第25話


「おい、日比谷。ちょっと来い、話がある」


「なんだよ、月城」


花村萌を放置し始めてから三日。


月城が俺のところへやってきた。


険悪な表情で、かなり怒っているようだった。


十中八九、姫路渚に関することだろうなと思

った。


どうせプライドの高いこいつのことだから、俺が姫路渚といちゃついているのを見て我慢できなくなって何か負け惜しみのようなことを言いにきたのだろう。


姫路渚同様魔術師の貴族の名門出身であるこいつは、それをいいことに姫路渚に釣り合うのは自分しかいないと思っている異常者だからな。


だから、自分が将来結婚する相手だと思っている姫路渚が、俺と親しくしているのを見ると我慢ならないわけだ。


本当に哀れなやつだよな。


この世界の主人公は俺で、姫路渚はいずれ俺と結婚することになるとも知らずに。


「花村萌が行方不明になったことは知っているか?」


と、思っていたのだが、どういうわけか、月城真琴が尋ねてきたのは花村萌のことだった。


意味がわからない。


どうしてこいつが花村のことを?


「ああ、知っている」


「…心配じゃないのか?」


「別に」


俺が花村に関して正直に答えると、月城は驚いているようだった。


なぜそのような反応になるのかはわからないが、俺は本当に花村のことなんてどうでも良かった。


あいつを助けるために辛い思いや苦しい思い

をしたくないという考え方は、現在も全く変わっていなかった。


「…!?どういうことだ…!?」


「何がだよ」


心底驚いた表情の月城を俺は鬱陶しいと思ってしまった。


一体なんの演技だこれは。


お前だって花村のことなんてどうだっていいだろう。


俺とお前は同じ剣道部だが、原作でもお前は花村が行方不明になった時もなんとも思っていないような反応をしていたじゃないか。


まさかこいつ、優しいふりをして姫路渚の気でも引こうとしているんじゃないだろうな。


俺みたいにお人好しムーブをすれば姫路渚の

気を引けると?


残念だったな。


姫路渚はすでに俺のことが好きなんだ。


お前みたいな引き立て役のかませ犬になんて、あいつはどうやったって振り向かないぜ?


「花村は俺たちと同じ剣道部だろう?お前の友人でもあったはずだ。行方不明になって捜索届も出されているのに、心配ではないのか?」


「あー、そういえばあいつとはそういう感じだったか」


俺は見え見えの月城の魂胆に、白けた返事を返す。


「友達が行方不明になったんだ。探そうとは思わないのか?」 


「探す?そんなことしてなんになる?」


お前も探す気なんてないくせにそんなこと言

ってんじゃねーよ。


今更お人よしムーブなんかしても意味ないぜ?


お前は俺の引き立て役でしかないし、すでに徹底的に姫路に嫌われているだろうからな。


「…!?」


「俺が探しても大して意味はないだろ?警察が探しているっていうんだからそれでいいじゃないか」


俺がそういうと月城真琴はなんのつもりか、まじまじと俺を上から下まで見てから、首を傾げて去っていってしまった。




その翌日。


攫われたはずの花村萌が学校にやってきた。


どうやら誰かによって助けられたらしい。


「やっぱりな」 


俺は自分の予想が当たっていたことを知った。


予想していた通り、世界の修正力が働いたらしいな。


俺が動かなくても、花村萌は助かった。


俺の都合がいいように世界が書きかわって、俺が辛い思いや痛い思いをしなくとも、シナリオが動いたのだ。


「馬鹿正直にあいつを探しにいったりしなくて本当に良かったぜ」


もし物語の中の日比谷倫太郎みたいにバカみたいに夜の街を駆けずり回ったら、魂喰いと戦うことになり、瀕死になって痛い思いをするところだった。


けど、賢い俺はそんなことをせずに、このイベントをパスすることができた。


「これからはこんな感じで行くか…」 


俺は今回のことでとても大切なことを学んだ。


それえは面倒くさかったり辛かったりするイベントはスキップしたとしても世界の修正力が働いて、勝手に俺に都合のいいようにシナリオが書き変わるってことだ。


俺はバカみたいに辛かったり痛かったりする戦いやイベントは避けて、なるべく楽なイベントやヒロインとの絡みの時にだけ動けばいい。


それでも物語は勝手に世界の修正力よって修正され進んでく。


この世界は最後には必ず主人公である俺が幸せになるようにできているのだ。 


魔術大戦だって、放っておいても俺が最後まで生き残り、姫路渚と結婚するように物語が修正されていくことだろう。


なんか花村萌と月城真琴が以前に比べて親しげにしているように見えるが、きっと月城真琴がいい人ムーブをして花村萌を騙しているんだろう。


お前のことを心配してずっと毎晩夜の街を探していたとでも嘯いたのか?


まぁいい。


花村萌は正直どうでもいいし、ちょっと月城真琴と遊ばせてやるぐらいのことは許してやろう。


どうせ俺の方から声をかければ、花村萌なんてすぐに落とせるだろうし、俺は姫路渚を落とすことに注力するとするか。


「いやー、主人公は楽でいいなぁ…クックック…」


頭の後ろで腕を組みながら、俺はそんな呟きを漏らした。


えーっと、それで次のイベントは……


ああ、そうか。


あれか。


魔術大戦の開会式。


確か郊外にある廃教会で行われるんだったな。


面倒臭いならこのイベントもスキップしても別に構わないが……ちょっと顔出してみるか。


別にこのイベントは戦いとかもないし、どう足掻いても俺に負けることになるバカな魔術師たちの顔を拝みにいくのも一興だ。


魔術大戦では、魔術王の地位を得るために、全世界から最強の魔術師たちが集まる。


だが、連中がどんなに強く立ってなんの意味もない。


結局はこの世界は、主人公である俺が勝つようにできているからだ。


俺のことを半端な魔術師だと舐めてかかっている連中が、敗北し、絶望の表情を浮かべるのをみるのが今から楽しみだなぁ。


ククク…はははははははは。



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