第3話


斜め下を見ると、先程のバケモノが血飛沫を撒き散らしながら地面に転がっている。

どうやら、この男に命を救われたみたいだ。

「ど、どうも、ありがとうございます」


男は、無表情、無言でグッドサインを向け、直ぐに戦闘に戻る。

バケモンも、包丁のようなもので攻撃を仕掛けるが、男は瞬時にしゃがみ込み、拳でもう一発腹辺りに殴り込んだ。


男は、がら空きの背中を残りの二体に狙われそうになるが、瞬時に後ろを振り返り、同時に蹴り飛ばしていく。

強い。強すぎる。


男が殴り込む瞬間、轟音と同時に強烈な風が吹き込む。

目の前で、バケモン達は大量の醜悪な赤黒い液体を撒き散らしながら、一体、二体と地面に転がっていった。

三体目、これで全部だ。


剣士のような革鎧で唯一武装をしている鳥型魔物の前頭部に一発蹴りを入れ、すぐさま十メートルほど距離を置く。


バケモンは、金属製の盾で、攻撃を受け止める準備をし、片手には、他の鎧などとは雰囲気が異なるナイフを握りしめていた。


一応、万が一狩られるかもしれないのでさっきの二体が落としたであろうボロい木の棒を拾っておく。まあ、あの男が護衛についていれば、十分安全だと思うが。

次に、木の盾も取ろうとしたら、突如上から三体目のバケモノが襲いかかってきた。


木の盾を拾い上げ、敵の攻撃に備えるが、耳の直ぐ真横、爛々とした銀色の包丁が高速で通り過ぎる。


一瞬、髪がバサッってなった。

間一髪で避けたが、油断してると普通に死ぬぞこれ。


(あと二本も包丁持ってるじゃねぇか……)


俺は足を踏み込み、百均のビニール傘を空中で羽を羽ばたかせる鳥型に向けて全力で投擲する。


バンッと音を立てながら、バケモノは空中から転落していった。やったな。


飛び散る血飛沫。俺の身体から力が抜けていくのを感じる。

数秒すると動かなくなり、気持ち悪い悲鳴を叫び上げまくっていた。


「雑魚かったじゃねーか」とか言って哄笑していたら、バケモノの腕から、何か黒い液体が溢れ出しているような気がするんだが。

「……ん?」

バケモノは、目に血を走らせながら、自らの左腕に、勢い良く必死になって齧りついていく。

鋭い牙に、大量の鮮血が滴る。

美味いんかな。とにかく、凄い不味そう。血の池に浮かびながら、勢いを落とさず、自らを喰らい続けた。

よく見ると、腕が再生している。他にも、少しずつ全身の傷がすごい速度で回復していく。血反吐を吐き……何だあれ。

バケモノの腕が、漆黒に覆われていく。


その途端、男は、カノン砲の如く、バケモノの胴体を鏖殺を試みる拳で殴り飛ばし、貫いた。

辺りに轟音を響かせると同時に、立っていられないほどの強烈な風圧が襲う。

交わされた攻防は十数連撃。


鮮血が弾け飛び、俄然バケモノは糸が切れたように動かなくなった。

辺りを見渡すが、特に敵の気配は感じられない。目の前には、バキバキの筋肉を持った男が立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る