第1章
第1話 ハンターズユニオンへ
「さてと、まずはどうするべきか・・・。」
俺はスペリオルの街をぶらぶらと歩きながら、何をしたらいいのかを考えていた。
ログアウトできないということは、俺はこの世界で何日も暮らしていかなければならない。となれば、まずは「衣食住」の確保が思いつく。
「衣」については、装備の入れ替えができるため、何ら問題ない。ただ、愛用の「シュヴァルツシリーズ」が汚れてしまうのは嫌なので、装備は「ギラファシリーズ」に変更した。「ギラファシリーズ」は、鋸顎獣「ギラファルト」という大型クリーチャーの装備で、頭部の防具がノコギリクワガタの顎の形になっているのが特徴である。「あまり重さを感じない戦国時代の甲冑」というような印象だろうか。「ギラファシリーズ」は、中学1年生のときに初めて揃えたシリーズ装備なので、非常に感慨深く、リスタートの装備にピッタリだ。
「食」については、ゲームシステム上、HP(体力)やST(スタミナ)を上昇させるのに必要不可欠なものであり、各都市にいくつかあるプレイヤー専用の食事処(通称:ビストロ)で食事をとる。したがって、「食」に関しても、特に問題はない。腹が減った場合は、「ビストロ」に行けばいいだけなのだから。
問題なのは、最後の「住」である。ギルド拠点があれば完璧なのだが、俺にはそれがないため、寝泊まりする場所がない。HR999なので、所持金も凄まじい額になっていると思いきや、俺は武器や装備、アイテム購入に浪費してしまい、そこまでの所持金を持っていないのだ。この世界に宿泊施設があるか分からないが、もしあったとして、1泊何y(yenの略)が相場かを把握しなければならない。
「ということで、まずは今晩泊れる宿探しだな。」
俺は、スペリオルの街を散策しながら、宿泊施設を見つけることにした。そういえば、他のプレイヤーも閉じ込められているのだろうか・・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「全然見つからねぇ・・・。」
30分ぐらい、宿泊施設っぽいものを探したが、一向に見つからない。やはり、ゲーム世界であるため、プレイヤーが宿泊する場所をつくる必要がなかったのだろうか。
「よし、ダメ元で聞いてみるか。」
俺は、近くのNPCに尋ねることにした。話しかけやすそうな、顔の優しいおばさんが八百屋の店主をしていたので、話しかけてみた。
「あの、すみません・・・。」
「おや、ハンターさん、どうしましたか?」
「この辺に宿ってありますかね?」
「ん?おかしなことを聞きますね。ハンターさんには、ギルドの拠点があるでしょう?」
おばさんは首を傾げ、「コイツ何言ってんだ?」という表情を浮かべた。
・・・ん?NPCにしては、めちゃくちゃ流暢に喋るし、表情が豊かすぎるな・・・。
隠しイベントクエストの発見や貴重なアイテム獲得のため、俺はNPCに比較的多く話しかけていた。NPCの言動は、現実の人間に近しいものだったが、それでもどこかAI(人工知能)っぽい要素があり、完璧な人間ではなかった。しかし、眼前のおばさんは、まさに人間そのものだ。「人っぽい」という次元ではなく、完全な「人間」だと感じる。
・・・ここは、形式上はゲームの世界だけど、実質的には現実世界とあまり変わらないのか・・・?
「あれ、ハンターさん?固まってますけど、どうかしましたか?」
「・・・え、あ、いや、何でもありません!」
おばさんの心配そうな声で、思考中の状態から意識を取り戻し、すぐに返答した。その後、宿泊施設のことについて再度尋ねたが、やはり「ハンターは、ギルドの拠点で寝泊まりする」というのが常識らしく、商人などが泊まれる宿はいくつかあるが、ハンターが泊まる宿は見たことも聞いたこともないそうだ。
「あっ、そういえば昔、何か大きなミスをして、ギルドを追放されたハンターさんがうちのお店に来たことがありまして・・・。その方は確か、『ハンターズユニオン』で寝泊まりしているとおっしゃっていました。」
「なるほど・・・。」
「もしかして・・・、ハンターさんもギルドを追放されてしまったんですか・・・?」
・・・いや、そもそもギルドに所属したことがないです。
「え、まぁ、そんな感じです・・・。すみません、教えていただいて、ありがとうございます。」
「色々と大変だと思いますが、頑張ってください。これ、良かったら召し上がってください。」
「あ、すみません、ありがとうございます。」
親切なおばさんから「姫林檎」を1つ貰い、俺はその場をあとにした。そして、おばさんが言っていた情報を信用し、俺はスペリオルの「ハンターズユニオン」に行こうと決めた。
「確かスペリオルの『ハンターズユニオン』は・・・・・・あった、ここだ。・・・あれ?」
俺は、マップ上に映し出された「ハンターズユニオン」を選択したが、「ここに転移する」というメッセージが一切出ないことに気づいた。本来であれば、「ここに転移する」というメッセージに触れることで、全身が淡く青白い光に包まれ、一瞬でハンターズユニオンまで移動することができる。しかし、何度押しても、その文字は浮かび上がってこない。
・・・マジか、転移すらできないとは・・・。
俺は泣く泣く、「ハンターズユニオン」まで徒歩で向かうことにした。幸い、今の場所からあまり離れていなかったので、15分ぐらいで到着した。
「ハンターズユニオン」は、各都市に必ず1つ設置されている、ハンター活動全般を取り締まる組織及び場所で、主にクエストの斡旋を行っている。プレイヤーは、ハンターズユニオンの一角に設けられた「クエスト掲示板」から好きなクエストを選び、その用紙を受付に持参する。HRの制限や特定の武器・装備、称号の有無など、各クエストに示された特定の条件を満たせば、受理される。そして、準備が整い次第、マップ上に出現した「クエストを開始する」という文字に触れれば、狩猟対象が棲息しているフィールドのどこかに自動転移される仕組みだ。
一応、公式設定ではクエストの斡旋以外にも、クリーチャーの取引価格の設定やHRの審査、各都市や各国を襲撃する厄災級のクリーチャーに対する迎撃作戦の実施、「ユニオンズ・シュヴァリエ」と呼ばれる専属ハンターによる各種取締りなどを行っているらしい。
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