第2話 入学式

「新入生入場」


 その声が聞こえるとともに前の列が会場へ入っていく。盛大な音楽と拍手が鳴り響き、吐き気がするほど緊張していた心も、否応なしにテンションが上がっていく。

 まだ肌寒さを感じる春の日差しだが、熱狂のせいか少し汗ばむほど暑い。少し高ぶった心臓の鼓動を落ち着かせるために隣の男子に話しかける。


「なあ、俺の髪型とかって大丈夫かな。変じゃない?服装は?人多すぎて心配になっちまうよ。」


 話しかけているのはかわいらしいと俺と不良たちのボスの中で話題のトリス。学生証は何とか燃えてなかったらしい。

 よかったね!


「ランス君のせいだけどね。」

「まあまあ、寮の部屋も同じになったころだし。仲良くしようぜ!」

「仲良くするのはいいけど。」

「それならよかった。それで俺の服装どうよ!」

「うーん、変。ランス君…すこーし、いや結構柄が悪いよね?そんなんだから不良と間違われるんだよ」

「え?」


 俺のこの圧倒的ファッションセンスが?


「千年に一度の才能と(妹から)謳われたこの俺の⁉︎そんなわけあるかーい!」

「そこのチンピラみたいな制服改造してるやつ!うるさい。黙りなさい。あとファッションセンスはゴキブリでも見習いなさい。」


 誰だよそんな奴。この俺を見習ってもっと良い恰好を心がけるんだな。




「ふう、何とか終わったぜ。」


 入場が終わり席に着く。校長の誰も聞いていないであろう長ったらしい話が始まり、観客から注目される入場も終わり一息つくことができた。

 ちなみに注意されてたのは普通に俺だった。マジであの教授次あったらぶん殴るわ。


「あ、そうだランス君。言い忘れたことがあったんだけど。」

「なんだ、服装に関してはもう言わないでくれ。普通に傷ついたから。」

「チャックずっと空いてたよ。」

「!」



  ◇


 

 入学式やその後の説明などもろもろ終わり、俺たちは寮に帰ってきた。今日一日濃かったなぁ。主に王女様関係で。

 同じ部屋にトリスがいる、ということは僥倖である。俺って結構寂しがり屋だからさ。友達いるって大事。見たところ準備なども終わりトリスも暇になってきたようなので、考えていた大事なことを話してやろう。


「アピールが大事だと思う。アッピーールがさ。」

「何の話?」


 トリスは不思議そうな顔でこちらを向いている。そうか、本題をいきなり話しても伝わらないか。


「俺が王女様と付き合うためにどうするかって話。何もしなかったら到底無理だからな。」

「何かしても無駄だと思うけど。」


 正論やめろ。


「まあまあ、とにかくあっちへ俺の魅力を伝えなくちゃダメなんだ。そこで明日ぁぁぁぁぁ!!!」


 ドンッッ!!


「すんません!」


 壁ドンされたわ。


「明日って……確か模擬試合があるんだっけ?確かにそこで実力を発揮したら注目されるね。」


 そう、模擬試合。神器の能力や個人の魔術や体術の技術を新入生同士で試合させてはかろうという取り組み。今後の学園生活全体での評価にも絡むし、同じクラスのヴィネア王女も参加する。これを制すれば夢の恋人関係へと一歩近づくこと間違いなし。


「そんなうまくいかないと思うけどなぁ。」

「とにかく、明日の模擬試合で強いやつ相手に勝てば俺の評価爆上がり。そこでトリスには強いやつを教えてほしいんだ。」


 この学園にはいろんな貴族様が入ってくるからな。平民である俺は知らないが、トリスなら貴族特有の情報網か何かで知っているんじゃないか?


「うーん、一番強いのはヴィネア王女だね。」


 知ってるよ。今日10メートルくらい吹き飛ばされたからな。あんな竜みたいな膂力持っている奴にかなうわけないでしょうが。


「それ以外なら……フレア君かな?フレア・リングベル君。名門の出で、歴代の中でもトップクラスの実力なんだってさ。」


 リングベル、その名前は俺もなんとなく聞いたことがある。その家系に伝わる超強力な神器持っているんだっけか。


「うん、紅蓮の指輪。能力はシンプルに炎を出すだけなんだけど、他の神器とは一線を画す威力を持っているらしいよ。」

「へー。」


 神器の中でも超特殊なものとしてあるのが、遺産アーティファクトと呼ばれるものだ。あまりに強すぎた過去の神器が、使い手の死後も残り続けている現象。その神器に適応したものは、自身の神器に代わってその神器を使用できる。

 確かヴィネア王女が持ってるやつもそうだった気がする。


「能力がわかっているからな、事前に対策はいくらでもできる。よし!トリス。今日は徹夜で作戦会議だ!」

「えー、寝たいんだけど。」

「気合い入れていくぞ!明日は……勝つっっ!!」


 ドンッッ!!


「すんませんっ!」

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