第24話
「ほら、姫路。また俺と肩組もうぜ」
「離しなさい」
「あ?どうしたんだよ」
「いいから離してっ」
「…?なんだよ。何か俺が悪いことしたか?」
ツカツカと歩いていく姫路渚の後ろ姿を俺は首を傾げて眺める。
なんか最近あいつ、俺に対して冷たくないか?
今朝も校門のところで姫路と肩を組んでみんなに見せつけてやろうとしたのに、あいつは拒絶してきた。
そして今、昼休みにたまたま姫路を見かけたんで肩を組んで一緒に昼食でも食べようと思ったのにまた断られてしまった。
ヒロインが主人公に取るとは思えない態度だ。
なぜだ。
確かに姫路渚は、他のヒロインとは違い、初期から主人公に対する好感度が高いヒロインじゃない、
でも初期から好感度が全くないわけじゃなく、ウザ絡みしてくる月城から助けてくれる俺に対して、若干の好意はすでに抱き始めているはずだ。
だから肩を組むぐらいのスキンシップは現時点で問題ないと思ってたんだがな…
「ああ、そうか。そういうことか…ククク…」
色々考えた末に、俺は姫路渚の思惑に気づき、思わずニヤリとしてしまった。
「あいつ、わざと俺にそっけない態度をとって俺の気を引こうとしてるな?」
きっとそうだ。
そうに違いない。
あいつはきっと俺のことがすでにかなり好きになっていて、でも俺の気を引くためにわざと俺にそっけない態度をとっているのだろう。
姫路渚の性格的にも、きっと自分から積極的にいく感じてはないはずだ。
きっとわざとそっけない態度をとって引いて見せて、俺に追ってきて欲しいんだろう。
女の心境ってのはそういうものだ。
「ったく、素直じゃないなぁ…ククク…」
俺は不器用な姫路のやり方に苦笑しながら、あいつの望み通り、これからも姫路渚にスキンシップをとり続けてやることにした。
きっと俺から姫路に絡み続ければ、そのうちデレて本音を明かすだろう。
「姫路渚攻略、これは思いの外早くできるかもなぁ…」
メインヒロインにして俺の1番のターゲットである姫路渚をものにできる時期が早まったと確信した俺は、ニヤケを隠せなかった。
「隣のクラスの花村萌さんが行方不明です。すでに警察に捜索届が出されていますが、まだ見つかっていません。何か情報を持っている人は、先生のところに教えにきてください」
花村萌が行方不明だと担任教師が告げた時、クラスメイトの奴らは驚いていたが、俺は驚かなかった。
原作知識がある俺は、この世界で何が起こるのか全て知っている。
「始まったかぁ…あのだるいイベント…」
俺はため息をついた。
これはいわゆるイベントってやつだ。
花村萌の行方不明事件。
このイベントは主人公である日比谷倫太郎が、魔術に目覚め、魔術大戦の存在を知るきっかけになる出来事だ。
花村萌を誘拐したのは、最近この街で多発している連続誘拐事件の犯人である魂喰いっていう魔術師だ。
こいつは魔術師の敵である魍魎を使って戦闘力を上げるタイプの魔術師で、魍魎を飼い慣らすために人間を餌にするのだ。
花村萌が捉えられたのも魍魎の餌とするためだ。
魍魎の餌になり、その心を食われ続けた人間は、自我を失い廃人みたいになってしまう。
「どうすっかなぁ…」
俺は頭の後ろで手を組んで、自分の取るべき行動を考えた。
シナリオ通りに進むなら、俺は花村萌を探すために、夜の街を駆けずり回らなくちゃいけない。
日比谷倫太郎は、行方不明になった同じ剣道部の花村萌のことが心配で夜の街をたった一人で、ひたすら駆け回る。
そしてとうとう、花村萌を攫った魂喰いと邂
逅を果たすのだ。
魂喰いは、日比谷を魍魎の餌とするべく攫おうとする。
抵抗する過程で日比谷は魔術師としての力に目覚める。
日比谷は、魍魎使いの攻撃をしばらく耐える。
血だらけになりながらそれでも食らいついているうちに、たまたま近くを通りかかった姫路渚が助けにくる。
二人は協力して魂喰いを倒し、俺は姫路渚が魔術師であること、自分にも魔術師の才能があること、そして魔術大戦について知らされる。
魂喰いを倒した二人はその後、魂喰いから聞き出した場所へ向かい、花村萌とそのほかに捉えられていた人々を助け出す。
命懸けで助けにきた俺に、元から好感度の高い花村萌はますます俺に対する愛を深め、姫路渚も俺に一目おき、気になるようになっていく。
要はそんな感じのイベントなのだ。
「面倒臭いなぁ…俺、痛いのとか辛いのとか苦手なんだよなぁ…」
シナリオ通りに物事を進めたいのなら、俺は夜に、花村萌を探して走り回らなくてはならない。
でもそれが億劫に感じてしまう。
はっきり言って花村萌は俺にとってどうでもいいヒロインだ。
キャラデザもあんまり好きじゃないし、好み
の性格でもない。
そりゃあギャルゲーのヒロインだから容姿は可愛いんだろう。
だけど俺には花村以外にも可愛いヒロインがたくさん用意されている。
別に花村がいようがいまいが俺にとっては正直どうでもいいのだ。
「魂喰いと戦うのも面倒だしなぁ…」
魂喰いと戦うということは死闘を演じるということだ。
姫路渚が助けに来るまで、俺は死にかけながらなんとか魂喰いに抵抗しなければならない。
それも正直言って気が引ける原因だった。
俺は痛いのとか苦手なのだ。
出来ることなら楽してイベントを進めたいし、ヒロインをゲットしたい。
花村萌みたいな対して好きでもないヒロインを助けるために、痛い思いをしたくない。
「面倒だし、放っておいてもいいかなぁ…」
色々考えた末に、俺は花村萌を見捨てることにした。
花村萌を見捨てたところで特に今後に影響はないと思ったからだ。
このイベントは、日比谷倫太郎が自分に魔術師の素養があると気づくきっかけになるイベントだ。
でも、原作知識のある俺はすでに自分が魔術師であることを知っている。
姫路渚が魔術師であることも知っているし、魔術大戦がいつどこで始まるかも知っている。
花村萌はどうでもいいし、姫路渚の好感度も現時点ですでに、わざとそっけない態度をとって俺の気を引こうとしているぐらいには十分に高い。
だから俺にとってこのイベントの必要性って正直低いんだよな。
「魂喰いは生き残ることになるけど……まぁ、そこはどうにかなるだろ」
唯一の懸念は本来なら死ぬはずの魂喰いが生き残ることになることだが、それも俺はどうにかなると思っていた。
なんていうか世界の修正力?みたいなのが働いていなんやかんやどうにかなると思っていた。
きっと魂喰いが生き残っても、世界の修正力が働いて、その後の展開は俺に都合のいいように改変されるだろう。
それに魔術大戦が始まる前から魔術師とバトルするってよく考えたら悪手もいいところだよな。
普通に他の魔術師ば潰し合うのを待てばいいだけだし。
「決まりだな。俺は動かない。動く必要がないからだ」
自分の方針が決まった俺は、いい気分だった。
花村萌はきっと今頃魍魎に喰われて自我を失いつつあるだろうが、俺の知ったことではない。
それに自我を失っても肉体的には一応生きているわけだし、あいつにとってそれほど悪いことでもないだろ。
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