第23話
「ククク……月城のやつ…きっと今頃死ぬほど悔しがってるだろうなぁ…」
姫路とともに校舎の中へ入った俺は、姫路と別れ、教室へと歩きながら誰にも聞かれないようにそう呟いた。
姫路にことが好きで、一生懸命付き纏っても
見向きもされない月城の前で姫路と肩を組み、歩くのは優越感に浸れて最高だった。
主人公特権を存分に行使して月城に俺と姫路の中を見せつけるのは本当に気持ちがいい。
姫路はなぜか校舎に入るなりスタスタと歩いて行ってしまったが……きっと照れているんだろう。
ヒロインである姫路は、主人公である俺とスキンシップができて嬉しかったはずだ。
「さて……教室へ行くか…」
俺は今一度主人公である日比谷倫太郎に転生できた喜びを噛み締めながら教室へと向かった。
もし日比谷じゃなくて月城というかませ犬なんかに転生したら目も当てられなかったな。
転生先が主人公で本当に良かったぜ。
「日比谷先輩…これ。あの、お弁当、持ってきました」
「あ?」
退屈な授業を終えて昼休み。
俺がウキウキで購買部に昼飯でも買いに行こうとすると、月城真琴の妹、月城円香が教室にやってきた。
その手には風呂敷に包まれた弁当箱みたいなのがある。
「あー、そうか…そういやお前はそういうヒロインだったな…」
「…?」
月城円香は初期から俺に対する好感度が高いヒロインの一人だ。
俺の気を引くためにこうして毎日弁当を届けにくるのだ。
だが、こいつはいわゆるメシマズヒロインってやつだ。
毎日俺のために作ってくる弁当は味が独特で正直美味しくない。
日比谷はそれでも馬鹿みたいなお人よしだから、まずい円香の飯をうまいうまいと食べていたが、冗談じゃねーよな。
なんで俺がわざわざ対して好きでもない後輩の作ってくるまずい飯を食わなくちゃいけないんだ?
そんなことまでして月城円香の木を引きたいとも思わないし、どうせこいつは多少無碍に扱ったとしても俺のことは好きなままだろ。
だったら弁当を断っても特に俺に対する行為に影響はないはずだ。
「いらないかな」
「え…」
呆然とする円香に俺は言った。
「もう俺の分の弁当は明日から作ってこなくていいぞ。お前の料理、対して美味しくないからな」
「…」
絶句している円香。
今まで日比谷がまずい弁当を毎日受け取ってくれていたから今日も受け取ってもらえると思ったんだろう。
だが、俺は日比谷みたいに損な役回りはゴメンなんだよな。
どうせ俺は主人公で、何したって許される存在だし、だったらある程度自分の思うがままに生きてもいいはずだ。
わざわざメシマズヒロインの作ってきたまずい弁当を食べてやる理由はないな。
「…じょ、冗談ですよね?」
円香がそんなことを言った。
「冗談じゃねぇよ」
俺は円香を見もせずに言った。
「お前の弁当は対して美味しくない。それを自覚しろ。わかったらもういけよ。食べる気がないって言ってんだろ」
「…っ!?」
円香の表情が悲痛に歪む。
その顔を見ても、俺は1ミリも罪悪感など湧かなかった。
普通にまずい弁当作ってくるこいつが悪いよな?
俺はただこいつの迷惑な行動を自覚させてやっただけだ。
俺に非はない。
悪いのは勝手にまずい弁当作ってくるこいつなのだ。
「すみませんでした…ご迷惑をおかけしました…先輩」
しばらくするとようやく俺に拒絶されたことを理解したのか、円香は心ここに在らずといった様子で教室を出て行った。
「ふぅ」
その後ろ姿を見て俺は安堵の息を吐いた。
良かった。
これでまずい飯を食わずに済んだぜ。
「だから昨日いらないっていったろ?」
翌日。
昨日はっきりと断ったはずなのに、月城円香はまた俺に弁当を作ってきやがった。
本当に迷惑極まりない。
お前のまずい飯なんか食ってやるつもりはないっていってんだろうが。
「お、お願いします……今日は、気合を入れて作ってきたんです。仕込みも昨日からして……先輩に楽しんでもらえるように頑張って作りました。味見だけでもいいので食べてもらえないでしょうか…」
「仕込みとか知らねーよ。そんなの俺、頼んでないよな?」
「…っ」
「いらないんだよ。お前の弁当。なんで昨日そういったのに今日も持ってきたわけ?」
「け、けど……今までは先輩、美味しいって食べてくれていたじゃないですか…」
「だからそれは我慢してたの。お前が傷つくと思って。でももう我慢の限界なわけ。お前のまずい弁当を食う気はないんだよ。わかったか?」
「…っ」
呆然として固まった円香が、しばらくすると泣き出した。
嗚咽を漏らし、手で顔を覆って泣いている。
「面倒くせぇな…」
泣いている円香を見て、俺は可哀想と思う以前になんだかムカついてきた。
俺、嫌いなんだよな、泣けばどうにかなると思っている女。
とにかく泣けば女の特権で周りを味方につけられて、全てが自分に都合のいいようにことが運ぶと思っている女を見ると虫唾が走るんだよ。
「泣くなよ、面倒臭いな。さっさといけよ」
「…うぅ」
「悪いのは昨日の俺の話を聞かずにまた弁当作ってきたお前なんだからな?俺は悪くないぞ。泣いてさらに俺に迷惑をかけるのか?俺に嫌われたいのか?」
「…!?」
俺がそういうと円香が口元を手で押さえた。
そうだよな。
お前は俺のことが大好きだから、俺に嫌われたくはないよな?
主人公に嫌われたいヒロインなんていないもんな?
俺の好意を盾に取られたら、もう何も言えないよな。
「すみませんでした…私が悪かったです先輩。もう金輪際弁当は作ってきません」
「ああ、そうしろ」
それだけいうとくるりと円香は踵を返して教室を出て行った。
ふぅ、ようやく追い払えたか。
やっぱり円香は俺に嫌われるのだけは絶対に嫌なようだな。
適当に扱ってもずっと俺のことを好きでいてくれるヒロインは都合が良くて最高だぜ。
「あ?」
なんだか周りの生徒が白い視線を送ってきていたので、俺は睨みを聴かせてやる。
なんだその目は。
俺はこの世界の主人公だぞ?
てめーらモブが俺をそんな目で見てんじゃねーよ。
俺のことを好きなヒロインをどう扱おうが俺の勝手だろうが。
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