第19話 打倒Aクラス!
翌日、授業前の教室。
今日はエレインが公務の関係で休みとのことなので、俺が一人で壇上に登り対抗戦についての話し合いを進めていく。
「ということで、俺たちCクラスはBクラスと同盟を結ぶということで、いくぞ!打倒Aクラス!」
『………………』
あれ?話し合いって知ってる?
「いやー、みんなBクラスへの複雑な感情とかあるかもだけど、そこは水に流してな?協力してやっていこう!」
『………………』
いつのまにか知らない人の葬式に迷い込んじゃった?
改造してるとはいえ一応制服だから喪服として認められるよなぁ?とかくだらないことを俺が考えていると、クラスの男子のうち一人が少し怒気を含んだ声でヤジを飛ばしてくる。
「あのさぁ、俺たちはそもそも納得いってないわけ。お前みたいな庶民がうちのクラスの副委員長だってこと。」
「いやそれはお前らが立候補しなかったのが原因じゃ……。」
しかし、彼に呼応するようにクラス中からぽつりぽつりと文句の声が一つずつ出てくる。
「そうよ!今までエレイン様がいたから声に出さなかったけどねぇ、あんたみたいなやつがしゃしゃり出てくるんじゃないわよ!」
「なんでお前なんかが偉そうにしてるんだよ!」
陰湿ないじめを受けるなどなら貯まるのは恨みだが、こう真正面から色々言われると普通にただイライラしてくる。
「ああ⁉︎テメェらが雑魚だから俺が引っ張ってやろうって言ってるんだろうが!」
「なにが雑魚よ!あんたみたいなクソ庶民に言われる筋合いはないわよ!しかも神器持ってないんでしょ?そんなの神にすら嫌われてるってことじゃない!」
「そうだ!このクソ庶民がっ、服装のセンスも悪けりゃ頭も悪りぃのかよ!俺たちの方が上に決まってるだろ!」
「そうだそうだ!イビキがうるさいんだよ!」
今トリス混ざってなかった?
「うっせぇ!テメェら全員表でろ!ボコボコにしてやらぁ!」
『上等だ!』
ぜってぇ勝つ!
…………。
「あのぉ、授業は?」
ごめんねクレア先生。
◇
眩しい夕日の灯火が、山の奥に沈んでいく。
横たわって上を見ていると、その反対側の真っ暗になりつつある空も見えてくる。
黄昏時、喧騒が鳴りを潜めて、人間の時間が終わる。
外には魔物が跋扈する暗闇が広がりつつある。
しかし、これは蝋燭の火が消えるようなものではなく、言うなれば花火が燃え尽きた後に夜空を見上げ明日のことを考えるような……そんな次への充電期間なのである。
疲労困憊の身体を広げ、少し冷たくなってきた風を肌で感じながらそんなことを考える。
芝に寝転がるのは案外気持ち良いんだなぁ……
「なんで勝った感じ出せてるの?」
横槍挟むなトリス。
「物事は勝ち負けで判断できるものだけではないんだ。もっと上の次元で……空を見てれば勝負というものがどんなにくだらないか理解できるさ。」
「それは負けた人が言ったらダメなセリフだよ。」
「……。」
クソがよ!あいつら神器大して使えないからって普通に殴りかかってきやがったわ!
いやー、別に負けてないすよ。いやちょっと調子悪かったていうか?相手が初心者すぎて逆に?みたいな。
「帰ろうよ。もう格付けがあまりにも済んでるからいじめとかすら発生しないと思うよ。もう悲しいやつとしてしか扱われないよ。」
「いーやーだー、まだせめて恨まれ者として君臨してたい!」
「無理だよぉ。」
はぁ、もう今日は帰って寝よ。
「ていうか朝にあったのにまだここにいたの?」
「普通に授業サボりたかったから。」
「本当に救いようがないね。」
寮までの帰り道をトリスと話しながら進んでいく。
一年生は学園祭の出し物はないが、それ以上の学年には存在するのでこの時期の放課後は騒がしい。
ガヤガヤという騒ぎ声と共に聞こえてくる笑い声。
それらを聞くと、ここで行われるべきは血生臭い闘争ではなく、美しい青春なんだと再認識する。
「……?」
校舎の中ではなく、校舎と木々に囲まれ周りからの視線が届かない場所。まさに校舎裏と言うべき場所から声がしてくる。しかし、その声は軽快な笑い声というよりは、下卑た嘲笑のような……?
気になって少し近づいてみると、何をやっているかはよくわかった。
一人の男子生徒が五人の同じく男子生徒に囲まれている。
もう少し近づいて目視で見てみると、囲まれている一人はボロボロになっていた。
焼け跡、切り傷、打撲跡。様々なケガを負いボロ雑巾のようになっている彼は、一言も発さずにじっと耐え忍んでいた。
「ひどい……。」
「あれも青春の弊害かね。」
貴族達が集まっている一流の学園でも、いや貴族達が集まっているからこそいじめなどの問題は発生している。
なまじ家が大きいため下手に問題にすることもできず、実力差でクラス分けしているため刃向かえない相手を選ぶのも容易であった。と言うことは…‥
「あれ、うちのクラスの子だ。ほらあれ、今日ランス君に向かって最初に罵声浴びせてた。名前は……ティム君だっけ?」
思い出した、あいつか。
俺をボコるときも人一倍張り切ってたからなぁ、鬱憤がたまってたのかぁ。
「まあ大丈夫だろう。」
そう、あんなに傷が残っては学園側に発覚するのも時間の問題、学長はこういうの嫌いなので見つけたらすぐ対処するだろう……そう思っているといじめている男子生徒の一人が神器を使用する。
杖の形をしたその神器をかざした瞬間、ボロボロになっていた彼の傷がみるみる回復していく。
新品になったような制服に包まれ、五体満足なティムのその顔は気絶しそうなほど青かった。
イジメ集団のリーダーと思われる男が、満足そうに頷いたあとこう言った。
「よぉし、あと一周しようぜ。大丈夫大丈夫、跡は残んねぇから。最初は俺からだっけ?」
「そうっすよ。ちゃんと狙ってくださいねぇ、エイム悪いんですから。」
「うるせぇっ。」
その男は銃のような神器を構えると、その標準をティムの腹の辺りへ向けて合わせる。
そしてリーダーであろう男は、何も躊躇わずその引き金を引いた。
威力は抑えているだろうが、壮絶な痛みを負わせるには十分な傷を合わせるだろうそれは、きちんと腹の脇に命中した。
その銃を撃った男自身の腹に。
「ガハッ……!」
「ちゃんと命中したな、才能あるんじゃねぇか?流石俺。」
「……!お前っ。」
何が起こったか未だ理解できずに横たわっている男を踏みつけ、残りの四人に向き直る。
「誰だお前⁉︎」
「なんでお前が……。」
「気にすんな。副委員長の仕事をするだけだから。」
じゃっ、やりますか。
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