【実話怪談】二階のスタッフ
まちかり
・二階のスタッフ
以前にもお話ししましたが、まちかりは映像関係の仕事をしておりました。独立したパートでしたので、本隊とは別に現場に向かうことが多かったです。
本隊というのは、演出部と呼ばれる監督と助監督、カメラマンさんおよび助手さんたちの撮影部、照明を決めていく照明部、セリフなどを録音していく録音部、現場の諸々を準備する製作部、現場を装飾する美術部の一部、現場で何が決まったか記述していく記録部、メイクさんや衣装を準備する衣装部……
このあたりのスタッフは現場の中心になるので、まず現場に一番乗りします。一番乗りして何をするかと云うと、その日に撮るシーンのカット割りという、どういう映像をどういう風に、どういう順番に撮っていくかを相談して決めていくのです。
この相談が約一時間ほど掛かります。その間に俳優部=役者さんやまちかりのような補助的パートのスタッフ、小道具さんや操演という特殊効果部門のスタッフなどが順次到着してまいります。
まちかりはそんなに重要な部署でないのでゆっくりで良いのですが、万が一にも遅刻などは許されません。その上、まれに監督がカット割りを決める時に相談ごとをしてくることがあるので、なるべく本隊と同じ時間に現場に入るようにしておりました。
そうするとたまに本隊より早く、現場に着いてしまうことがあります。近くにファミレスなどあれば入って時間をつぶしていればいいのですが、本隊が遅れて着く場合などはもっと大変で、現場付近で待っていないといけません。ファミレスなどに入っていたら、誰もまちかりに現場に本隊が着いたことなど教えてくれません。
その日は悪いことに本隊が遅くなってしまい、まちかりはロケ場所である建物が見える道路で本隊の到着を待っていました。なぜ道路で待っていたかと云うと、建物は柵で囲まれた敷地の中にあり、その柵のカギは製作部だけが持っているのです。
その時は初冬だったので、車で待っているのはそれほど苦痛ではありません。とはいえいつ来るか判らない本隊を待っているのも、なんとも手持無沙汰で困ります。
「こういうのも困るよね」
声を掛けてきたのは以前にも一緒の現場だった、あの〝視える〟スタッフです。
「まあ、道路事情じゃしょうがないですよ」
まちかりはちょうど柵の入り口の、反対側で待っていました。残念ながらそこぐらいしか待っていられる場所が無かったのです。
今日の撮影場所は、元は米軍が使っていたという施設で、建物は総レンガ張りの趣のある建物です。立派な建物を眺めていたら、建物の二階の大きなすりガラス窓に、何人かの人々が動いている様子が映りました。キラキラ光る物を動かして慌ただしく動くさまは、どう見ても映像関係の人たちの動きです。
「おっ、本隊が着いたようです。行きましょう」
まちかりは車を入り口に向けて移動します。ですが、入口に着いたところでおかしな光景を目にしました。
「あれ? なんで今頃……?」
製作部が今まさに柵のカギを開けているのです。その後ろにスタッフを乗せたロケバスや照明部の機材を積んだトラックが続いています。まちかり、それらに続いて柵の中に入りましたが、本隊のスタッフたちは今着いたばかりで建物の中には入ってなどいなかったのです。
『そんなバカな!』
車を停めて、スタッフと建物に入ったまちかりはさらに驚かされます。
『な、なんだと! まさか、そんな!』
なんとこの建物に二階はありません、吹き抜けなのです! しかも一階には窓がありません。一階で何かやっていたとしても、二階の窓には映らないのです!
では、あの二階のすりガラスの窓に映っていた人影はなんだったのでしょうか?
視えるスタッフも、『影だけじゃあ、分からないよ』と頼りになりません。
今でも不思議に思う謎なのです。
追記:撮影が始まってしばらく経ってから、あの視えるスタッフが近寄ってきました。
「今さあ、天井に赤い服を着た女が、蜘蛛みたいに張り付いているんだけど、視える?」
やめてください……。
【実話怪談】二階のスタッフ まちかり @kingtiger1945
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