全ての神器を操れるから無双したい〜けど惚れた王女には敵いません〜

銀城

第一章

第1話 プロローグ

 「ちょちょちょっちょぉぉおおーいぃぃぃっ!」

 

 皆さん、この俺ランス15歳は入学式には行けません。なぜなら今鬼ごっこしているからです。

 まず、数時間後に迫った入学式の前に「寮生活前に街をぶらつくか!」って街を散歩していて、なんか不良っぽい奴らに絡まれてる同じ制服を着ている男の子を見つけて、不良どもを蹴散らしたらなんかゾロゾロと増え出してきて、数十人体制の元で追われているのである。

 以上説明終わり。


「あれ?お前のせいじゃね?」


 裏路地を走りながら同じく逃げている同級生と思わしき男の子に声をかける。視界がすぐ後ろに流れていく中、風が顔に強烈にぶつかり、その音がごおぉぉぉとうるさいので声が届くか不安だったがそれは杞憂だったぽい。返事が返ってくる。


「僕だって被害者なんだよ!なんか変に絡まれて追われるし!助けてくれた人は頼りないし!」

「うるせぇ、助けてもらって文句言うな!」

「ごめんね。」


 素直だなぁ。

 こんな素直な子が追われてるなんて俺悲しいよ。


「あれ?別に逃げなくてよくね。このまま学園まで直行すれば別にいいやん。」

「そういうわけにもいかなくてねぇ。学生証奪われちゃったんだよ。」


 あー、そういうことね。それなら学園には行けない。

 でもだからといってあいつらと正面切って戦うほど強くはないと。だからとりあえず逃げてどうするか考えてると。


「俺帰るわ。関係ねーし。」

「いやいやいや、ね?頼むよぉ。君いないと不良たちから逃げることだってできるかもわからないし?」

「いやだってね。面倒くさいし。」

「頼むよ、お礼ならするからさ。」


 女の子だったら迷いもせず助けて「キャー王子様ぁ!抱いてぇ!」って言われるのもやぶさかではないけどさ。このトリスという男の子は一部の女性たちが喜びそうなかわいらしい容姿をしているが確実に男なのだ。うーん、そっちの趣味はなぁ。


「いや、よく見れば行けなくとも?」

「いけないからね絶対。」


 っちぇ。新たな扉に入るのはまだ早いらしい。


「本当に追われる心当たりないのか?」


 流石にこの人数に追われているのは普通におかしい。しかも学生証を人質にまでされてるし。この町の不良が勢ぞろいしているのだろう、どんなに走っても追いかけてくるし、どんなに走ってもその先に待ち伏せされている。


「お前を狙う理由なんてあるのかよ!」


 俺たちのように騎士学園キャメロットに入学する生徒はそれなりの入学試験を突破した大エリート様だぞ。一般人が少し集まったところで相手にならないはず。今は人数が多くて逃げているが、少しずつの人数を相手にしていればじきに全滅させれるだろう。


「お金目当てじゃない?」


 うちの学校は性質上貴族しか入っていない。誘拐して身代金でも要求すればそれなりの額が手に入るだろうが……


「リスクリターンが合わないと思うが……うおっとぉっ!」


 曲がり角で誰かとごっつんこ。これが美少女だったら大歓迎どころか自分からぶつかってラッキースケベしに行くんだけど、実態はなんかやばい男たちとエンカウントですよ。

 もうすぐキスしちゃいそうなくらいに顔が近づいた男には股間に膝蹴りをかまし、もう一人奥にいる奴には代わりに俺のこぶしとキスをしてもらう。

 鈍い音と肉の感触と共に吹っ飛んでいく不良。とりあえず負ければいいので股間を抑えてうずくまっている奴はそのまま放置。


「おお!頼りないとか言ってごめんね。」

「お前ぇ!俺がいなかったらとっくにつかまってるんだから当然だろ!」


 これで二回目。俺たちが挟み撃ちにされた回数ださっきのはなんとか回避し、今回は交戦せざるを得なかった。

 これは確実に神器を使われている。魔力探知か千里眼か。どちらにしても対応策はある。


「さっさと行くぞ、人ごみに紛れれば多少は逃げやすい――。」


 俺の学園生活の目標は友達百人ならぬハーレム千人モテモテ生活なんだけどぉ!ペース的には一日に一人増やさないとダメだからこんなことしている暇ないんだけどなぁ。


「一学年百人ちょっとのうちの学園でその人数は無理なんじゃないかなぁ。」

「なん……だと?」


 あと心の声を読むな。


「いやぁ、すっごくわかりやすい顔していたから。」

「顔からそんな具体的な情報まで読み取れるんだったら占い師でもやったほうがいいよ。」


 そして俺の占いをしてくれ。


「うーん、大凶だね!」


 そりゃそう。

 でもそんな笑顔で言うことかなぁ。



  ◇



 神器とは神様から人間へ送られた祝福。

 誰もが生まれた時から一人一つ持つ固有のもの。

 様々な道具の形をして、その強さはピンキリ。

 マッチ棒程度の火を出すものもあれば鉄をも溶かす火力が出せるものもある。

 紙すら切れないハサミ以下のものもあれば山を真っ二つにできるものもある。

 大昔の神話の時代に魔物に対抗するために人間に授けられたという話もあり、魔術なども含む人間の技術は、神器を解析し、逆算し、模倣したものだという。

 そんな話数千年たった今では眉唾物だが、実際にその時代から受け継がれている神器もあるのだから一部は本当なのだろう。


「まあ実際のところ一般市民には関係ないんだけど。」


 突然変異が無いこともないが、基本的に神器は血統によって傾向がある。戦闘に使えるような武具や生活に役立つ有用なものの血筋は軒並み貴族になっているわけで。

 この世界の成り立ちに関わる重要なもののわりに普通に生きていたら縁遠いものである。だが厄介ごとがあるときに何らかの形でかかわっているのもまた事実。

 

「どう?僕の神器こんなことができるんだよ!」


 人ごみの中に何とかまぎれることができ、少し余裕のできた中にトリスがその神器を見せてくれた。俺たちは今あんまり会話を聞かれたくないため遮音の魔術を使い、広場を歩きながら話している。ここのシンボルの時計塔を見上げてみると、集合時間までは三時間ほど。移動のことも考えると二時間ぐらいで何とかしなくては。


「誰?」


 さっきまでのトリスは金髪褐色の制服姿のショタだったと思うが、今の姿は彼をそのまま女の子にしたような感じになっている。制服も女子用になり体格は少し膨らみ、髪もロングになっている。顔立ちは変わっていないのに女の子に見えるあたり、もともとの見た目が中性的だったことがよくわかる。


「よーし、お兄さん張り切っちゃうぞー。さっきの十割増しのやる気でやってやるぜ!女の子相手だと本気出すタイプだぞぉ。」

「違う、神器で姿を変えてるだけ。でも君には女の子だって言ったほうがよかった気がするー。」


 はっはっは、そう拗ねるな。男でも半分以下のやる気で手伝ってやるから。

 よく観察してみると見た目どころか魔力の波長まで変化している。幻術の類ではなく実際に肉体を変化させている証拠である。

 もともと女の子で、さっきまで男の姿になってたとかはなさそうなのが悲しい。


「ところでその姿はあんま意味ないんじゃないか?もっと別の見た目にしないと。」

「そうだね。じゃあ……」


 彼(彼女?)がそう言うと、その手の中が光り輝き、粒子が姿を変え何かが形作られていく。一秒もたたないうちにそれは装飾を施された鏡へと変化する。

 その鏡が強烈に光り出すと、その光がトリスを包む。


「うお!」


 ご近所迷惑でしょうが。別にその光出さなくてもできてたじゃんさっき。


「いいじゃん、どう?この格好。」


 光が晴れるとトリスの服装八先とは違うものになっていた。真っ白のワンピースに麦わら帽子。褐色の肌も相まって真夏の日差しを感じるような健康的な見た目をしている。こんな人ごみよりも砂浜と真っ青な海が似合うだろう。


「いま春だぞ?」

「いいじゃん!レパートリーが少ないの!」


 ファッション雑誌でも読もうかなーとぼやいてる姿を見ると、さっきまで男だったのが信じられない。こっちを見てはにかむ様子を見ると少しドキッとしてしまいそうだ。


「うーん」


 本当に女の子になってるのかなぁ?

 僕気になるなぁ。

 これは学術的に気になるという話でやましい気持ちはないんだけどさ。


「うん?なんか目つき怪しくない?

「えーい!」


 しゃがんで視線をトリスの腰のあたり前もって行くと、手をワンピースの裾までもっていき、つかんでそのまま巻き上げる。


「きゃっ!」


 かわいらしい悲鳴と共に上がった布の中に隠されていたのは褐色のすべすべした足。そしてその先にあるのは財宝。男の夢。それがついに――


「ってあれ。」


 短パンはいてるじゃねーか!!!!


「僕もそこまで再現なんてしないよ!」 

「ううぅ……ぐすん。そんなひどいことってないよぉ!」

「スカートめくるような奴にひどさを語ってほしくないね!」


 トリスは真っ赤な顔をしながら俺をなじってくる。いいじゃーん、見られてないんだから。


「そういう問題じゃないでしょ!まったくもう。

「男同士なんだから別にさ、見せてくれたっていいじゃん。そうだ、俺のも見せてあげるから代わりにってことで。」

「僕がむさくるしいおっさんに姿変えた後なら考えてあげる。」

 

 やだそれぇ。


「俺のパンツはおっさんのパンツとは等価にはならないぜ!」

「逆に女の子のパンツと同等の価値があるのランス君のは。」


 トリスはあきれたようにそう言った後、思い出したように別のことを聞いてきた。


「そうだランス君は何か対策しなくていいの?」

「ああ、魔術でどうにかしてる。」


 トリスみたいに見た目を変えることはできなくてもやりようはあるのだよ。


「神器はあれだけど魔術については一家言あるぞ。今回はまず魔力の波長を変えるために――」

「うわぁっ!」

「見つけたぞおまえらぁ!姿変えたところでバレバレなんだよ!」


 ここでみなさんに魔術の解説をこの俺ランスが特別にやってあげましょう。

 魔術とは構築した魔術式に魔力を通し、魔力の形を変化させることで様々な現象を引き起こすことを言います。そのためあまり知られていないけれど魔術で作られたものは本物のように見えてもただの魔力の塊なんです。基本的には声による詠唱で魔術式を構築します。

 また、魔術の分野の中には魔法というものがあります。魔法とは事前に魔術式を刻んでそこに魔力を通しておき、条件を付けることで一定の行動をすると勝手に魔術が発動するというものです。法の下で発動する魔術だから魔法なんですね。


「ちょ、やめて――」

「んぎゃぁー!」

「?」


 なんでこんな説明をしているかというかというと、先ほど腕を引っ張った際にトリスの腕に魔法を仕掛けていたからですね。俺以外にトリスの腕をつかんだ奴がいると電撃が流れるというね。


「ふ……さすが俺、天才だな。」

「てめぇの仕業かゴラァ!」

「ひでぶぅっ!」


 まあ、あんま時間なかったんで気絶するほどのものを仕掛けられなかったから、普通に反撃されましたけどね。


「殴りやがってこんのクソ野郎がぁ!ぶち殺してその死体猫の餌にでもしてやらぁっ!!!」

「ちょっと起こりすぎてどっちが悪者だかわからなくなってるよランス君!もとから柄悪い見た目と滑降しているんだから!」


 え?俺のこのイケメンフェイスとファッションがこんな不良どもと間違えられるできなわけないでしょ。


「とにかく逃げよう!」

「てめぇ、次会ったとき原型とどめないくらいにボコボコにしてやるから覚悟しとけよ!」


 この人込みでは見つかった後に反撃ができねぇ。裏路地逃走生活に逆戻りかぁ。臭いんだよなぁあっこらへん。


「トリスがパンツ見せてくれたらなぁ、やる気出るんだけど。」

「…………。」


 とうとう反応してくれなくなっちゃった。セクハラはダメですよ皆さん。



  ◇



 ここはこの町のシンボル、時計塔の内部。普段は管理人が常駐しており、時には観光客が来るような平和な場所であるこの時計塔は、いまや不良たちの巣窟となっている。

 そんな不良どものボスであるアークは、窓から自身の眼鏡の形をした神器を使って周囲を見渡していた。そんなアークに部下が二人近づいてくる。


「いませんか?あいつら。」


 話しかけた部下のほうにも目も向けずにアークは答える。


「ああ、俺の神器は遠くまでくっきり見れるが、別に物を透かせるわけじゃねーからな。死角はある。あいつらがたまたまそこで姿を変えたのかもしれねー。」

「あー、物を透かせられたら便利だったんですけどね。覗きとかできますよ!」


 そうやってアークと部下が話していると、また別の部下が下の部屋から大急ぎで駆け出してくる。


「ボス!」

「どうした。」


 切れた息を切らす間もなくその部下は次の言葉を発する。その様子から急を要することを察し、外の様子を見るのをやめて、部下に視線を向ける。


「なんだ!」

「あいつらが侵入してきたようです!神器と魔術で姿を変えて見失ってしまいましたが……。失礼ですがそいつらは?」

「あ?そりゃ俺たちの仲間――じゃねぇ!誰だてめーら!」


 ぞろぞろと下の階から部下たちが集まってくる。侵入者を探した上で、最後に残ったのがこの部屋だったのだろう。

 当然その視線は誰かわからない二名に向けられる。


「ふっふっふ、ばれちゃあ仕方ない。」


 当然その侵入者ってのは……


「そう!この俺ランスと!」

「学生証を奪われてるトリス!」

「二人合わせて!」

「人呼んで!」


 別に名称なかったわ。


「どうする?ここは俺のかっこよさとお前のかわいらしさを強調する名前にした方が……」

「別に僕かわいらしくないよ!」

「お前ら、なぜここがわかった!」


 あまりの驚きから、すっごくテンプレートな質問を投げかけてくるボス。いやー、そういう反応されるとうれしくなっちゃう。


「まずお前の神器が遠くまで見通せる千里眼的なものだってわかったからさ。物体を透過して見れない程度のちゃちーものだってな。


 俺たちが魔力の波長を変えても姿を変えても見つけられたのは簡単。上から全部見えてたってわけ。


「だからといってもここだとはわからねーだろ!」

「簡単だよ、死角からさ。お前らの動き的にあからさまに動きがばれてるときとそうでないときがあったからな。そこから逆算してここってわかったわけさ。」


 資格があるはずなのに、人ごみの俺たちを見れてた。つまり上から見られる時計塔ってこと。いやー俺頭良すぎて困っちゃうな―。

 そんな簡単に場所突き止められた馬鹿なボスが俺たちに向かって叫ぶ。


「馬鹿なのかお前ら!何のために逃げてたんだよ!こんな俺たちの本拠地に入り込んで無事に出られると思ってるのか?」

「思ってなかったらこんなとこ来ないっすよ。馬鹿っすか?」

「ああ?」


 まあ、聞きたいこともあるし。


「なんで俺たちを追うんだよ。迷惑してるんだこっちも。俺たちのデートを邪魔しやがって。」

「こいつらに追われてるから僕たち出会ったんだよ。」

「別にお前に用はなかったよ。俺が用あったのはそこのトリスだけだ。」


 やっぱり、じゃあ俺帰っていいかな?


「ダメだよ。」

「ちぇ。」

「それで君たちは僕にどんな用があって学生所まで奪って、捕まえようとして!なんでこんなひどいことができるんだい!?」

「君が俺のストライクゾーンど真ん中の男の娘だったからだ。」


 は?


「朝見かけたときに一目ぼれしたんだ。ぜひ俺の嫁になってほしいと。犯したいと。そう思ったんだ。純粋な恋心で。俺の人生でここまで胸が高鳴ったことはない!」

「へ……」

「へん……」


 変態だぁぁぁぁっっっっっ!


「うわー、俺本当にお邪魔だったじゃん。後はお二人でどうぞ。俺は帰りますね。」

「やめてぇぇ!助けてよ、やばいって。こんな奴に僕の初めて奪われたくないよ!初めてじゃなくても無理だよこんな変態!」

「そうだよな。まだ俺の方がいいよな!」

「ランス君も変態の部類だよ。」


 は?


「ああ!君を俺のものにするためにここまでしたんだ。君とこれからできることを想像するだけで俺はもうイキそうだよ!」


 さっさと逝ってくれないかなこいつ。

 でもこんな奴のためにこの数の部下がしたがってるあたりカリスマ性はありそうなんだよなぁ。短時間でここまでできる行動力もあるし。変態でさえなければもっと世間に良いものを残せそうな有能な人材だな。


「ああ!君が簡単に俺のものにならないのは残念だが、本当に欲しいものは苦労するのが相場ってものさ。」


 キャラ変わりすぎじゃないこいつ。


「いけ、我が四天王たちよ!最強の神器を持つ最強の部下たちよ!トリスじゃないほうは殺しても構わない。絶対に逃がすなよ!」

「「「「うす!」」」」


 ボスがそう言うと、部下たちの集まりの中から四人が抜けだしてくる。

 四天王はよくわからんが、皆その手には武器型の神器を持っている。平民に戦闘に役立つような神器を持っている奴は少ない。こんな不良たちの中に。ましてや四人も!


「お前ら、もっと他のことやった方が絶対いいぜ。」

「うるさい!俺たちはお前の情報だって持ってるんだ。」


 こいつら本当に有能。


「お前はキャメロット初の平民出身の出なんだってな。」

「へー、ランス君があの!どうりで。」


 何がどうりなんだトリス君さ。


「しかも神器を持ってないんだってな。神からも見放されたカス野郎。コネで特待生として入学したクズ野郎。いろいろ言われてたぜ。」


 やだ、俺の評判悪すぎ!


「はー、その情報にはこう書かれてなかったか?」

「なんだ、これ以上は悪評しかないぞ。」


 まだあるの?


「俺は人の神器を操れるんだ。こんな風に。」

「は?」


 その瞬間四天王のうちの一人が持っている神器が爆発する。ドンッッ!という爆発音が響き、強烈な風がこちらに吹き付けてくる。あらかじめ身構えてた俺は何ともないが、トリスや周囲にいる不良どもは耳を抑えてうずくまっている。

 しかし、近くにいた四天王全員はその強烈な爆発をもろに食らい吹き飛んで壁に激突する。ぐしゃ!という嫌な音が響く。流石に加減したから死んでないと思うけど大丈夫か?


「おーう、すっげー威力。本当に強かったんだな四天王って。」

「くっそぉ!しかし奴は四天王最弱!」


 いや他も全員吹き飛んでるけど。


「てめぇら、数の暴力でそいつをぶち殺せ!神器を使わなければ別に問題はない!」

「「「「「「「うす!」」」」」」」


 速攻で俺の弱点に気付きやがった。もっとびびれって。


「はー、だから無策でここに来てないって。」


 迫ってくる部下どもを無視して俺はボスの方を向く。そのまま腕を前にやり――


 パチッ


 指を鳴らす。



「何やってるんだお前――うぐぉぉぉぉぉっっっっ!あついあついあついあついあついあついあつい。」


 俺が指を鳴らした瞬間腕から炎が伸び、一直線にボスの方へ。矢のような速度で発射された炎に反応出来ず、ボスはそのまま直撃。

 あまりの出来事に部下たちは俺に攻撃しようとしたことを忘れボスの安否を気にしている。少し室温が上がった部屋の中でボスは転がり、体についた火を消そうとしている。

 もともと体に対魔力結界でも貼っていたのか俺の予想よりもダメージを受けていない。


「本当にすごいなお前。」

「クソがよぉ!あらかじめこの時計塔に魔法を仕込んで置いてたなぁ!」

「そのとおーり。お前ら程度じゃ防げないぜ。」


 いや、こいつらならできそうな奴いそうで怖いな。


「はっはっは、雑魚ども俺にひれ伏せぇ!」

「悪い顔してるよランス君。でもこれはすがすがしいね!変態がボコボコにされてるのって!」

「そうだろ!」


 もう一発!


 パチッ!


「あれ?」


 パチッ!パチッ!パチッ!


「うん?」


 パチッ!パチッ!パチッ!



  ◇



「こんなところにおしっこしちゃだめよペロちゃん!」

「ワンワン!」

「うん?何かしらこれ。変な文字があるわね。」



  ◇



「発動しねぇ!なんで!?」


 マジで!え?本当に!


「はっ、なんかわからねーがもうできないみたいだな。」


 俺の慌てふためいている姿を見て、ボスがニヤリと笑って舌なめずりをする。


「ごめんトリス!貞操はあきらめて。」

「ちょっとぉ!あんな自信満々だったのにこのざまは何!」


 ごめんな、守れなかった。


「潔すぎるって!」

「今度感想聞かせてな?」

「さらっと自分だけ逃げれるつもり!?ランス君殺されそうなんだよ!」


 今からでも女装したら助けてくれないかな?

 この機を逃すまいと不良たちが徒党を組んで襲い掛かってくる。その手には鉄パイプやナイフが握られており、人数も数十人はいる。

 俺は素手。トリスも戦えないことはないだろうが俺よりは弱い。

 うーん、死んだかなこれ。


「死ねぇ!」


 不良の一人が振るうナイフが目の前に迫る。その刃はまっすぐ俺の首筋へ。

 ああ、最後に女の子のパンツかなんか見たかったなぁ。


 バゴォォーンッッッッ!!!!!!


 光が視界を支配する。さっきの神器の爆発なんかとは比べ物にならないほどの衝撃音が耳に響き、立っていられないほどの爆風に尻餅をつく。

 五感のほとんどが奪われ何が起こったか何もわからないまま数秒の時間が経つ。

 

「…………。」


 そこには一人の女の子が立っていた。周りの不良たちは全員気絶している。その女の子が発する魔力によってだ。あまりに人間離れしている魔力を周囲に発し、自分と魔力量に差がある者を気絶させているのだろう。まともに意識を保っている者は俺とトリスだけだろう。

 あまりの魔力に歪んだ視界の中でその女の子はさびれた時計塔に似つかないほどに美しかった。

 この薄暗い中でも輝く金色の長い髪。宝石のような碧色の瞳。俺とあまり差がないくらいの身長に黄金比のように完璧なスタイル。作り物のような容姿をしているその少女は俺たちと同じ制服を身にまとっていた。

 見たことがある。

 ヴィネア・ペンドラゴン。この我らアルビオン王国の第四王女。俺らと同じ年齢で、同じくキャメロットに入学すると聞いたことがある。百年ぶりに聖剣に適応した神童。人類最強の化け物。

 彼女は凛とした表情でこちらを向くと、きれいな立ち姿でこっちに歩いてくる。


「あら、まだ一人残ってましたか。」

「違うわ!要救助者だわ俺!」

「始末しないと。」

「いやだから!いてぇ!」


 痛い痛い痛い!顔面踏まないでって!つぶれちゃうって。あんたのパワーならトマトみたいにぐしゃってなっちゃう。


「俺被害者!わかる!?」

「失礼、うちの学園にはふさわしくない顔が見えたので。」


 確実に俺の身元知ったうえで攻撃しましたよね?


「踏まれてることは置いといてありがとうござます。死ぬところだったからな。」

「誰が……死ぬところだったのでしょうか。」

「うん?」


 あまりの有名人の登場にびっくりする……が、俺は別の要因からドキドキが止まらなかった。


「あ、あの。二つ言いたいことがある。」

「なんでしょうか?あなたの戯言なんて聞く暇がないのですが。」


 心臓が飛び出そうなほど緊張しているが、意を決して口を開く。


「パンツ見えてますよ。」


 純白の布が。俺を踏まれているので丸見えです。ありがとうございます。


「…………。」


 ぎゃぁぁぁぁぁっっっっっっっっっぅぅ!!!!!!!!!!!!!!

 腕がぁ!


「もう一つの内容によってはあなたを死刑にします。まだ殺していないのは温情ですよ。気を付けて発言してください。ふざけたことを言ったら……わかってますね。」


 わかってるさ。俺にとってはもう一つのことの方が大事だ。


「あなたに一目惚れしました。俺と付き合ってください。」


 とても大事なセリフなのに俺の口からはあまりに自然にその言葉が飛び出た。それだけ思いが強いってことなのだろうか。

 初恋。いままでそういうものに縁がなかった俺にとって初めての体験。


「あの……返事は?」

「…………。」


 俺を踏んづけていた足から伝わってくる圧力が薄れ、その足が浮く。ヴィネア王女はまっすぐな瞳でこちらを見つめている。

 踏んづけるのをやめたってことはもしかして――!


「うごばぁっっっ!」


 その瞬間伝わってきた衝撃によって肺の中の空気がすべて吐き出され、視界が流れたと思ったら背中に強い衝撃が伝わる。

 うーん、足が浮いたのは俺を蹴るためでしたか。


「ふざけたことは言うなって言いましたよね?」


 本気だって。

 でもまあ、お前に殺されるなら悔いはないさ。



  ◇



「大丈夫ランス君?」

「ああ、何とか死刑にはならなかったようだな。」


 まったく、人を蹴るなんて。野蛮だぞ!


「殺されなかっただけすごいよ。まあ彼女温厚な性格って有名だからね。それ以外の王族なら殺されてるよ。」

「彼女以外にそんなこと言わないさ。」


 ていうかヴィネアが温厚ってマジ?初対面で踏んできたやん。

 まあ、そういうところがいいんだけど。


「一応助けられたは助けられたからね。」

「確かに。」


 彼女が来なかったら危なかっただろう。


「それでさ……ランス君忘れてない?」

「なにを?」

「僕の学生証。」


 もしかしてボス攻撃した際に燃やしちゃった?


「ごめん。」

「ごめんじゃないよーーーっっっっ!!!!!」

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