第14話


魔力の気配がした。


魂喰いが魔術を使用したようだ。


魂喰いの右手の手のひらに魔術の粒子が結集する。


「行け……魍魎たちよ。その男の魂を食い尽くせ」


『『『ギョギョギョギョギョォオオオオオオオオオオオオ』』』


魂喰いの近くに浮いていた魍魎たちが、俺に向かって襲いかかってくる。


「闇の魔術第三階梯、魔剣」


俺はすかさず闇の魔術を使用し、魔剣を形作った。


闇の魔術で作り出された闇の剣が、俺の手の中で形を得る。


こうして闇の魔術で作り出した武器は、実態世界に影響を及ぼすことはできないが、魍魎に対しては絶大な効果を発揮する。


『『『ギョギョギョォオオオオオ!!!』』』


「ふん」


闇魔術で作り出した魔剣を、俺は魍魎たちに対して容赦なく振るった。


『ギョェエエエエエエエ!?!?』


『ギエェエエエエエエエ!?!?』


『ギョォオオオ!?!?』


切り裂かれた魍魎たちが形を失い、夜の闇に溶けて消えていく。


「私の魍魎たちが…」


魂喰いが散っていく魍魎たちに茫然とした表情で手を伸ばす。


「もう終わりか?まだまだあるんだろ?魍魎のストックは」


魔剣を肩に乗せながら俺がいうと、魂喰いは憎しみのこもった目で俺をみてきた。


「お前は絶対に捉えて魍魎の餌にしてやる。……すぐには殺さない……私の魍魎たちに少しずつ喰われながら死んでいくのだ」


「そうかい。随分この街の人間を攫ったようだが、まだ足りないのか?」


「調子に乗るな……先ほどお前が倒したのは手持ちの中でも弱い魍魎たちだ……お前の実力を見るためだ……もうお前の底は知れた。今度は確実にお前を殺す…」


魂喰いがぶつぶつと魔術の詠唱を唱えた。


『グォオオオオオオオ!!』


巨大な咆哮が夜の街に響き渡る。


目の前に、見上げるような巨大な魍魎が出現した。


鉤爪のついた4本足。


黒い毛並み。


頭部と思われる部位には無数の眼球が存在しており、ギョロギョロと絶えず動いている。


「へぇ…これはすごいな」


俺は素直に感心の声を漏らした。


目の前のやつはおそらくかなり高位の魍魎だろう。


こうして実体化していることからもそれは明らかだ。


魂喰いは雑魚だけではなく、このような高位の魍魎まで従えていたようだ。


「先ほどの雑魚と違い、こいつには知恵がある……実体化して直接人間に攻撃が出来る……お前などひとたまりもないだろう…」


「確かにこいつはすごいな。こんな高位の魍魎を従えられるのか。でも……こいつを飼い慣らすとなると、餌とか大変じゃないの

か?」


「そのために、何人もの人間を捉えている……ククク……お前も捕まえてこいつの餌にしてやろう…」


「そいつはありがたいな」


「さあ、我が最強の魍魎よ。その男を死の手前まで傷みつけろ……殺してはダメだぞ……ギリギリで生かして苦しめてから殺すのだ…」


魂喰いが俺を指差した。


魍魎がこちらに向かって接近してくる。


重々しい足音が響き渡り、地面が振動する。


実体化した巨大な魍魎の攻撃を受ければ、おそらく一撃で致命傷を負ってしまうだろう。


「これはこっちも手加減してられないな…」


接近される前に仕留めなければならない。


そう判断した俺は、すぐさま現時点での俺の使える最大火力の闇魔術を発動する。


「闇の魔術第四階梯……魔銃」


俺の手の中に、闇の弾丸の込められた長いライフルが出現した。


素早くそれを手にした俺は、こちらに向かって接近してくる魍魎に向けて迷わず発砲した。


ダァン!!!


空気を切り裂く発砲音と共に、闇の弾丸が発射され、魍魎の頭部を切り裂いた。


『ギャォオオオオオッ!?!?』


頭部を真っ二つに破られた魍魎が、低い悲鳴をあげ、やがて少しずつ夜の闇の溶けていく。


「あり得ない……私の最強の魍魎が……なぜだ……こんなことがあり得るはずが……」


「悪かったな。あんたが高位の魍魎を出してくるから、俺も本気を出さざるを得なかった」


「あり得ない……こんなことあってはならない……魔術で生み出した幻の武器が私の魍魎に通用するはずがない…」


「残念ながら通用するんだなこれが」


おそらく自分が従えている中でも最も強い魍魎を仕留められ、絶望した表情で膝をついている魂喰いに俺は何が起こったのかを説明してやる。


「確かに俺の闇魔術で作り出した武器は実体世界に影響を与えることはできない。ただし魍魎と……それから魍魎や魔術師の体内にある魔核に対しては別だ。これら二つに対して、俺の闇武器は圧倒的な破壊力を持つ」


「まさか……魍魎の魔核を狙ったのか…」


「そういうことだ。実体化した魍魎は、体のどこかに魔力の集中点である魔核を持つ。それを破壊されれば、いかに実体化した高位の魍魎だったとしても耐えられない。たちまち実体化する力を失い、霧散するのさ。わかったか?」


「…」


魂喰いが項垂れた。


完全に戦意を喪失してしまったようで、殺気を失っている。


後は死を待つのみと言わんばかりに、地面を向いている。


「おい、話はまだ終わってないぞ」


俺はそんな魂喰いに、闇の魔術で作り出した銃を向けた。


「お前が魍魎の餌にするために捉えた人間の居場所を教えろ」


「…何だと?」


「惚けるな。さっきの魍魎たちを従えておくためにはたくさんの餌となる人間が必要だ。お前はそいつらをどこかに監禁しているはずだ。場所をはけ」


「…殺すなら殺せ。早くしろ」


「五月蝿い、場所をはけ」


「魔術師同士の戦いで敗れたものには、死が待っている。どのみち私は死ぬのだ。お前に関係ない人間の生死などどうでもいいだろう。早く殺せ」


「…」


ダァン!!


「ぐぉおおおおおおおお!?!?」


俺は徐にライフルの引き金を引いた。


魂喰いが呻き声をあげ、胸を抑える。


俺は痛みに体を震わせている魂喰いを見下ろしながら言った。


「お前の魔核を半分破壊した。魔力が体内で暴走して地獄のような痛みを味わっているはずだ。もう半分も破壊されたいか?その時、どれぐらいの痛みがお前を襲うか、想像できるか?」


「…やめろ…頼むやめてくれ…」


「戦いに負けた魔術師は死ぬしかない。だが、死に方は選べるはずだ。お前は死より辛い苦しみに悶えながら死んでいくことを望むのか?」


「待て……餌たちの居場所を吐く……だから、もう撃たないでくれ…楽に殺してくれ…」


縋るようにそんなことを言ってくる魂口から、俺は監禁した人間たちの居場所を聞き出すことに成功するのだった。

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