1-5 ジャックは疑心する
ジャックとキッドは裏の門に向かって歩く。空には太陽の橙が溶け、影も伸び始めていた。温かさを忘れようとする風が、二人の足を一層早めた。
「あのプリモって男、どう思った」
「え?」
キッドは、歩く速度を緩めてジャックに近づいた。
「ボクには全然役不足だったね!路地の角からちょっと驚かせたら、そのまま腰抜かせちゃってたよ」
「当たり前だそりゃ。気絶しなかっただけマシってもんだ」
無表情のままジャックが言うと、キッドはニッカリと笑う。その顔を見て、ジャックは不服そうに頭を掻いた。
「……いや違う、違うんだ。オーケスティアから男が逃げたと噂になったのは昨日だ、って話だ」
「わざわざ1日待ってから逃げようとしたってこと?あのプリモならやりそうだけど」
キッドはそう言って、真っ青になったプリモの顔を思い出した。
「……決行を今日にする理由でもあったのか?もしくは昨日ではいけなかった理由……」
ジャックは顎に手を当てた。
昨日のこの時間帯では人の目が多すぎたからか。それとも逆に、窃盗をするには人が足りなかったからだろうか。
そう考えながら、辺りを見回した。
「……それにしても、まだ少し人が多いな」
ジャックは呟く。大通りは昼間と比べ多少歩きやすくなっていたが、それでも人の流れが絶えることはない。間違っても、迂闊に飛び出せる状態ではなかった。
「裏門からの脱出は、日が暮れるまで待つしかねえか」
「ん?僕の《バカス》があれば関係ないでしょ?」
キッドがそう言うと、隣のジャックは乾きたてのフードを押さえ、ため息をついた。
キッドにはその意味が理解できないまま、頭に手を回す。
「ほら、《バカス》でプリモの印象を薄くしてさ。そうすれば門番の人がいても声掛けられないでしょ?」
「そうだが……あまり不安要素は放っておきたくない」
「そう言ったって僕らの家も、バカス頼りで隠れてるのに?」
キッドは、ジャックの顔を見つめた。
「……本当なら、ノーザンだけ置いてくるのも気が引けるところだ」
ノーザンは現在、プリモと共に待機している。しかし、ジャックからしてみればそれも好ましいとは思えない状態だった。
「ノーザンのこと、心配してる?」
次のキッドの言葉には、ジャックは少し呼吸する間を開けた。
「……心配しない日なんてねえよ。あいつは、俺達の誰よりも死にやすいんだ。その癖1人で突っ走るんだから厄介だ」
ジャックは、ストリートの遠くを眺めて言った。はしゃいで駆ける子供たちが、ジャックの側をすり抜けていった。
「それに、エンタープライズは何よりも不確かだ。寄り掛かるもんでも、期待するもんでもねぇよ」
ジャックは、仮面越しに掌を見下ろした。
キッドは小さく「ふーん」とぼやいてから、回していた腕を下ろした。
「ま、僕のバカスは破れないけどね」
「お前はなぁ……」
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