味不明なこと言ってんのぉ……

本当にあんた誰なのよぉ…」


「おい解体屋。こいつあれじゃないか…?この間の魔術協会の時の…」


「あ〜…最後に入ってきたあの空気の読めない半端者ねぇ〜」


「おい、雑魚。一体こんなところに何をしにきた?まさかお前……姫路渚の仲間なの

か?」


解体屋と火炎使いが日比谷倫太郎に向かって殺気を放つ。


だが日比谷倫太郎は全く恐れる様子もなくさらに距離を詰めてくる。


そして距離数メートルというところまで接近して足を止め、私を指差して行った。


「やっぱり男としてさぁ?可愛い子が殺されそうになっていたら見過ごせないよね。だから助けにきたんだ。俺ってかっこいい?」


最後のセリフは私に向けて言ってくる日比谷倫太郎。


私はそのキザな仕草とセリフに心底吐き気を覚えたが、しかしこれは好機だと思った。


二人の注意が日比谷倫太郎に向いているうちに何か手を打たなければ。


「何言ってんの〜?…相変わらず空気が読めてないわねぇ〜…気持ちわるぅ…」


「おい解体屋。どうする?この雑魚から先にやるか?」


「あんたがやっちゃっていいわよぉ〜…こんな気持ち悪いやつ、コレクションにも加えたくないし〜…さっさと殺しちゃえば〜」


「そうだな。邪魔者は殺すか。どのみち目撃者を生かしておくつもりもない」


火炎使いが標準を私から日比谷倫太郎に定めた。


私は今しかないと思い、魔術を発動しようとするが……それを読んでいたかのように日比谷倫太郎が手で制してきた。


「まぁ待てよ、姫路」


「…?」


「俺に任せておけって。お前を救ってやるから」


相変わらず気持ち悪い笑みを浮かべながらそんなことを言った日比谷は、解体屋の方を向いた。


そして解体屋がずっと右手に持っている箱を指差した。


「おい、解体屋ぁ。俺は知ってるんだぜぇ?」


「はぁ〜?なんの話よぉ〜?」


「お前の弱点。魔核がどこにあるかをよぉ」


「…っ!?」


解体屋がビクッと体を震わせる。


日比谷倫太郎は見透かしたような笑みを浮かべながら、解体屋の箱を指差した。


「その中だろぉ?お前の魔核はよぉ…」


「…は、はぁ!?何バカなこと言ってんのぉ…!?そんなわけないでしょぉ…!?」


解体屋が焦り始める。


私は日比谷倫太郎が何を言っているのかわからなかった。


解体屋の魔核が箱の中にある?


一体どういう意味なのだろう。


「お前は手術で魔核を体外に移したんだ。いざとなった時に魔核を破壊されないようになぁ……けど、魔力の供給を受けなければいけないから常にその箱は肌身離さず持ち歩かなければならない……それがお前のカラクリだ。

つまり、魔核の入ったその箱がお前の弱点ってことだぁ!!」


「…!?!?!?」


日比谷倫太郎の言葉は私にとって意味をなさ

なかった。


魔核を体外に移植するなんて聞いたことがない。


本当にそんなことが可能なのだろうか。


私は解体屋を見る。


解体屋は不自然なほどに動揺していた。 


まるで日比谷に図星をつかれたみたいに挙動不審になっている。


その反応は、日比谷の言葉が正しかったことを示している証拠のように思えた。


一体どういうことだろう。


もし本当に解体屋の魔核が体外にあったとして、どうして日比谷倫太郎はそのことを看破できたのだろう。


私は混乱し、何も行動を起こせぬまま呆然としていた。


「な、何者なのよあんたはぁあああああああああああ!?!?」


解体屋が悲鳴のような声をあげる。


「こいつ…一体どうやって見破ったんだ…!?半端者の雑魚ではなかったのか…!?」


火炎使いも驚き、警戒するように日比谷倫太郎から距離を取り始める。


日比谷倫太郎はニヤニヤしながら、解体屋と火炎使いを交互に見た。


「お前らの弱点は全部お見通しなんだよぉ…!!!解体屋…!まずはお前からだ…!お前のその箱に入っている魔核を破壊してやるよ!そうすればお前は終わりだぁあ

あ!」


「いやあああああああ!?!?やめてぇええええええええええ!?!?」


解体屋が悲痛な叫び声を上げる。


「死ねぇええええ解体屋ぁああああああああああああ」


日比谷倫太郎が魔術を発動した。


「風の魔術第二階梯……辻斬」


斬ッ!!!


切断音が鳴り響いた。


「ぎゃああああああああああああ」


解体屋が猛烈な悲鳴をあげて、地面に倒れる。


「解体屋ぁああ!?」


火炎使いが解体屋の元に駆け寄る。


「ぐ…痛ったいわねこの小僧ぉおおおおおおおおおお!!!」


解体屋が起き上がり、胸を抑えながら血走った目で日比谷倫太郎を見つめる。


「え…あれ?俺今魔法使ったよな…?」


日比谷倫太郎が起き上がった解体屋を見て首を傾げた。


「あれ…?あれぇ…原作では一撃で倒していたはず…なんでだぁ…あるぇええええ?」


意味不明なことを呟きながら、首を傾げている日比谷倫太郎。


解体屋が火炎使いに支えられながら起き上がった。


「お、おい…なんで起き上がれる…?俺はお前の魔核を攻撃したよな…?」


ずっと余裕そうな笑みを浮かべていた日比谷が初めて動揺の色を見せた。


信じられないと言った調子で、解体屋を見ている。


解体屋が、血走った目で日比谷倫太郎を睨みつける。


「あんなチンケな魔法で私の魔核が破壊されるはずないだろうがぁあああああ死ぬほど痛かったけどなぁああああああああ」


「ひぃ!?」


ブチギレた解体屋に、日比谷倫太郎が小さな悲鳴を漏らす。


「お前は許さん……絶対苦しめて殺してやるぅううううう……雑魚の分際で私の魔核に攻撃しやがってぇえええええ」


「おいおいおいおい!?話がちげーぞ!?なんで倒せねぇんだよ!?一撃で倒せるはずだろ!?俺は主人公だぞ、どうなってる…!?」


「何ぶつぶつ意味わかんねーこと言ってんだ

よ…殺してやる…私のハサミで切り刻んでやるぅうううう」


シャキシャキシャキシャキシャキシャキ…!


「…っ!?」


解体屋がハサミを手に襲いかかる。


日比谷倫太郎は一瞬私のことを見た後、すぐに視線を逸らし、踵を返して一目散に逃げ出した。


「てめぇ逃げんじゃねぇえええええええええええええええ女助けんじゃなかったのかこの嘘つきがああああああああ」


解体屋が逃げる日比谷倫太郎を追いかける。


「やれやれ……解体屋の魔核の位置がバレたのにはビビったが……魔術師として未熟だったのが幸いしたな……」


「…」


「ま、あいつが戻ってくるまで待つのも面倒だ。すまんな、姫路渚。せめて苦しませずに殺してやるよ。あいつに生きたまま切り刻まれるよりいいだろ?」


火炎使いが私の頭に狙いを定める。


今度こそ終わりだ。


私は死を覚悟して目を閉じた。


次の瞬間…


「ギャァアアアアアアアアア!?!?」


断末魔の悲鳴が響き渡った。


それは解体屋の悲鳴だった。


「解体屋!?ちくしょう、今度はなんだ…!」


暗闇の向こうから、一つの影が近づいてくる。


いるはずのない人物がそこに立っていた。


「月城…真琴…?どうしてここに…」


「よお、姫路。助けに来たぜ」


月城真琴が、月明かりに照らされて不敵な笑みを浮かべていた。


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