Cと4と至宝
「これで最後……かしら」
俺とアンゼは偉大なる金髪……もといレイシー先生の後に付き従うように浮かび上がった四角形を巡っていた。
今まさにレイシー先生の目線を向けられているのがそこに埋まってる星型の栓。今回のターゲットだ。
星型の栓は持てる部分が少なく、力を入れるとかなり手のひらに刺さる。
ならばレイシー先生はこれをどうやって抜くのか?それ即ち……
「フォーメーション……C!」
「c!」
「し、しー……」
肉盾俺を犠牲前にする方法だ。
この方法には非常に優れている点がある……後ろの二人が圧倒的に楽ということだ。
逆にちょっとした問題点もあった。それは……
「バステカ、お前が前を張れ」
「断固として反対する!ていうか俺は三本目でやってやっただろうが!仕方なく!」
「一本も二本も変わらないだろう?」
「変わるわっ!超痛いんだからなこれ!」
犠牲前を誰がやるかという問題だった。
当然進んで手を上げるやつなどいない、いたとすればそれはトンだドMだ。
そんな押し付け合いを俺たち三人がまともに出来るはずもなく、醜い言い争いが始まる。
「だいたい、こういうのは一人一回ずつやってからもめるもんだろ?お前まだゼロ回じゃねえかアンゼ。
そう、この魔女っ子はあろうことかゼロ被弾でやり過ごそうとしていた。そんなこと神が許しても俺が許さないね。
アンゼは少し考えると調声して声を発したんだ。
「ねえしってる?かぶぬきのときはちいさいこがうしろなんだよぉ?」
器用なもので普段は自信に満ち溢れた声か落ち着いた声で喋っていると言うのに、今は子供特有の心地いいギリギリのラインの甲高さに、敢えて舌足らずさを加えた声……言うなればそれはアンゼの十八番、泣き落とし戦法を使う時の声だった。
どことなくクソ女神に似てきた喋り方にムカつくも、俺はアンゼの足を揚げ始めた。
「はっ!その年でそんなことやって恥ずかしくないんですかぁ?32歳のアンゼさん」
俺はどこまでも幼稚な返しをする、子供相手には俺も子供となって戦うべきなのだ。
これが階級別などとドヤ顔をしていると、俺だけが見える角度でニタリと笑った。まるでこうなることがわかっていたかのように。
「うえーん……ひっく、レイシーおねえちゃん!バステカがわたちをイジめる」
しまった!やつは最初から俺ではなくレイシー先生に対して仕掛けるつもりだったんだ!
慌てて俺も声を裏返して偉大なるレイシー先生のもとへ駆け寄った。
「ちがうんだレイシーせんせい!これはほんのおままごとのえんちょうせんだからきにするなっ!ははっ!」
俺の精一杯の対抗は、アンゼに比べて質も見た目も悪すぎた。
裏返した俺の声と引き攣った笑い声にレイシー先生は胡乱気な目を向けてくる。
俺の勝利は非常に苦しく、遠いところに置かれているような気がした。
「あんたは流石に無理あるわよ」
現実は非情だ。俺だって子供の頃に戻りたいというのに、少しくらい背伸びしたっていいだろ?
なあアンゼ、勝ち誇った顔してるお前だってその体じゃなければこっち側なんだぜ?少しは俺にも夢を見させてくれよ。
「バステカ、犠牲前頼んだわよ」
あゝ無情。
偉大なるレイシー先生はコロっとあの性悪魔女に騙された。
実質的な死刑宣告とアンゼのしたり顔を真正面から受け、俺は力なく鳴いた。
「おろぁ……」
半ば条件反射で俺の口からは嘔吐言語が溢れていた。
フォーメーションC。
その実態は俺がまず栓から手が離れないようにガッシリと両手で掴み、二番手のレイシー先生が俺の腰をしっかり掴む、最後にアンゼがレイシーを支える。
まさしく大きなカブを引き抜かんとする体勢だった。
「ファイッ!とぉ……!」
「ちょっとの辛抱よ!頑張りなさい!」
手のひらに刺さる星の角の痛みをかき消すように掛け声を上げる。
偉大なるレイシー先生も応援してくれている、ここで俺が根を上げてどうする!
「ファイッッ!!トォォォー!」
俺はギアを上げた。主に声の。
「ふぁいっ、とうー!」
背中越しに舌足らずで気の抜けた声が聞こえて来た。それは掛け声というよりかは応援のそれで、他人事のように気楽なオウム返しに俺の握る手に力が入る」
あいつ後で絶対しばく……!
決意を固めたとき、俺の力は最高潮に達した。
「ファイッッットゥーーー!」
俺たち一行は、ついに4箇所の栓を抜くことに成功した。
しかし、栓というには吹き出す何かを堰き止めるもののはずだが、未だ栓が引き抜かれた穴からは何も出てきていなかった。
「なあ、これはどう思う?レイシー先生」
「あ、あれ?確かにあたしの推理は合ってたはず……」
何も起きない穴を見て偉大なるレイシー先生は明らかに狼狽した。
考えられるのは一つ、俺たちはどこかを間違えたんだ。
結局は俺と大差ない狼狽える姿を見て、俺はレイシー先生から金髪先生へと扱いを降格させた。
「金髪せんせー、何か策とかないんですかぁ?」
「誰が金髪先生よ!態度が露骨なのよ!策なんてあったらとっくに使ってるに決まってるじゃない!」
「……レイシー、無策」
この場の誰が言ったわけでもなく、ただ漠然と夜待ちムードが漂い始めていた。
空を見上げてみれば、白い雲に青い空。気持ちのいいお日様が……ん?
そういやダンジョン内の空が灰色じゃなくてゴツゴツもしていないだなんて珍しいな。
気がつけば俺は5枚目の宝の地図を眺めていた。
「な〜んか思い付きそうなんだけどなぁ」
ヒラヒラと暇そうに宝の地図で遊ぶ俺に、アンゼは呆れ果てたような声で口を開いた。
「なにかないのか?」
「何かってなんだよ」
「それは何かに決まっているだろう、そうだな。例えばその5枚目の星のマークは何だ?」
「そりゃあお前これぞ宝……あ」
え、あるじゃん。俺は思わず二度見してしまった、いや四度見ぐらいはしていたかもしれない。
ダジャレだなんだと言って見落としていたが、俺たちはすっかりその言葉を忘れていた。
至宝があらわになってるはずだということを。
「レイシー!ちょっと地図貸してくれ!」
「ちょっと!急にどうしたのよ!」
狼狽えている暇はない、俺は早く試したいんだ。
レイシーの手元から4枚の地図をぶんどり、5枚目の地図と重ねて太陽に向かって透かして見た。
偶然とは思えないほど、綺麗に四角形の中心に位置していた。
「よし、行くか!」
「行くってどこに行くのよ」
未だピンと来ていないレイシーに向かって俺は歯を見せて笑った。
「決まってるだろ?至宝とやらを拝みにいくんだよ」
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