第30話
魔術大戦の開会式に顔を出してから、俺は毎日をダラダラと過ごしていた。
楽なもんだ。
俺が自ら動かなくともこの世界が勝手に修正
されて俺の都合のいいように書き換わることがわかってから、俺は無駄な行動を起こすことをやめた。
どうせ家でふんぞり帰ってたって魔術大戦は俺が勝利するようにできている。
なぜなら俺はこの物語の主人公。
主人公不在の物語なんて成立しない。
この世界は俺を中心に回っている。
ゆえに俺がどのような行動を取ろうとも、全てが俺の都合のいいように作用する。
そうなるようにできているのだ。
「姫路をモノにするのが待ち遠しいなぁ…ククク…」
何もしなくても魔術大戦に勝てることはわかっているのだが、ずっと家に引きこもっているのも暇なので一応俺は毎日学校に通ってい
る。
その理由のほとんどが姫路渚を見るためだ。
俺が真っ先にモノにしたいと考えている姫路渚は、いまだに学校で俺に冷たく接してくる。
どうやらまだ俺の気を引くためにお芝居を続けているらしい。
最近だとあの月城真琴と並んで廊下を歩いていたなんて噂も耳にした。
どうやら姫路渚は、月城真琴を使ってまで俺
を嫉妬させたいらしい。
月城真琴はかませ犬であり、姫路渚は月城真琴のことを心底嫌っているので、二人が並んで廊下を歩いていたという噂を耳にしても俺は少しも心配にならなかった。
これは姫路渚が俺を嫉妬させるためにしていることだと理解できた。
なぜなら俺は主人公で姫路渚は俺のために用意されたヒロインだからだ。
ヒロインが主人公以外の男を好きになるなんてあり得ない。
だから全ては姫路渚が俺の気を引くためにわざとやっていることなのだ。
「いじらしいねぇ…姫路渚。だが、もうすぐお前は嫌でも俺に対する気持ちを認めなくちゃならなくなるぜ」
姫路渚がどんなに俺に対する好意を隠そうとしてもそれはいずれバレることだ。
もうすぐ“あのイベント”がやってくる。
姫路渚が主人公である日比谷倫太郎に心底惚れ込むきっかけになる“あのイベント”だ。
姫路渚はそのイベントが終われば、もう俺に対する好意を隠そうともしなくなるだろう。
なぜなら俺が姫路渚の命の危機を救うことになるのだから。
「一応少しは魔術の練習をしておくか…?いや、必要ないな」
その日のために、魔術の練習を少しはしておいた方がいいかとも思ったがやめておいた。
俺がどんな行動を取ろうと世界の修正が働くわけだし、何より俺には原作知識がある。
敵の弱点は全てお見通しなのだ。
負けるはずがない。
主人公の俺は修行などという面倒臭いことはする必要がない。
ただ楽して流れに身を任せておけばいいのだ。
「はぁ…本当に鬱陶しいわね、あの男。魔術大戦は始まったわけだし先に殺してしまおうかしら…」
私はとても苛立ちながら帰宅の途についていた。
苛立ちの原因は言わずもがな日比谷倫太郎だった。
いつ頃からだろうか、日比谷倫太郎に対してこのような嫌悪を抱くようになったのは。
前はこんな感情はあの男に対して覚えたことはなかった。
自分の身を犠牲にして損な役回りばかりを演じているバカな男だとは思っていたが、軽蔑まではしていなかった。
だが、最近では私は日比谷倫太郎のことを徹底的に軽蔑するようになった。
やはり日比谷倫太郎という男も、打算で動いていただけの俗物だったのだ。
以前は月城真琴に感じていた嫌悪を、今は日比谷倫太郎に感じるようになっていた。
何を勘違いしたのか、日比谷倫太郎はしょっちゅう私にスキンシップをとってくるようになった。
私はそれが鬱陶しくてはっきりと拒絶の意思を示しているのだが、日比谷倫太郎は懲りることもなく毎日付き纏ってくる。
最近ではむしろ月城真琴の方が私にとってマシな存在だ。
以前のようにダル絡みしてくるようなことが最近ではほとんどなくなったし、花村さんのこともある。
最近の月城真琴の行動を見ていると、以前なら信じられないことだが、そんなに悪い人間でもないような気がしてきていた。
そして月城真琴に対して感じていた嫌悪、軽蔑を今は日比谷倫太郎に対して感じている。
日比谷倫太郎のスキンシップは、日に日にエスカレートしていた。
ついさっきは、校門の近くで手を繋ごうとしてきた。
突然背後から手を握られ、指を絡められた時には本当にゾッとした。
殺してやろうかと思った。
『離して!!私に近づかないで!!』
私がはっきりとそう拒絶すると、日比谷倫太郎はまるで「全てわかっているぞ」みたいな顔でニヤニヤするだけだった。
その笑顔を私は心底気持ちが悪いと思った。
「今は大事な時だっていうのに…本当に気分を害されるわ…」
私はため息を吐いた。
本当なら日比谷倫太郎を殺してやりたい気分だった。
あいつだって半端者ながら魔術大戦の参加者なわけだし、大義名分はある。
生かしておいてやっているのは、あんな雑魚私が手を下さなくてもそのうち勝手に死ぬからという理由に過ぎない。
でも、これ以上付き纏ってくるようなら本当に殺してしまってもいいかもしれない。
「はぁ…」
そんなことを考えていたら家に着いた。
私は家の周りに敷いてある結界魔術が壊されていないことを確認してから、家の中に入ろうとする。
「…?何かしら」
門の前に、何かが落ちているのを発見した。
その封筒のようなものの中心には、魔術師にしか見えない印……魔術刻印が刻まれていた。
魔術協会からの新たな知らせだろうか。
私は罠がないことを確かめてから恐る恐るその封筒を開いてみる。
「…!」
そこに書かれてあった内容に目を通した私は、大きく目を見開いた。
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