第17話 二度目の小学校生活

 小学校に通いだして、一ヶ月ほどが経った。


 正直……退屈だ。

 小学校1年生の授業なんて、前世の記憶がある俺には当然簡単。

 同級生との会話も、まったくノリについていけない。


「……いや、仕方ない。精神年齢が違いすぎるんだ」


 などと、孤立している言い訳を小さく呟く始末である。


 なんだか虚しくなってきた。

 だが、俺の目的は小学校で友達を作ることではない。


「姫香、お昼いっしょに食べようぜ!」

「ん……」


 同じクラスになった花染龍之介の娘……姫香。

 彼女と仲良くなることが、俺の一番の目的である。


 しかし。


「だめー!」

「ひめかちゃんはわたしたちと食べるの!」

「男はあっちいって!」


 俺の下心満載なアプローチは、周りの女の子たちに速攻ブロックされてしまう。

 なぜだ……。下心がダメなのか……。


 頑張って爽やかスマイル作ってるのに。

 かくなる上は幻術で……いや、怖いお父さんの式神が発動するからダメだな。


「くっ、姫香と仲良くなってお父さんを紹介してもらう計画が」


 早く、龍之介に裏切り者の存在を伝えないといけない。

 可能なら協力して、妖怪への対処もしたいところだ。


 姫香に手紙でも渡すか?

 でもどういう理由で?


「みなさーん。給食の前にはきちんと手を洗ってくださいね~。コロナ対策には手洗いうがいが一番ですよ!」


 先生がそう呼びかける。


 コロナ、まだ終わってなかったのか。

 俺が死んだのは2021年。23年になり、当時よりは騒がれなくなったようだが、依然として続いているらしい。


 妖怪になって風邪とか引いたことないし、今の俺には無縁だと思うけど。


 妖怪になってよかった点といえば、睡眠が必要ないことだ。

 寝たら寝たで霊力の回復が早かったりと利点はあるのだが、寝なくてもそんなに問題はない。

 そのため、夜は妖怪退治、妖怪が大人しくなる昼間は学校というニ面生活を、苦も無く続けられている。


 だが……陰陽師への接触については難航していた。


 対妖部隊『スイレン』のどこまで裏切り者が入り込んでいるか、なにを企んでいるのか、早いところ突き止めなければならない。

 そのためにも、信用できる陰陽師である龍之介との接触は急務だ。


 既にニ年も経ってしまった。


「タトゥーの裏切り者と、河童の幽玄坊……」


 考えることが多くて、頭が痛い。


 だが、俺は元一番隊隊長。

 妖怪犯罪を食い止めるためには、死んでも諦めるわけにはいかない。


「明日は遠足なので、準備してきてくださいね~。まあ、親御さんにも伝えてるけど」


 先生の言葉で、明日の行事予定を思い出す。


 行き先は隅田公園……名前の通り、隅田川沿いにある公園である。


「隅田川……」


 昨日、弥子が言っていたことを思い出す。

 隅田川の河童が激減している、と。


 手がかりが少なすぎる。

 もう少し情報があれば、なにか繋がりそうな気がしているのだが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る