第11話 未来予測featエレイン
「……どういうことですの?」
ランスが転移して一分ほどがほどが経ったが、エレインは未だ動けずにいた。
この部屋には二つの出口があるが、片方は学園とは正反対でありもう片方は部屋の前に未だドラゴンが鎮座しているであろうことが感じとる魔力から予想できたためである。
(そもそもの状況から理解が間に合っていないですわ。なんでドラゴンがいてなんで転移魔法陣が起動したか。私《わたくし》を狙ったものだとしてなぜここに来るとわかったのか。彼がどうなったかわからない
竜の死臭が部屋の中を充満し、焼けこげて空気に混ざった油が肌の表面にこびりつくようである。
風も流れていないため匂いは過ぎ去らず、嫌悪感のあまりに死体から目を逸らしても、殺風景な灰色の壁がただあるだけ。
そして死の香りを運んでくるのはもう一つ。
(何か近づいてくる……?)
学園の反対側のドア、深層へ繋がっている方向から魔力の反応が一つ。
神器解放のあとの精神が研ぎ澄まされた状態では周りの様子が手に取るように感じられるようになる。
そんな状態で近づいて来る反応が人間であること、またランスではないことが容易に理解できた。
(なら確実に敵……。先手必勝ですわ!)
休憩室の性質上、中からは外の魔力を探知できるが逆は不可能である。それなら攻撃の準備をしておき、ドアが開いた瞬間攻撃するのが最適解だとエレインは理解する。
神器を構え、魔力を通す。
黒槍に纏った雷の落下先をドアの向こうに定め、タイミングを間違えぬように集中する。
(来た!ドアの前に着いた……!)
ドアが開き始め、その姿が少しずつ現れていく。
(撃つまであと1、2……3!)
穂先から鋭く尖った稲妻が現れた影に向かって一直線に向かっていく。
完璧なタイミングと充分な火力を持ったそれはドアの向こうに放たれた。
着弾点から煙が上がり、ぷしゅぷしゅと音がする。
(やりましたわ!)
と確信できるであろうタイミングだった。が、その煙が晴れた先には……
(いない……⁉︎)
ドアの向こうから攻撃を知ることは不可能である。エレインの神器による雷は文字通り電光石火。あの一瞬で交わすのも不可能である。そのことからエレインが導き出した答えは……
(神器……それもおそらく未来予測のようなものですわね。それならドラゴンがいたことや転移魔法陣をタイミングよく遠隔起動できたことも納得できますわ。)
そうエレインが思考している間に、ドアから当の本人が現れる。
青色の髪をし、白いローブに身を包んだ青年だった。メガネの奥の眼は鋭くエレインを見つめており、その手には懐中時計かなにかだろうか、円盤状のケースを持っている。
その青年は表情を変えずに、しかし声は億劫そうに話し始める。
「無駄なことをしないでくれる?こんな仕事さっさと終わらせたいんだ。抵抗せずに殺されてくれるといいんだけど。」
「そちらこそ無駄なことを聞くのはやめくださいまし。その言葉に
未・来・という言葉を聞いたとき、その青年の鉄仮面が少し動く。一回何かを考えるかのように上を向いて、そしてその鋭い眼をより細くしながらエレインに向き直る。
「やっぱり厄介だな彼は。彼がこの世にいるだけでどれだけの迷惑を僕が被っていると思う?」
「さあ?あなたの言っている彼がランスとかいう庶民のことならば、
「はは!それは僕も同意だね。おもらしは僕もしたくないから。」
その発言が行われた瞬間、エレインの身体が残像を残し消え去る。
雷の軌跡が部屋の中に一筆書きされ、青年のそばの壁や地面が複数箇所えぐれる。
"纏雷"
彼女が神器を使いこなせるようになってことで使用可能になった能力。自身の身体に雷を纏い、稲妻の速度で移動する攻撃である。
今まで出せなかった王家のポテンシャルを遺憾なく発揮した一撃。だが、それもまた青年には届かなかった。
「だから無駄だって。やめてくれないかなお願いだから。早く戻って彼を嬲りたいんだ。」
「はぁ……はぁ。なぜかすりもしないんですの……。」
彼女の攻撃は未来予測ができたとしても回避困難な超高速を実現している。
それを回避できているということは、ただ単に青年の実力が彼女の数段上だという事実でしかない。
「もうわかっただろ、君に勝ち目はないって。だからさっさと……。」
「あなたこそ無駄なことが好きなようですわね!
青年はもう一度上を見上げる。
空はなく、灰色がただ塗りつぶされたかのように二人を覆っている。
それでも彼は満足そうに顔を下げる。
そこには今までのポーカーフェイスでは無く、邪悪な笑みが浮かんでいる。
「……君達は一番悪い未来しか選ばないんだね。そこで諦めてたら尊厳は守れたのに。」
そして彼は何も持ってない方の腕を前に伸ばす。それと同時にエレインの姿が掻き消える。
開かれたドアの前には焼け焦げた稲妻の後。そしてそれに反応し攻撃しようとしたドラゴンの無惨な死体。
エレインがやったのではない。彼女がドラゴンの目の前を通る事よりも危険だと判断した何かによって切り刻まれたのである。
「さあ鬼ごっこの始まりだ。普段はへそを取ってる雷《鬼》が逃げるなんて面白いじゃないか。君が取られるのが何かは僕の気分次第だけどね。」
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