第12話 檻の中

「それで何の用なんだ?殺しはしないんだろ。」


 転移先はそれはもうがっつり構えられている上に、普通に檻の中だった。

 恐らくさっきよりも下層の、ホールのような巨大な空間で拘束されている。何らかの魔道具であるらしく、多分出ようとしてもうんともすんとも言わないだろう。

 周りでこちらを睨みつけて来るお兄さん方が怖いのでやらないんですけどね。


「何の用かってなぁ!てめぇ、自分が恨まれる通りがないと思ってんのかよ。」

「そりゃ違いないが、お前らにそれを言われるのは心外だな。」


 目の前には男が二人。

 俺と話しているチンピラ風の金髪の男と奥で突っ立っている黒髪の中年。

 どちらも俺を油断なく見つめており、その眼はあからさまに俺への怒りに満ちていた。

 そしてやばいのは……


「その後ろの奴らどうしたんだ。お前そんなのと友達だっけか?」


 鋭利な牙と爪。強靭な鱗、巨大な体躯。翼を広げればその体長は倍以上になる。

 またもやドラゴン。しかしさっきとは違う。


「龍が一匹に、さっきのレベルのドラゴンが見えるだけで3体。後ろにもっといるな。どこで見つけたんだ?近所では見た事ないぜ。」

 

 まずやばいのが一匹。

 他の竜より大きい身体に、燃えたぎるマグマのような魔力がぐつぐつと煮え滾っている。

 噴火寸前の火山よりも危険な爆弾がそこにいる。

 あれは御伽話で出て来るような化け物だ。

 さらにこの巨大な空間にドラゴンが数十体。感じる魔力から考えるに奥にもっといる。


「はは。」


 乾いた笑いが口から溢れる。

 正直、当然ながら状況は最悪だ。

 俺が動く事もできず、尚且つ敵戦力も思ってたより多い。

 エレインに頑張ってもらうにしても限界あるし、あれが上手くいかないとなぁ。


「流石のお前でもビビるよなぁ!くっくっくっ、わかるだろこれが何か!お前なら。わかんねぇくらい盲目になったなら殺してやりたいぜ!」

「オーベイ、殺すのは禁止だ。」

「わぁってますよぉ!」


 ちっ、やっぱ生殺与奪を握られてると話がしづらいな。

 こいつらのプランは何となく理解ができるが、それを中止させる方法が難しい。

 とりあえず今できることは時間稼ぎと情報集めか。


「じゃあ間違えるごとに一発でどうすか?やっぱ作戦前にストレス解消しとかないと。」

「いいだろう。」

「おっ、堅物の部長がこういうの許すの珍しいっすねぇ。ダメって言われると思ってましたよ。」


 え?


「お前らどういう……ぐわっ!」


 そう言った瞬間、オーベイの手から飛んで来た風の刃が俺の頬を切り裂く。

 ちょっ、おいこの檻外からの攻撃通すんかい!


「ちくしょう!悪の組織とかいう厨二の集まりが本当に悪いことしてんじゃねーよ。」

「おめぇも所属してたじゃねーかよ。」


 頬から伝う血を制服の袖で拭う。

 元々汚れていた袖が余計汚れたじゃねーか。洗うのめんどくさいんだよなぁこれ。


「で、どうだと思うよ、お前もいてぇの嫌ならちゃんと答えな。」


 恐怖を染みつけ、それに従う事に慣れさせることでどんどん命令に対しての抵抗感をなくす。

 俺相手に原始的なやり方するじゃねーか。

 まあ従うんすけど。

 

「こんな大量の竜と龍がいるのは異常だ。どこにもいねーよこんなの。だから答えは簡単だ。二つ目の厄災が来たんだろ。」

「……。」


 この国に伝わる伝承の一つ。

 "六聖の神器"の適合者が現れるとき、三年の間に"五つの災厄"が訪れる。

 細かいところは覚えてねーが、こんな感じだったろ。


「一つ目がちょうど一年前だった。二つ目が今来てもおかしくはない。」


 こいつの神器は魔物の従属化。

 リーダーの龍を操ることで間接的に他の竜を従えてるんだろう。


「違うか?」


 俺の言葉を聞いたオーベイは、その獣のような口をにたぁと横に広げ満足そうに頷く。


「出来んじゃねーか、流石だな!くっくっくっ、この手で今すぐに殺せねぇのが残念だわ!」

「正解でよかったよ。」


 別にこれを当てるのは難しくない。

 そしてこの作戦が実行されることでの被害もそう多くはないだろう。

 俺がいればこいつらの神器は封じられ、ヴィネアとマーリンがいれば大量のドラゴンもどうにかなる。

 死者は少しは出るだろうが、災厄の一つをその程度に抑えられるなら御の字であろう。

 けれど……


「でも良くないことが一つ。学園に間者がいるな?」


 そう、それは俺とエレインを捕まえたら全てひっくり返る話。

 俺がいなければ神器を使え、エレインを人質にとればヴィネアに対しての抑止力になる。

 その答えはオーベイではなく、部長が答えた。


「ああ、その通りだ。使い捨ての形になってしまうのが申し訳ないが、この作戦の事を考えるとしょうがない。」

「そんな情があるとは意外だな、部長さんよぉ。」

「誰かのせいで人手不足なんだ、我らが組織はね。」


 おっ。


「でもその作戦は成功しねーわ。お前らは舐めすぎなんだよ。」

「……舐めてるって?君をかい?昔はともかく今の君に魅力を感じないな。」


 俺はいつでも男の魅力に溢れてるわ。


「ヴィネアをだよ、あれは違う。"六聖の神器"の一つの適合者とかの話じゃない。彼女が最強なのは元々さ。」

「わかってるつもりだけどね。彼女は私たちが最も警戒する勢力のうちの一つだ。だからこそちゃんと人質を取って充分な戦力でいくんだよ。」


 なら根本からずれているんだ。

 お前らみたいな雑魚とは違う。一つ上のステージにいるんだよ、彼女は。


「まあ、どっちにしろ終わりだけどな。惚れた女を助けるのも男の仕事だな。」

「どういう意味だい。」


 だから……


「もう遅いって意味だよ。」


 その瞬間、視界が光に包まれる。

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