第11話  せめぇしうるせぇし臭い



 

  メイド少女は、ベッドで泣きながら、眠りについた。

 俺も、寝よう。

 寝るのは赤ちゃんの仕事だからな。

 

  が、うるさい。

 うるさくて眠れやしない。

 赤ちゃんが眠るのを邪魔するな。

 部屋に、メイドらしき少女や女性が次々に入ってくる。


 「諭記雄だ」

 「諭記雄がきた」

 「諭記雄は勝てるかな」


 うるせぇよ。

 メイド達がわらわらとやってきて、がやがやと騒いでいる。

 この騒ぎは止まりそうにない。

 どれだけメイドがいるんだよこの家は。

 当分寝れそうにもなく、この騒ぎも止まりそうにない。


 はじめに会ったメイド少女は、この騒ぎにも関わらず眠っているし。


 まぁ、彼女が眠っているのだから。

 このメイド達の中に、俺に危害を加えようとする者はいないのだろう。

 騒ぐメイド達皆の、俺に対する思いが。

 なんとなく伝わってくる。

 重いな。

 この重さに負けてしまっては。

 百億1千億以上の重さには勝てない。


 彼女達の騒ぎを聴いている内に、確かな事を認識する。

 彼女達は、俺が勝てるだろうかと言っても。

 絶対に勝てるとは言わない。

 そりゃあそうだ。

 その役割は彼女達にはない。

 不憫に思えた。

 彼女達全員に哀れみを持った。

 彼女達は英雄ではない。

 NPCのような存在とさえ言えなくもない。


 哀れではないか。

 英雄に縋る弱者達とは、なんとも哀れではないか。

 そんな弱者達を俺は。

 救いたいと思う。

 英雄だから。

 彼女達の今までの魂が。

 俺を育てるため。

 俺を守るため。

 俺の盾になるため。

 そんな事のために傷つき死んでいった魂達だから。

 そんな魂に哀れみを持たない俺なわけがない。


 お前達の思いは伝わった。

 哀れな弱者達よ。

 少し休め。

 俺も寝たいから。


 赤ちゃんなので、そんな長い言葉を口に出せるわけはないが。

 そう思った。


 すると、メイド達は眠りにつきはじめた。


 いや、少し休めとは言ったけどさ。

 全員が全員ここで眠るなよ。

 

 部屋が狭いし、いびきや寝言。かえりみ。

 うるさい。臭い。

 まぁ。それでも、彼女達への労いとして。

 うるささと部屋の狭さに耐えながら、俺も眠る事にした。

 

 やっぱせめぇしうるせぇしくせぇわ!

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