偶蹄転生 四足歩行の畜生でもヒトになりたい

掃除除

迷子

暗闇の中から、意識が浮かび上がる様な感覚に陥る。

ふわふわとしていた記憶が、徐々に明確なモノへと定まって行く。


キャウ…何が…どうなって…


状況が分からないまま、五感が冴えていくように感じる。

自分は何者かも分からない。

ただ、森の中に居るという事しか分かっていない。


ここは…何処で…。俺は…


パニックではあるが、緊急事態こそ落ち着くべきという事を俺は知っている。

そうだ、俺は元々人間であったはずだ、その意識も、知識も人としての教養もある。

だが、自分の知る物とは全く違う身体に変化している。


四足歩行で…


人間であるなら、二足歩行が普通だ。

しかし、俺は、四足で地に足を着けている。

それだけではない、チラッと視界に映っている己の脚は、輝き、透明で薄らと蹄の下の地面が透けて見える。

普通の動物には見られない、異質な構造であった。


ちょっと…理解が追いつかないな…取り敢えず、木陰に行こう


随分の間陽の当たる所に居た様なので身体が熱い。

そそくさと木陰へと移動する。


ふぅ…な…


そう、四足で歩行をすることになんの違和感も無い。

パッカラパッカラと、近くの木陰へ余裕で移動することが出来た。

感覚は完全にこの身体に馴染んでいる様だ。


俺は…人間だったよな?


幸い、周りにが居ない様な気がしたので、木の幹に身体を預け、リラックスして思考をする。

自分の記憶では、俺は人間であったはずだ。

しかし、何者であったか思い出せない。

個人としての記憶が無く、何故か知識だけが存在する…と言えばいいのだろうか。


俺の知識では、こんな奇っ怪な生き物は存在しないはずだ。


決して、四足歩行で陸を歩くガラスのような生き物では無かったし、そんな生き物は世界に存在しなかったはずだ。


あるとするならば、とかだよな…


ここはもしかすると、自分がいた世界とは全く違う、ファンタジーな世界…か?ゲーム的な。


もしかして…異世界転生的な?


薄々とは気付いていた、自分は転生してこの謎の生き物?になったという事を。

木陰から空を見上げる。

そして、


キャなんで、よりにもよっウ!てこんな生き物に?!


思わず叫んでしまう。

そんなに詳しい訳では無いのだが、異世界転生と言えば、人に転生して、魔法が他の人と比べて強くて、ハーレムとか?

そういう物がメジャーなのでは無いのか?


あ、いや、昔にスライムに転生するアニメとか見た事あるな。

じゃあ、人外系統の転生も割とメジャーだったりするのか?


自分が前世で見ていたアニメをおもいだした。

そのアニメは、一般男性がスライムに転生し無双する話だ。

物語が進むにつれ、かなり強くなり、ゆくゆくは人の形になり、人間とも交流していた事を思い出した。

俺も強くなれば、人の形になれるのだろうか?


というか、この世界がどういう世界観か分からない、魔法とかスキルとか、そんな物が存在するのか?


魔法等の不思議な力が無い世界も有りうる。

そうなると、自分はずっと謎の生き物なのだろうか。


いや、さすがに人に戻りたい。一生四足歩行の獣畜生は嫌だな。


取り敢えず、ゲーム的な世界である事にかけて、色々念じてみる事にした。


メニュー?違うか…。ポーズ!これも違う…。


自分の知っているゲームの用語を念じてみる、知識にある漫画はRPGの様に装備変更とか色々な事が出来る、ゲームのメニューのようなものを出していた。

ゲームの様な世界の場合、一番生きやすいだろうと考えて、知ってる単語をとりあえずひたすら念じ続けた。


ええっと…セレクト!…あっ!ステータス!


すると、ステータス!と念じた瞬間に、ブォン、と音が鳴り、目の前に四角のホログラムの様な画面がいきなり表示された。


キャンッ!うぉぁっ!


静かな森の中、いきなり電子音が鳴り、目の間に物が出現したのでかなり驚いて、声を上げてしまった。

お、驚いたな…。


四角の板には予想通り、ゲームの様な内容が書かれていた。


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種族:ストーンディア【変異種:晶】 ▼


状態:無


Lv:3/15


HP:10/10

MP:9/12


STR:12

DEF:55

INT:23

AGI:50


ユニークスキル

「水晶の輝き」


スキル

「敵感知Lv6」 「疾走Lv3」 「頭突Lv2」



称号

大いなる迷い子まよいご

特殊変異種

脱兎

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俺の種族は…ストーンディア?


ストーンは石、ディアは…鹿という事だろう。

俺は鹿だったのか…?それに、【変異種:晶】?

普通のストーンディアを見た事ないから分からないが、変異種という位だ、他のストーンディアに比べると変わった姿形をしているのだろう。


横に下三角のような物があるがどういう意味なのだろうか、うっすら明滅していて、なんだか押せそうな気がする。


鼻で、▼を狙いを定めて押してみた。


_____________________________________


種族:ストーンディア【変異種:晶】

【詳細】

魔獣系

身体が硬い石で覆われたストーンディアの特殊変異種。

通常の変異種とは違い、【変異種:晶】は肉体の全てが魔水晶で形成された身体を持つ。

通常の変異種よりも、かなり稀な存在であり、発生条件は不明。

その見た目から、古来より欲深い人間から狙われやすい。

_____________________________________


押してみると、種族の詳しい説明が出てきた。


…マジかよ…。

俺、アレか…?レアアイテム落とす系のレア敵か?


人間がいる事が確定したのは良いが、執拗に狙われるのは…かなり困る。

なんとなく察していたが、そんなに強い生き物では無いらしい。


数値の方はなんとなくは分かる。

詳しい事は分からないが、HPは体力、MPは魔力、STRは筋力、DEFは防御力。、INTは知力、AGIは速度、という風に解釈しておこう。


何故かMPだけが3減っている、魔法などは使った覚えなど無いが…。


それにしても、ステータスが随分と偏っている。

硬くて速いのは、生き延びる上では、最高だろう。

これが高いのか低いのかは分からないが、自分は弱い生き物と考えて、他のモンスターに積極的に戦いに行くのは絶対に辞めておこう。


後はスキルか。

普通のスキルは分かるんだが、このユニークスキルってのはなんだろうか?

普通のスキルにはレベルがあるみたいだが、これにはない。

珍しいスキルということか?

詳細を見たいが…とりあえず、色々押してみるか。


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「水晶の輝き」

消費MP:10

輝きは穢れを祓い、傷を癒す。


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恐らく、回復技の様だ、消費MPがかなり多く、今現在では使い所が難しそうだ。

…そんな、強くは見えない、少しガッカリだな…。

だが、回復手段があると無いとでは心持ちが違う。

そう考えると悪くは無い。


普通のスキルも見ておこう。


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「敵感知」

消費MP:3

Lv×5分の間、半径Lv×25Mの範囲の敵存在を感知できる。


「疾走」

AGIをLv×10の値分、追加をする。


「頭突」

鋭い頭突きを繰り出す。

Lvが上がる事に威力が上昇する。


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スキルの内容を見て、ハッと気付いた。

先程から敵が居ないのだと思い込んでいたが、こんな森の中で油断出来るほど俺は愚かでは無いし、強くも無いはずだ。

俺は無意識に、「敵感知」を使っていた。

MPが3も減っていたのはこれだろう。

それと、スキルにはパッシブスキルとアクティブスキルの2つが確認出来る。

AGIが速いのはこの「疾走」があったからなのか…。

すると、DEFは素なのか…?それとも…


さて、称号は…!!?


称号を確認しようとした時、強烈な寒気を感じ、身体を飛びあがらせた。


キャ…!これは…敵か…!


「敵感知」が俺に警鐘を鳴らしていた。

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