第3話 不利な証拠

美咲は、沙織のスマートフォンから不審な番号のリストを取り出し、その一つ一つに電話をかけることを決意した。何度か試みたが、ほとんどの番号は応答がないか、留守番電話に繋がるだけだった。しかし、諦めずに続けると、ついに一つの番号が繋がった。


「もしもし、どちら様でしょうか?」不機嫌そうな男性の声が電話の向こうから聞こえてきた。


「私、山本美咲と申します。妹の沙織がこの番号に頻繁に連絡していたようで、お話を伺いたいのですが…」


「山本沙織?ああ…何の用だ?」男性の声は突然警戒心を強めた。


「妹が亡くなったんです。彼女の死について詳しいことを知りたいんですが、何かご存じないですか?」


一瞬の沈黙が続いた後、男性はため息をついた。「分かった、近くのカフェで会おう。話したいことがある。」そう言って、彼は場所と時間を指定し、電話を切った。


美咲は指定されたカフェに向かい、店内の一角に座っている中年の男性を見つけた。彼は短髪でやや疲れた表情をしていた。


「山本美咲さんですね。俺は田辺といいます。沙織さんとは…仕事で少し関わりがあった。」


「田辺さん、妹がどんなことで悩んでいたのか教えていただけませんか?」


田辺は一瞬躊躇しながらも、静かに話し始めた。「沙織さんは、保険金詐欺に巻き込まれていたんだ。彼女は最初は気づいていなかったが、後で真実に気づき、抜け出そうとしていた。しかし、それが命取りになった。」


「保険金詐欺…そんな…」美咲は唖然とした。


「そうだ。沙織さんは脅されていた。俺も彼女を助けようとしたが、結局何もできなかった。彼女は最後まで自分を守ろうとしたんだ。」


美咲は涙を浮かべながら、田辺の話を聞いた。彼女の心には妹の苦しみと孤独が痛いほど伝わってきた。


田辺との会話を終えた後、美咲はさらに深い調査を進めるため、再び田中祐介に連絡を取った。彼は沙織の同僚であり、保険会社内での沙織の状況をよく知っているはずだった。


「田中さん、もう一度お話を伺いたいんです。沙織が保険金詐欺に巻き込まれていたと聞いたんですが、それについて何か知っていることはありませんか?」


田中は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに真剣な顔つきに変わった。「実は、沙織さんが最近、会社の内部調査をしていると言っていたんです。彼女は不正を暴こうとしていた。しかし、そのことが会社の上層部に知られ、彼女は危険な立場に立たされていた。」


「つまり、沙織は会社の不正を暴こうとして命を狙われた…?」


「その可能性は高いです。彼女は正義感が強かった。自分が危険にさらされても、不正を見過ごすことはできなかったんでしょう。」


美咲は田中の言葉を聞き、妹の勇気と正義感に胸を打たれた。同時に、彼女の死の背後にある深い陰謀を感じ取り、さらに真相を追求する決意を固めた。


美咲は帰宅後、妹の部屋をもう一度詳しく調べることにした。彼女は妹の日記やメモを丹念に読み返し、彼女が直面していた問題や人物についての手掛かりを探した。


ある日、妹の古いノートの一つに、重要なメモが見つかった。「田辺、田中、S氏」と書かれたページには、何か大きな事件に関与している人物の名前が記されていた。


「S氏…一体誰なの?」美咲はその名前が示す人物を突き止めるべく、さらなる調査を始めた。


美咲は妹の無実を証明し、真実を明らかにするために、新たな一歩を踏み出した。妹の死の真相を追う中で、美咲自身も危険な目に遭うことになるかもしれないが、彼女は決して諦めなかった。

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