第5話 エレイン・ペンドラゴン

「つまり俺に興味が湧いたからCクラスになったと?」


 普通に投票で負けて委員長になれず、その上クレア先生に「副委員長へ立候補する人がいなかったのでランスくんお願いします。」といわれ、結局本来の目的が果たせずにやりたくもないものまで背負わされる結果になった悲しさに、放課後までずっといじけて項垂れていた。

 その上何故かCクラスになっていたこのフレアとかいう奴。理由を聞けば俺と同じクラスになりたかったからだとかほざきやがる。

 じゃあ俺負けたの何でだよぉ。普通に勝ち譲ってくれよ。2人とも仲良くAクラスでよかったじゃん。


「いいだろう?落ちこぼれクラスで二人一緒に青春生活を満喫しようじゃないか。」


 いやだよ、こんな奴と。

 フレアはそのイケメンさわやかフェイスに、うざったい笑顔を張り付けながら事も無げにCクラスに入った理由を告げた。

 気になるやつと同じクラスになる……という思考はまだ理解できるが、そのためにわざと負けてまでCクラス落ちするというその行動力というか馬鹿さ加減というか。頭くるってるんじゃないのか。


「僕もいるよ?」

「俺らもいるぜ。」

「フレア様のいるところにいつもついていきますよ!」


 モブ1と2もいますよと。こいつら区別するの大変なんだよな。


「まあまあ、ランス君も元気出して。そうだ!この後どっか行こうよ。教師寮のとこのカフェテリアのケーキがおいしいらしくてさ!」

「男二人でケーキ食いに行くってのもなぁ。」


 こいつらがついてきたら男五人になるという可能性もあり得る。

 ちなみにこの学園は結構娯楽施設がある。というか、基本キャメロットの結界の外に出るのはそれなりに面倒な手続きが必要なので、そういうものもないと成り立たない。

 それなりの身分の方々が入学していることもありこの学園の防壁は鉄壁。魔術的にも物理的にも突破は不可能。この世で最も安全な場所だと言える。


「カジノとかは?」

「あるにはあるらしいんだけど……一応学園からは禁止ってことになってて。どこでどんな風に行われているかはわからないんだよね。先輩とかにつながりがあれば聞けるかもだけど。」


 娯楽と言えばギャンブル!ギャンブルと言えばカジノ!ってことでどうせないだろうと思っていたが

あったらしい。

 貴族様だろうが勉学に励む学生であろうが息抜きは大事だしな。この荒んだ心を癒してくれるのはギャンブルだけだぜ!


「誰か情報源に心当たりは?」

「あっ、俺噂で聞いたことあるっす。2-Bに行くと仲介してくれるって。」

「よし来た。」


 よくやった取り巻き2。お前の名前は覚えてやろう。


「フレアもそれでいいか?」

「君の行くところならどこでも。」


 きめぇなこいつ。

 まあやることも決まったので、男5人でぞろぞろ2-Bへ向けて歩き出す。放課後の教室や廊下には初日ということもありそこそこな活気が溢れていた。

 まだ日も沈もうとすらしていないので、俺たちのように何らかの目的を持ってる人たちからなんとなく歩いている人たち、委員会の勧誘をする奴、しまいには武道場で試合をしませんかーなんて言っている奴もいる。

 しかし一年生のフロアを抜け、二年生のフロアに差し掛かるにつれその熱気は薄くなり、ぽつぽつと人も少なくなってきた。

 そんな中トリスが思い出したかのように聞いてきた。


「そういえば副委員長のお仕事とかあるんじゃない?」

「あー、そういえばそんなのがあったな。」


 なーんかクレア先生がなんか呼んでたような呼んでなかったような。寝てたからわかんね。どっちにしろ委員長会議に出席できない以上俺の目的は副委員長では果たせない。どうせ雑用押し付けられるだけだろうし無視無視。


「えー、一応聞いといたほうがいいんじゃない?」

「トリスは心配性だなぁ、大丈夫だって。」


 仕事はサボるためにあるんだぜ。


「そーいえば委員長ってあれですよね。王女様。」

「王女?」


 取り巻き1が気になることを。


「そういえば彼女のお話も聞いてなかったしね。知らないか。」

「はははは、図太いところもランスの魅力だと僕は思うよ。」


 きめぇなこいつ。

 フレアが笑顔で気持ち悪く誉めてくるが、お前に何いわれても自己肯定感は高まらないんだよなぁ。

 もっと可愛い女の子に言われたい。可愛い女の子といえばできればヴィネア王女に言われたい。あのクールな雰囲気な王女様がその鉄仮面を外したらどんなに可愛いのだろう。


「うん?そういえばあんま似てなくなかったか?」


 ヴィネアの姿を妄想もとい想像していたら、あることに引っかかった。

 確かエレインとか言ったか。寝てたとはいえ姿形くらいは見た。ヴィネアに似ているとは全く思わなかった記憶がある。


「うん、同い年だけど別に双子とかじゃないんだよ。腹違いだったっけ。見た目も全然違うよね。」

「なるほど。」


 何でそんな王女様がCクラスにいるんだと思ったら、その回答を取り巻き2が答えてくれた。


「お姉さんが凄すぎてあまり注目されてないみたいっすけど、歴代の王族でもかなりの落ちこぼれらしいっす。巷じゃポンコツ姫なんてあだ名が付いてたりして。」

「ふーん、あっ、着いた。」


 ここが2-Bか。上級生のクラスって聞くとなんだか特別な気がするが、別段一年と変わらない。


「えぇ、僕カジノとか初めてで怖いんだけど。ランス君は行ったことあるの。」

「ああ、言っとくが俺にカジノやらせたらすごいぜ。出禁になったこともあるくらいだ。」

「へー、そんなに勝つんだ。」

「ああ、パンツ一枚になった後で自分の臓器担保にしたら出禁になった。」

「ダメじゃないそれ。」


 くっそー、もっと裏社会に近いところのカジノでやりゃー普通に受け入れられたんだけどなー。


「よっしゃー!行くぞ!」

「いやいやいやランス君は絶対もうギャンブルとかやっちゃいけない性格だよ!」


 いやいやいや、確率的に次は勝つって。

 大金持ちへの夢を抱きながら、扉を開けた。



  ◇



「ま、こうなるよな。」


 パンツ一枚でそれ以外すべて剥ぎ取られカジノから蹴り出された。

 カジノは学生寮の裏にひっそりと建てられた小屋の中にあり、その中の活気に反して外見はただのおんぼろ物置といった感じである。消音と人除けの結界が貼ってあり、意図して近づかなければ見つけることもカジノだと気づくことも不可能だろう。

 あれから二時間余りが経ち、まだ日が出ているもののさすがに裸一貫で外にいるのはすっっっごく寒い。


「さすがにバカだわ。」

「どれだけむしられたんすか?」


 俺の後に出てきたのは取り巻き1と2。

 確か俺以外の結果は取り巻き1がそこそこ負けていて、2が勝ち。トリスは±0(ほとんど見ているだけだった)、んでフレアが出禁一歩手前くらいにボロ勝ち。

 うぜー、ギャンブルの才能を持ち合わせているとか神かよ。唯一の尊敬できる点だな。


「どれくらい失ったんすか?」

「うーん、全財産って言ったらどうする?」

「人間性を疑うという答え以外あるんすか?」


 あの、庇護欲とか湧いてこない?


「お金貸しましょうか?さすがに制服くらい取り戻したほうがいいっすよね?」

「ふっ、この俺がそんな簡単に借りなんて作るかよ。」


 そんなに安い男じゃないんだからねっ!


「じゃあ貸しませんっすわ。」

「すんません貸してください十倍にして返すので。」

「とことんクズっすね。」


 男にはな、なんと言われようとも進まなくてはならぬときがあるんだよ!


「こんな人に貸すのやなんすけど。」

「いいのか?あれしちゃうぞ?」

「あれってなんですか?」

「土下座。」


 見せちゃうぞー、齢15にして全力の土下座見せちゃうぞー。


「そんなことされても嫌ですけど。」

「えー、やだやだやだ!ギャンブルしたいのー!」


 おら!成人(わが国では15で成人)仕立ての男が駄々こねてるんだ!金貸せ!


「はぁー、そうっすね。俺たちの名前を憶えてくれるな――「やっと見つけましたの。」

「グハッ!」


 俺のみぞおちにヒールが!深く突き刺さってる!服着てないからクソいてぇ!


「なんであなた裸ですの?――ああ、そこのカジノで負けましたの。」

「エ、エレイン王女!?」


 ま、マジで!

 痛みをこらえながら上を見ると確かにクラスで見た顔が。ヴィネアに似た顔で俺を見下してきてる……少し興奮する!あともうちょっとでパンツ見えそう……超興奮する!

 しかしよく見れば似ているが、ぱっと見の第一印象はヴィネアとは全然違う。

 ヴィネアと同じくらい長い髪は雪のような銀色をしていて、左右で結んだ髪(ツーサイドアップ?というんだったか)が風でぴょこぴょこと揺れている。身長も低く子供と間違えそうな感じーーグハァッ!

 

「いてぇっ!……何で今踏んだの?」

「今私のこと子供みたいとか思いましたでしょう?」

「普通にクソ暴論だからねそれ。」


 普通に思ったけどさ。

 気にしてるのか……はぁ、俺がフォローしてやる。


「大丈夫だって、おっぱいは結構大きめだと思うぜ!」

「ふん!」


 うぐぅあっ!やば、いてぇ。マジでやばい!さっきまでと違って本気で踏んできやがった。

 エレインの顔には青筋がピキピキと立ってきており、次の発言をミスれば俺の体がダメージでマッハ!


「うーん……パンツは大人っぽかったぜ!」


 君のお姉さんよりもな!


「ふん!」

「ぐぅああああっっっ!」


 いっっっっってーーーーーっ!


「なんで君たち姉妹はこんなに俺に対して暴力的なんだよぉ。」

「多分ランス君が馬鹿だからじゃないかな?」


 あまりの痛みにあおむけになった亀のようにじたばた震えていると、入り口にトリスとフレアが経っているのが見えた。いつの間にか外に出てきたらしい。

 どちらも少しにやけ面なのがうざい。フレアはずっとこんな顔だがトリスは確実に悶えている俺を見て喜んでいやがる。


「ちょっとこのセクハラ野郎を借りていきますわね。」

「うん、いいよ。五体不満足でもいいから生きている状態で夕飯までに返してね。」

「俺の権利は?意思は?」


 学生寮のペットなランス君じゃないんだよ!生きた人間ね俺。


「王族と貴族を前に平民がそんなもの持ち合わせてるわけないでしょう?」

「いいのか?いよいよパンツまで脱ぎだしてやるぞ!全裸でてめぇの悪評ふりまいてやるぅぅぅぅ!」

 

 お前が俺の裸からちょっと目をそらしてるのわかってんだからな。


「ふん!」

「ぐぅあぁぁぁぁっっっっ!」

「学習しないね。」


 こうして暴力を前に、抵抗むなしく俺は連れていかれたのでした。

 めでたしめでたし。

  









「結局俺らの名前でなかったな。」

「そうっすね。」

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