遭遇

周りは木で囲まれている。

俺の視覚、嗅覚、聴覚では、周りに生き物の存在を感じない。

だが、「敵感知」は今も警鐘を鳴らしている。


半径…150m以内に何かが居る。

恐らく、前方に。なんとなくだが、分かる。

俺には気付いているのか?

強さはどの程度だ?

戦うべきか、逃げるべきか。

熊とか狼とかその他、自分より大きい生き物だったら、すぐ逃げよう。

戦うとしたら、スキルはどう使えばいいんだ。

攻撃が可能なスキルは「頭突」しかない…。


緊張で思考がグルグル回る。

腹を決めろ、自分より小さかったら戦う、大きければ逃げる。

俺は、人に戻りたいんだ。

いつまでも畜生でいられるか。

そして、意味があるかは分からないが、一応耳を立て、全力で警戒する。


その時、ガサッと左前方の木の上からなにかが俺に飛びかかってきた。


「ギィァー!!」


「キャアッ!!!《うおぉぉぉ!!!》」


なんだこいつは!!


完全に虚をつかれた。

自分と同じ四足歩行だろうという、思い込みで、相手に先制を許してしまった。


コイツはなんだ!?


「ギィーッ!ガァッ!」


「ギャアッ!《コイツ!噛みやがった!》」


こちらの顔面に覆いかぶさり、うなじの部分を噛みつかれる。


逃げるとか、戦うとか、そんな話じゃない!

もう、コイツを殺さないと、俺が殺される!


「ギィッ?!」


何かに驚いて、口を離した様だ、なんだか分からんがチャンスだ。


こっちは命が掛かっているんだ!


しがみついたままの奴を、そのまま近くの木に奴をグリグリと全力で押し付ける。


離すんじゃねえぞ!


「ギ、ギィッ?!ギィッギィッ!!!」


俺の角がもう少し長ければ、このまま突き刺せたんだろうが、今は出来ることをやるしか無い。


スキルの出し方も分からないが、とりあえず念じる!喰らえ!


「ギャア゙ッ!!《「頭突」》」


「グガァッ!!!」


俺の石頭と木の間に挟まった奴を、スキルの「頭突」で押し込む、奴の悲鳴と木が軋む音と奴の骨が軋む音が重なる。

暫くして、奴の力が抜けるのを感じた。

そのまま頭を振るうと、奴が頭から力無く落ちる。

そうして、ようやく奴の正体を拝む事が出来たのだった。


コイツは…猿か?


身体中が毛むくじゃらで、俺の知っている猿によく酷似している。

ただ異様に爪が鋭い、こんなものに引っかかっれたら、たまったもんじゃないな。

恐る恐る、観察していると、口の中が血塗れな様だ。


うわっ、グロい…な。


頭突きで内蔵が傷付いて、血が逆流してきたのかと思っていたが、よく見ると、鋭そうな歯がボロボロに折れている。


もしかして、俺のうなじに歯が立たなかったのか。


そうか、だからあの時、驚いて口を離したのか。


戦闘中に、この猿が攻撃を辞めた瞬間があった、歯も爪も肉に届かず驚いたのだろう。


痛みも…特に無い。


もしかすると、俺のDEFはかなり高いのかもしれないな。

と、完全に戦い終わった気で思考をしていると。


「キ、キィ…」


コイツ…まだしぶとく生きてやがる。


気絶から戻ってきたらしいが、じたばたするだけで立ち上がれ無くなっている。

恐らく、腹部辺りの骨が折れている様だ。

ここで、放っといても、死んでしまうのだろうが、コイツを長く苦しめてしまう。


俺も、出来ればこんなことはしたくないが、ここで放って、禍根は遺したくない。

近くにあった広い葉っぱを口で持ってきて、呻き苦しんでいる顔に被せる。


南無三…!


「キャン!《頭突》」


「ギッ!」


その後、奴の頭に頭突きを叩き込み、トドメをさす。

暫く、身体が痙攣した後、動かなくなった。



《「頭突」のスキルレベルが3に上がりました。》

《レベルが7に上がりました。》

《称号 ヘッドスラム を獲得。》




文字が、脳内に直接流れ込んできた。

それと同時に、肉体が強化されるのが感じる。


そうか、やはり相手を殺したらレベルアップするのか…。


こうなると、これからの指針としては、もう戦いは避けられない。


ただ、懸念点が1つある。

それは、ステータスを見ながら考えるとして、一先ずここを離れよう。

死体漁りの様な奴が寄ってきたら困る。


この猿には申し訳が無いが食う所も無い、そもそも、俺は謎の生物だ、何を食えるかもわからないし、この蹄じゃ皮とか爪の加工も何も出来ない。

ここに置いて、自然の糧になってもらおう。


そうして俺は、異世界で初の勝利を得た。




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