第31話
「姫路渚は大丈夫なのだろうか…」
とうとうこの日がやってきてしまった。
夕刻。
俺は自室の窓から広い屋敷の庭を見下ろしながら、そんな呟きを漏らした。
魔術大戦が始まってから1週間ばかりが経過している。
今日まで、まだ俺の周りで大きな動きはない。
日比谷倫太郎や姫路渚は相変わらず学校に来ているし、俺も二人以外の魔術師と出会ったりはしていない。
一応ここまではシナリオ通りになっているとはいえる。
俺は、円香の安全に気をつけつつ、今日まで闇魔術の修行に明け暮れていた。
力は着実に着いてきている。
やはり月城真琴というキャラクターのポテンシャルは目を見張るものがある。
本当になんでこいつは原作で少しも努力をしなかったんだとそんなことを思う。
少しでも努力をしていたらおそらく日比谷倫太郎など簡単に超越してしまっただろう。
それだけの力が、月城家に受け継がれる闇魔法にはあった。
目下のところ俺の目標は、そのチート級の闇魔法を最大限に強化することだ。
そしてその目標は今日までの努力のおかげで達成されつつある。
寝不足になりながら深夜魍魎退治に明け暮れた甲斐があった。
そのおかげで現在の俺は、よほどのことがない限りは自分の身とそれから円香の身を守れるという力は手にしていた。
「あいつ…ちゃんと姫路を助けに行くんだよな…」
時刻は日が沈んで間もない頃。
いつもならこの時間にはもうすでに魍魎退治の修行のために家を後にしているのだが、今日は事情が違った。
今日は原作通りなら、魔術大戦に非常に大きな動きがある日だ。
主役になる人物は2名。
姫路渚と、日比谷倫太郎の二人だ。
「今頃姫路は学校に向かっている頃か…」
これから起こることのおおまかな流れはこんな感じだ。
まず魔術大戦に参加しているある魔術師が姫路渚に挑戦状を送る。
その挑戦状というのは早い話が一騎打ちをしたいので一人で夜の学校にこいというものだ。
自分の力を試すために魔術大戦に参加している戦闘狂の姫路渚は、罠である可能性を知りながら、この挑戦を受け、たった一人で学校へ向かう。
だが姫路渚を夜の学校で待ち受けているのは二人の魔術師だ。
彼らは魔術の名門である姫路渚を確実に倒すために手を組み、二人で姫路渚を倒そうとする。
罠にかかった姫路渚は、なんとか健闘するも、最後には敗れ、命の危機に陥る。
そして忘れ物をとりに学校へ引き返してきた日比谷倫太郎に救われる。
その後二人の距離は一気に縮まり、二人は共闘関係を結ぶ。
これがおおまかに今夜起こることの流れだった。
つまり順当に行けば、姫路渚は日比谷倫太郎に救われて死ぬことはない。
俺としてもその方が望ましい。
姫路渚を罠にかける二人の魔術師は、どっちも魔術王にしては行けないやばい思想の持ち主であり、そんな2名が日比谷と姫路によって倒されるのなら俺としても都合がいい。
だが不安だ。
日比谷倫太郎の行動はもはや俺には全く予想がつかない。
あいつが今日本当に姫路渚を助けに行くのか、俺には自信がなかった。
「見に行ってみるか…」
姫路渚がもし二人の魔術師に殺されるようなことになれば、ますます魔術大戦がコントロール不可能なものになる。
姫路渚は、俺のことを嫌悪し、敵対視してはいるが、魔術大戦に参加している魔術師の中では圧倒的に良心的な方だ。
他の魔術師たちは、ほとんどが人間の命などどうなってもいいと思っている倫理観の壊れた連中ばかりで、そんな奴に魔術王の座が渡るのはまさしく悪夢だ。
だからできることなら俺は姫路渚には、なるべく長く生き延びてほしいというのが俺の本音だった。
「ったく…本当に手のかかる主人公だな…」
俺はもう何度目になるかわからない日比谷に対する愚痴を溢しながら外出の準備を整えた。
「行ってくるぞ、円香」
屋敷の周りにそう簡単には破られない結界を貼っておき、そっと抜け出す。
そして月光に照らされた夜道を、学校目指して歩いたのだった。
しんと静まり返った夜道を、私は学校へ向かって歩いていた。
つい数時間前、家の門の前に置かれていた魔術刻印つきの手紙の内容を頭の中で反芻する。
“今夜、椚ヶ丘学校の校庭で待つ”
手紙には筆跡のわからないよう切りはりした文字で、そんなことが書かれてあった。
それはどう見ても魔術師からの果し状だった。
魔術大戦が始まって1週間、今日まで特に大きな動きはなくて退屈していたが、とうとう私に正面から仕掛けてくる魔術師が現れたらしい。
『受けてたとうじゃない…』
もちろんこれが罠という可能性もある。
だがここで逃げていては名門姫路家の名前が立たない。
それに私は、どんな罠が仕掛けられていようとそれを乗り越えて必ず勝利できると確信していた。
だからこうして一人で夜の学校へ向かっている。
この先でどんな魔術師が待ち構えているのかはわからない。
どんな罠があるのかも定かではないが、必ず勝利して私は自分が姫路家の後継者に相応しいことを証明する。
そんな決意を胸に私は夜の学校へ向けて足を
早めていた。
「はっ…そういうことね」
学校の周りには全くと言っていいほど人気がなかった。
夜というのもあるのだろうが……おそらく人払いの結界が既に敷いてあるのだろう。
「白魔術第一階梯……強化」
私は校門を飛び越えて学校の敷地へと降り立った。
グラウンドの中央に人影が見える。
微かな魔力の気配。
どうやらあれが私に挑戦状を出した魔術師で間違いなさそうだ。
私は姿を隠すこともなくその人影に向かって歩いて行った。
「きたわねぇ…!姫路渚…!ウフフフフ…」
近づくにつれてだんだんと人影の姿が露わになる。
「解体屋……あなただったのね」
「ウフフ…あえて光栄よ、姫路渚ちゃん」
月明かりに照らされて気味の悪い笑みを浮かべていたのは全身ツギハギの青白い肌をした女だった。
解体屋。
そう呼ばれている魔術師だ。
魔力の気配は微弱で、右手に何かはこのようなものを手にしていた。
相対して見て、私は特に恐れを感じなかった。
確実に勝てる。
そんな確信が宿った。
「ここに私を呼び出したのは、私と戦いたいからってことでいいのよね?解体屋?」
「そうよぉ…ウフフフフ。姫路渚ちゃん。噂に違わず本当に可愛いわねぇ……早く解体して私のコレクションに加えたい…」
「あなたの趣味の悪いコレクションに私が加わることはないわ。なぜなら勝つのは私だもの」
「ウフフ…それはどうかしらぁ…?出てきなさい、火炎使い」
「よぉ、姫路渚。こんばんは」
「…!?」
私は目を見開いた。
解体屋の背後の暗闇から、もう一つの影が姿を見せた。
火炎使い。
そう呼ばれている魔術師だ。
「火炎使い…なぜあなたがここに?」
「俺のことを知っているのか?光栄だねぇ」
「ウフフフフ…私たち手を組んだのよぉ…あなたを倒すために…」
私は罠にかけられたことを知った。
「卑怯者……」
「ウフフフ…なんとでもいいなさぁい…罠にかかるやつがバカなのよぉ…」
「すまんなぁ、姫路渚。そういうことだ。姫路家の魔術は厄介だからな。二人がかりでいかせてもらうぜ」
「…有象無象がいくら束になったからといって同じことよ。二人まとめて倒してあげるわ」
狼狽える心を私は落ち着ける。
罠の可能性は最初から予測していた。
落ち着いて戦えば、私なら二人相手でも倒せるはずだ。
私は戦う覚悟を決めた。
魔力の気配が解体屋と火炎使いに集まる。
私の魔術大戦の初陣が始まろうとしていた。
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