第18話 同盟

《featエレイン》


「いいの?放っておいちゃって。」


 運動場で行われている練習会を抜け出したエレインとそれについていったトリスは、カフェテラスの一角で数枚の書類と睨めっこしていた。

 

「せっかく時間あるんだから参加したらいいのに。」


 エレインが読んでいるのは、ランスの経歴などがまとめられている書類であり、昨日彼女が学園に請求した公的なものである。


「そんなもの読んでどうにかなるの?」

「何にもわからないことだけがわかりましたわ。」

「要するに無駄だったんだね。」


 その書類に書かれている情報は、エレインが求めていた情報とは違っていた。

 

「まあ、わかってましたわ。表から手に入るようなものにたいしたものがないって。」


 書かれていたものの中で目につくものといえば、14歳の時に孤児になりマーリン学長に引き取られたということだけであった。


「その前が知りたいんですのよ〜。はあ、時間の無駄でしたわ。」

「本人に聞いたら?案外あっさり答えてくれるかもよ?」

「それでまずい答えが出てきた時に不安だから調べているんですわ。お姉様も学長も含みがありましたし……。」


 しかし、ヴィネアもマーリンもランスについて聞いても"知らない"の一点張りだったこともあり、エレインの情報源がほぼ尽きかけた上での空振り。

 正直かなり手詰まりであった。


「今からでも練習会行ったら?楽しそうだよ?」

「それがですわね、別に今回の対抗戦に対してやる気があまりないのですの。」

「珍しいじゃん。」


 諦めないところがエレインの美徳だと思っていたトリスにとって、その発言は彼を意外な心境にさせるものであった。


「やっぱりヴィネア王女には勝てなさそう?」

「それもありますわね。でもそもそも勝ちたくないというか、勝たれたら困るというか……。」


 今回の龍鎮祭は、ヴィネアのために学園祭を改めさせて行うイベントである。

 ヴィネアの偉業を讃えることで、失われつつある王家の権威を回復させる狙いもあり、対抗戦でヴィネアが負けたとなれば問題でもあった。


「こういう細かいところから瓦解していくんですわよ。一年前の事件で大打撃を受けたわたくし達からしたら、あらゆる可能性も排除していきたいんですの。」

「それでか。じゃあ僕もあんま手伝わないようにしないとね。」

「でもお姉様が負けるなんて万に一つもあり得ませんけどっ。じゃあわたくしは部屋に戻りますわ。彼に何かあったらまた連絡してください。」

「え、うん。じゃあ部屋まで送るね。」


 なんてことない会話をし、また明日も同じことが続くなんてことない日々。

 初日からトラブルがあったが、自分が望んでいた日常を味わえていることにおおむね満足なトリスだったが……。


(あれ?ランスって妹がいるって言ってたような。本当に孤児ならそんな簡単に話すかな?」


 一つだけ疑念が生じていた。



  ◇



「同盟ねぇ?そんなことできるか?」

「かかか可能と言えば可能ですっ。た、対抗戦は3クラス入り混じった状態で戦いますから。」


 いや、議題はそこじゃない。

 対抗戦は運動場に魔術を使用した仮想のフィールドを展開して行われる。

 森や草原、砦などが広がる広大な空間でやる関係上、そこで重要になるのは個々の実力よりも戦術。もう一チームを味方につけることが可能であれば前提条件はかなり変わる。

 普通であれば。


「理由は二つある。まずなんで今までCクラスが勝ってこれなかったのか。」


 それは戦術以前のレベルでCクラスが弱かったからである。じゃなかったらこのルールで万年最下位なんてとらん。同盟を結んだところで負けるんだから、結ばなくて良くね?


「もう一つはヴィネアが強すぎる。」


 同盟結んでもAクラスに勝てるわけなくね……ということだ。

 

「い、いえ、勝てます。人数さえいれば彼女に勝てる方法が……。」

「なんだ?」

「ちちちっ超級魔術ですっ。」


 超級魔術……50人規模で発動させる大魔術。

 その威力は並の神器解放を凌ぎ、人類の域を超えた最強の魔術である。

 魔導軍隊などで戦略的に利用されるようなものであり、一般にお目にかかることはない。

 あと一個人に狙い撃つものでもない。


「こ、これは人数的に2クラスが共同しないとできませんし、一人一人に求められる技量は高くはありません。我がクラス全員とCクラスの10人ほどで完成させられます。残りのCクラスの面々でヴィネア王女さえ封じれば勝算はあります。」

「それで彼女を倒したところでどうするんだ?そのあとは正々堂々とC対Bで勝負するのか?」

「は、はいっ。そのつもりです。ですが、どちらにしろ最下位は免れますから、Cクラスにとって利点はあるはずです。」


なるほど。


「き、今日のところはこれだけです。返事はまた後日。くれぐれも外部に漏らさぬように。」


 そう言ってトーハは去って行った。

 オドオドとした雰囲気の割に、物言いはしっかりしている不思議なやつだったな。


「それで?ランス。君はこれを受けるのかい?エレイン王女が協力的でない以上、決めるのは君だ。」

「それなぁ。」


 難しい理由が今回は3つ。


「Cクラスの面々が乗り気じゃないこと。」


 協力してくれるかなぁ?


「それはそうだね。説得は大変そうだ。」

「そしてもう一つ。」


 この作戦だとCクラスは2位確定であるという点。


「ヴィネアを抑えるのに俺やフレア、エレインといった面子の犠牲が必要だが、ここが抜けるとBに勝てないからな。」


 正直なところこの3人がいれば確実にBクラス程度だったら勝てるのである。

 だからこの同盟を受けても受けなくてもCクラスの順位は2位。ならば確実に成功するかわからないこんな作戦をやらずとも、順位は変わらない。


「そして3つ目。おそらくこの作戦が成功して超級魔術をヴィネアに当てたとしても、Bクラスが最下位になる可能性が高い。」


 超級魔術では多分あのチートお姫様を倒しきれない。ある程度の実力があるものならば、彼女の化け物具合は50人固まったところでどうにかできるレベルではないと分かるだろう。

 そうなったらおそらくヴィネアはまず超級魔術を使った全員を倒す。その時点でBクラスはジ・エンド。


「つまり何が言いたいんだい?」


 この提案をしてきたトーハがそれに気づいてない可能性もなくはないが、俺の勘は彼女が実力者だと言っている。

 つまり……


「多分裏切るな、あいつら。」

 

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