第2話 この後会うことは無かった
午後6時。待ち合わせのため、僕は家の前でアキヒコさんが迎えに来るのを待っていた。
日が落ちかけているのにもかかわらず気温は高く、うるさいアブラゼミの合唱がこだまし、蒸し暑さを助長していた。
車の音が聞こえる。白色の軽がこちらに向かって走り、僕の前で停車した。アキヒコさんの車だ。
僕はアキヒコさんの車に乗り込む。
「ごめん、ちょっと遅れた」
アキヒコさんは少し申し訳無さそうにして言う。
彼はヴィンテージ物のロゴの入ったTシャツにデニムを着用して、その上からキャップとサングラス、銀のピアスとネックレスのフルセットで来ていた。
ずいぶん見ない間に、ラッパーのような格好になっていたが、僕はそれがアキヒコさんにとても似合っていると思った。
「迎えに来てくれてありがとうございます。その格好とても似合ってますよ」
「おーありがとー」
アキヒコさんニッと白い歯を見せて笑った。
「いやー食った食った」
ラーメン屋を出た僕たちは、公園に車を停め、ダラダラと話していた。
僕は息も絶え絶えになりながらアキヒコさんに言う。
「そりゃあラーメン屋2軒もハシゴしたらこうなりますって! ハシゴするとか聞いてないですよ!?」
一軒目のラーメン屋を出た後、すぐ解散すると思っていたのだが、すぐに二軒目のラーメン屋に連行された。
替え玉を頼まなかったとは言え、二軒目となると流石に満腹になり、食べ過ぎで気分が悪かった。
「まぁ、たまにはいいでしょ」
「もう二度としませんからね……」
夜風に当たって、少しは気分も良くなってきた。
ふと、アキヒコさんの方を見ると、口にポケットから取り出したタバコを咥え、ライターで火をつけようとしていた。
「タバコ吸っていい?」
「もう吸ってるじゃないですか。いいですよ」
「せんきゅ」
そう言って、アキヒコさんは煙をぷかぷかと吐き出す。
「ねぇ、つぴちゃん」
「はい、なんでしょう」
「もし仮に家出したとしてさ。置き手紙とか書き置きでも、残していったら警察とかに捜索願出されても、警察は動かないよね?」
驚いてアキヒコさんの方を見るが、アキヒコさんはいつもの様子そのままだった。
「いきなりどうしたんですか。もしかして家出でもするつもりなんですか?」
「いや、この前アニメでそのシーン出てきてさ。実際はどうなんだろうなーって気になっただけ」
僕は考える。
確かに、書き置きがあれば事件性無しと判断され、捜索されなくなるという話は聞いたことがある。
でも、なんでそんなことをアキヒコさんは僕に聞いたのだろうか。
疑問には思ったのものの、深く詮索しないほうがいいかと思い、僕はそれ以上追求しなかった。
「確かにそういう話はありますけど……でも、僕が知ってるのは本とか動画の情報だから全然嘘の可能性もあるので、断言は出来ません」
「いや、いいよそれで。つぴちゃんが言うんだから間違いは無いと思うし」
そう言って、アキヒコさんは短くなったタバコを地面に落とし、足で踏みつけた。
「ちゃんと吸い殻は捨てて帰ってくださいね」
「分かってるって」
アキヒコさんは吸い殻入れを取り出し、吸い殻をその中に放り込んだ。
「さて、そろそろ帰ろうか」
アキヒコさんは立ち上がって僕に言った。
後にして思えば、それがアキヒコさんと言葉を交わした最後の機会だった。
【実話】友人が失踪した話 不労つぴ @huroutsupi666
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