第20話 変革のために
「なんなんだよぉっ!お前はっ!」
己自身の神器で腹を撃ち抜かれたリーダーであろう男は、その場にうずくまりながら本能のままに叫ぶ。
「こいつあれですよ!Cクラスの他人の神器操れるって野郎!」
「お?よく知ってるじゃん。ならその神器も使えないのわかるよな?」
集団の一人が、先程ティムを治すのにつかっていた神器をリーダーに向けて使おうとする……が、そんなの許すわけがない。
「ちっっくしょうがぁ!お前らかかれぇっ、こっちが神器を使わなければただのCクラスの雑魚だ!」
「ランスだな⁉︎早く逃げろよ!」
逃げろってねぇ奥さん、さっきまで俺をボコボコにしてたの誰って話ですよ。
「くらいやがれ!」
男子生徒の一人が懐からナイフを取り出し、そのまま俺に切り掛かる。
逆手に持っているそのナイフは真っ直ぐ俺の首を両断しようと迫ってくる。俺はそれに対して無抵抗の棒立ちを決め込んでいたので、当然その刃は首へと到達し……
「へ?」
俺の首は半分になった。
喉仏の部分までナイフがめり込み、バランスが悪くなった頭は左側に傾いていく。そのままこてんっという効果音と共に地面に転がりそうだ。
「え?お、俺……こっ、殺した?」
「殺す覚悟ないなら首にナイフを向けるんじゃねーよ。」
「ひっ!なんで喋……!ぐぅっおぉぉぉ。」
上にばかり注意が向いているので、金的のプレゼント。
「残念ながらお前らが神器使わないからって、俺が使えないわけじゃないんだ。」」
そう、これはあらかじめトリスから借りておいた神器。
自身の体と神器の形を自由自在に変形できる……便利なもん持ってんな。
ありがとうトリス。
「僕より使いこなしてるみたいで納得いかないなぁ。」
まあそう言うなって。
「ほらほら、もう勝ち目ないけどどうする?」
「……クソがよぉ!」
そう言うとまだ元気な残り三人は、倒れている二人を抱えて逃げていく。
皆こなしや魔力量、神器の性能も悪くない五人だったが、悲しいかな、性根が腐ってた。
「追わなくていいの?」
「ああ、後でヴィネアとマーリンに言いつけとく。」
多分俺にボコされる方が百倍マシだろうから、判断力も腐ってたな。
「す、すまないな、なんというか……。」
ティムは伏し目がちな様子のまま、謝罪の言葉を口にした。
昼間はオールバックだったその金髪は、この騒動のせいで下ろされ、より一層目元に影を落としている。
「当たり前だろ、温厚な俺でもイラつくもんはあるんだぜ。」
「おん?こう?厚顔無恥の間違いでしょ?」
黙れ。
「そうだよな、あんな寄ってたかって……。」
「ひどいもんだぜ、なぁ?」
「ああ……その、ごめ……」
「いじめられてるんなら言えよな!同じクラスの……しかも副委員長だぜ俺!そんなに信用ないかよ?」
「いや……。」
ティムの口元に浮かぶ表情はあからさまな作り笑いであった。
え?本当に信頼ない感じこれ?
「逆にあると思ってたの?」
「……ちくしょーっ!!!」
◇
という訳で翌日。
名誉挽回汚名返上を目指すというか、よく考えたら名誉なんて一つも作ってなかったことに気がついた俺は、最も手っ取り早い手段に出ることにした。
「それで私ですか?そんなに安いものではありませんよ、王族の時間というのは。」
「だからと言って決闘を断りはしないだろ?王族たるものそこら辺しっかりしないとな。それとも手袋でもを投げたほうがいいか?」
だだっ広い運動場にて、多くの観客に見守られながら俺と対峙しているのは金髪の美少女。本日も見目麗しい我がアルビオン王国王女様。
彼女が立っていれば埃と砂にまみれたグラウンドも華やかな宮殿かと勘違いしてしまうかのようだ。
……まあ僕が彼女と行きたいのは宮殿は宮殿でも彼女の自室なんですがぐへへへへ。
「大丈夫ですよ……そんなものなくてもあなたへの殺意は十二分に溜まっていますから。決闘の際に賭けるものはお互いの命ですよね?」
「サラッとえげつけないものをさも当然のように賭けないでくれ。……でも確かに俺はお前に勝ったという事実だけで十分なのに対し、お前側は勝っても何もないのか。」
俺の今回の目的は決闘で賭けるものとかではなく、ヴィネアに勝つこと自体だから別に何もいらないんだけど。
「いいえ、ちゃんと双方賭けるものを用意するべきです。実力差に関わらずそこは平等ではないと……。」
「確かにそうだけど……なんか今日はテンション高いな?よく喋る気が?」
俺と話すのが楽しいとかなのかな?ね?
「ああ……決闘なんて挑まれるのは生まれてこの方初めてですからね。ワクワクしてるのかも知れませんね、正々堂々戦えることが。」
あれ?俺今日命日なのかな。
「なんでもいいけどさっさと始めてくれ!こっちは学長の仕事すっぽかしてわざわざ来てやってんだ!」
「すまんすまん、いやー、実力的にちゃんと見届け人できる奴が他にいなくてさ。」
あと他の教師は普通に忙しそうだったぞ。
「じゃあ負けた方は勝った方の言うことを何でも聞く……でいいでしょう。最もシンプルで分かりやすい条件です。」
マジ⁉︎
「え?じゃあそのぉ……えっちなことでも?」
「どうぞ。」
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!!!!
勝った、俺の時代が到来した!世界の全てはこの手にあり!
何しようかなぁ!?あれがいいかなぁ?これがいいかなぁ?いやあれを着せるっていうのも……。
「まあ……優しいあなたへの軽いご褒美ですよ。ありえない夢想に心躍らせるのもいいでしょう?」
「優しい?俺が勝った暁にはドチャクソに優しさのカケラもなく獣と化すぞ俺は。」
「……始めて下さい。」
ヴィネアの冷たい視線が俺とマーリンに向けられる。
正直ただのご褒美である俺はともかく、マーリンの方は堪えたのかすぐさま決闘の開始を宣言する。
「ではこれよりヴィネア・ペンドラゴンとランスによる決闘を始める。賭けるのはお互いの誇りと……なんだっけなんでも命令できる権利?範囲はキャメロット学園第二運動場内部。双方の合意によって決闘用結界が張られ、決闘が開始する……準備はいいか?」
「ああ!」
「どうぞ。」
そう行った瞬間、俺たちを囲むように結界が成立する。
この内部では一種の仮想世界が展開され、ここで受けたダメージも現実世界には持ち越されない。
決闘の終了条件はどちらかがこの結界内で死に至ること。決闘と言っておきながらやってる事はただの殺し合いである。
逆に言えば命をかけずに本格的な戦闘ができる。
決闘中の死者をゼロにできるのだから。
「外からはどう見えてるんだろうな?」
「……。」
そうこう言ってるうちに結界は形作られていく。面前の風景も砂ばかりの運動場ではなく、緑が豊な平原へと変わっていく。
何百メートルか先にある一本の木が形成されたとき、外から見てる観客からすれば不思議なことが起こったはずだ。
俺とヴィネアの姿があまりのスピードに一瞬掻き消えた。
なんてことない、お互いが一歩踏み出しただけだ。
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