第32話


「火の魔術第二階梯……火弾」 


「土の魔術第三階梯……土人形」


火炎使いと解体屋がそれぞれの魔術を発動させ、一気に襲いかかってくる。


出し惜しみをしている場合ではなかった。 


私はすぐさま魔術を発動し、二人の攻撃に対抗する。


「白の魔術第二階梯……天壁」


光の壁が出現し、目前まで迫っていた火炎の弾丸を防いだ。


バァン!


衝突音と共に火炎の弾丸が砕け散り、夜の闇を真っ赤に照らす。


「ほう…やるな…」


「流石は姫路家の魔術師ねぇ……土人形ちゃん、行きなさい…!」


火炎の弾丸をなんとか防いだのも束の間、解体屋が生み出した土人形が私に襲いかかってくる。


「白の魔術第三階梯……聖剣」


私は第二の魔術を発動した。


私の手に魔力が結集し、剣の形をとる。


「はああ!!!」


こちらに迫り来る泥人形を気合いの声と共に権限した聖剣で切り裂いた。


ズバッ!!!


土人形の防御よりも聖剣の切断力が勝り、泥人形は胴体のところで二つに引き裂かれた。


『ヴォォオオオ…』


土人形は奇妙な鳴き声をあげ、ボロボロと形を崩した。


そのまま元の土へと戻っていく。


「私の泥人形ちゃんが…!?」


解体屋が悲痛な叫びをあげる。


「狼狽えるな解体屋!!」


「た、助けて…火炎使い…!」


私は聖剣を手にして一気に解体屋に距離を詰める。


「火の魔術第二階梯……火弾」


背後から火炎使いの弾丸が再び襲いかかってくる。


「白の魔術第二階梯……天壁」


だが私はすぐに防御の魔術を発動して弾丸を防いだ。


「なっ!?冗談だろ!?魔術の同時展開だと!?」


「きゃあああああっ!?こっちにくるぅうううううう!?」


「逃げろ解体屋…!」


火炎使いの援護を無効化され、無防備となっ

た解体屋の間合いに私は一気に踏み込む。


解体屋は悲鳴をあげて、絶望の表情を浮かべた。


私は手にした聖剣を容赦なく解体屋の魔核へと突き立てた。


魔術師を殺すには魔核を破壊するのが一番手っ取り早い。


私の聖剣は深々と解体屋の体の中心……魔核の部分へと突き刺さり、そのまま魔力の根幹ごと破壊した………はずだった。


「うふふ…うふふふふふ」


「…!?どういうこと!?」


確かに魔核を破壊したはずなのに、解体屋は全くダメージを受けた様子がなかった。


解体屋は不気味な笑みを浮かべ、ペロリとしたを出す。


「…っ」


危機を察知した私は、後ろに飛び退いて距離を取ろうとする。


だがそれよりも先に、右肩に突き刺すような痛みを感じた。


「あっ!?」


火炎使いの放った弾丸が自分の右肩を貫通したのだと分かった。


私は聖剣を取り落とし、地面に膝をついてしまう。


「うふふふ…あははははあはは。残念でした、姫路渚ちゃーん」


「くくく。作戦通りだなぁ、解体屋ぁ」


解体屋と火炎使いが笑いながら、前後から距離を詰めてくる。


私は痛みで飛びそうになる意識をなんとか保ちながら、前方の解体屋を睨みつけた。


「何をしたの…!私は確かにあなたの魔核を破壊したはず…」


「残念だけど…私の魔核はここにはないのぉ」


解体屋がニヤニヤ笑いながら私の聖剣が貫いた部分を指差した。


「どういうこと…?魔術師なら誰しもが体の中心に魔核を持っているはず…」


「そうねぇ…でも私は例外なの。手術で、魔核を別の場所に移植したから。うふふふふ」


「…っ」


そんなことが可能だとは知らなかった。


まさか魔核を移植する技術があるなんて。


解体屋はピンチを装い、私を誘い込んだ。


そして背後から火炎使いに私を狙わせた。


私はまんまと解体屋の仕掛けた罠に入り込んでしまったのだ。


撃ち抜かれた肩口からは血が流れ続けている。


火炎使いの魔術は、規模は小さいながら魔力の密度が高く、実体化して現実に干渉できるほどの力を持っている。


骨が完全に砕かれてしまった私の右肩は、まるで本物の弾丸で撃ち抜かれたかのように重症だった。


とにかく回復しなければ…


「し、白の魔術第二階梯」


「おっと、待て待て小娘。魔術を使ったら今度はお前の頭を撃ち抜くぞ」


火炎使いが距離を詰め、私の頭に右手の先を当てた。


私が少しでも動けば、たちまち弾丸によって頭が撃ち抜かれ、私は死んでしまうだろう。


身動きを封じられた私は、治癒の魔術を使うことが出来ず、絶望する。


「さて、こいつをどうする解体屋?」


「そうねぇ……まずは生きたままその綺麗な手足をバラバラにしてぇ……コレクションにするのぉ……殺しちゃダメよぉ?私は生きた人間からとった新鮮な手足が欲しいんだから…」


「俺にはお前の趣味は理解できん。だが、今は共闘関係にある。まぁ、好きにするといい

さ」


「うふふふ……さあて、始めましょうかぁ…」


解体屋が懐から鋏を取り出し、チョキチョキと動かす。


「このハサミは切れ味抜群よぉ……きっとあなたの細くて可愛らしい腕なんてすぐ切り落とせるわぁ…」


「動くなよ、姫路渚。俺がいることを忘れるな」


「…っ」


おしまいだ。


私にはもうどうすることもできない。


火炎使いが私に照準を定めている以上、魔術を使うこともできない。


魔術を封じられた魔術師は無力だ。


私は自身の敗北、そして死を悟り、目を閉じた。


迫り来る死に恐怖しながら思い浮かんだのはなぜか月城真琴の顔だった。


どうしてここであんなやつが出てくるのよ。


まさか私はどこかであいつが助けに来るのを期待しているのだろうか。


だとしたら愚かだと言わざるを得ない。


月城がこんなところにいるはずがない。


ずっと他人との関わりを避けて一人で生きてきた私を助けてくれる人なんて誰もいないのだ。


「さ…いくわよぉ…ショック死しちゃダメだからねぇ、姫路渚ちゃーん」


解体屋のひんやりと冷たいハサミが腕にあてがわれた。


次の瞬間に訪れる激痛を覚悟し、私は体をこわばらせる。


その時だった。


「おいおい、ちょっと待てよお前ら。何俺の女に乱暴しようとしてんだ?」


深夜のグラウンドに場違いな声が響いた。


私は目を開けて、声のした方を振り返る。


「…どうして…あなたがここに…?」


「へへへ、姫路〜?助けに来たぞ〜?」


軽薄な笑みを浮かべてそこに立っていたのは、私が今最も軽蔑している男、日比谷倫太郎だった。

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