第6話 内部告発者

美咲は妹の日記を手掛かりに、保険会社の内部告発者に辿り着くことを決意した。日記の中に記されていた「田中祐介」と「藤井翔太」という名前は、彼女の心に不安と疑念を呼び起こした。しかし、妹の無実を証明するために前進し続けるしかなかった。


美咲は、森田から聞いた話と妹の日記の内容を元に、保険会社の内部告発者の存在を探し出した。彼の名前は中島誠といい、かつて沙織と共に働いていた社員だった。彼は現在、会社を辞めて安全な場所に身を隠しているという。


ある晩、美咲は中島に会うため、彼の指定した場所へ向かった。暗がりの中で待つと、やがて一人の男が姿を現した。彼は疲れた表情をしており、警戒心を露わにしながら美咲に近づいた。


「あなたが山本美咲さんですか?」中島は低い声で尋ねた。


「そうです。妹の沙織があなたと一緒に不正を暴こうとしていたことを知りました。彼女の死の真相を知りたいんです。」


中島はしばらく黙っていたが、やがて重い口を開いた。「沙織さんは勇敢だった。彼女は会社の不正を暴くために必死だった。でも、それが彼女の命を奪うことになった。」


美咲は中島の言葉に耳を傾けた。彼は、会社の幹部たちが行っていた大規模な保険金詐欺の詳細を話し始めた。彼らは虚偽の保険金請求を行い、多額の金を不正に手に入れていた。そして、その証拠を掴んだ沙織は、命を狙われるようになったという。


「沙織さんは証拠を集め、警察に届けようとしていました。でも、その前に彼らに気づかれてしまった。」


「幹部たちには具体的に誰が関わっていたんですか?」美咲は質問した。


「田中祐介、そして藤井翔太も関わっていました。彼らは表向きは普通の社員を装っていましたが、裏では組織的に詐欺を行っていたんです。」


美咲は驚きを隠せなかった。田中祐介が沙織を助けるために協力してくれたと思っていたが、彼もまた真実を隠そうとしていたのか。そして、藤井翔太が再び彼女の人生に影を落とすことになるとは。


「田中さんは、沙織の友人として接していましたが、彼も不正に関与していたんですか?」


中島はうなずいた。「そうです。田中祐介は表向きは沙織さんを助けるふりをしていましたが、実際には彼女の行動を監視し、幹部たちに報告していたのです。」


美咲は怒りと悲しみが入り混じった感情に襲われた。妹の死の真相が少しずつ明らかになるにつれ、彼女の心には複雑な思いが募っていった。


中島から得た情報を元に、美咲はさらに真実を追求する決意を固めた。彼女は田中祐介と藤井翔太の行動を追い、妹の死の背後にある全ての事実を明らかにするために動き出した。


「中島さん、ありがとう。妹のために真実を明らかにするために、私は全力を尽くします。」


中島は深くうなずき、「気をつけてください。彼らは何でもする覚悟です。あなたも危険に晒されるかもしれない。」と警告した。


美咲はその言葉を胸に刻み、妹の名誉を守るための戦いを続けることを誓った。彼女はこれからも多くの困難に直面するだろうが、妹の強い意志と絆が美咲を支える力となっていた。真実を追求する道のりは険しいが、美咲は決して諦めない。


美咲は中島と別れ、妹が最後に残したメッセージを胸に刻み、次なる手掛かりを求めて動き出した。彼女の心には、妹の微笑みが常に寄り添っている。そして、その微笑みが美咲を前へと進ませる力となるのだった。

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