第3話 霊力の増やし方
霊力とは、陰陽術を使うための力の源である。
ほとんどの人間は持っていない。
生まれつき霊力を宿して生まれた子だけが、陰陽師になれるのだ。
そのほとんどは遺伝なため、陰陽師の家系というものが存在する。
一般家庭に突然生まれることもあるが、極稀だ。
その量や質も、才覚によるもの大きい。
だが、増やし方もまた、陰陽師の歴史の中である程度解明されてきた。
(霊力を増やす一番手っ取り早い方法は、他の霊力を取り込むこと)
霊力は成長によっても自然に増えていくが、方法はそれだけではない。
他の霊力を吸収して、自分の霊力と同化させる。すると、次第に身体が慣れていき、元々の容量や総量も増えていくのだ。
前世の俺は、妖怪を倒して吸収することで、霊力を増やしていた。まるで、モンスターを倒すとレベルアップするゲームのようだ。
だがそれには激痛が伴う。異質な霊力は、身体にとって害だからだ。
(今は倒せそうな妖怪はいない。けど、ここは妖怪の住処だ。霊力なら空気中に……)
意識を身体の内から、周囲へと向ける。
空気中に無数の霊力が漂っているのがわかる。
心霊スポットや、パワースポット、龍脈などと呼ばれる場所がある。
そういった場所は、空気中や地中にある霊力が多いのだ。陰陽師時代、何度か足を運んだことがある。
空気中の霊力を取り込むのは少しコツがいるが、俺ならできる。
(ははは、良い修行場だな)
畳に伏せながら、弥子と違って一本しかない尻尾を天井に向ける。
妖狐の霊力は、尻尾に集中しているようだった。ならば、吸収するのも尻尾がいいだろう。
尻尾をくるくると円を描くように動かして、霊力を集めていく。
(くっ……)
少し吸収した瞬間、全身に電流が走ったような激痛。
自分のものではない霊力は、己の霊力と反発する。
(抑え込め……!)
吸収した霊力を、自分の霊力で取り囲む。
イメージは、ウイルスに対する白血球の動きだ。体内に侵入した霊力に、己の霊力をぶつける。
違うのは、その後。霊力を消すわけではなく、無力化し、同化させる。
(で、できた……)
妖狐になってもできるか、未だ少ない霊力でも可能なのか。
やや不安だったけど、問題なく取り込むことができた。
ほんの少しだが、霊力が増えているのがわかる。
だが、かなり痛い。
空気中の霊力だから敗北することはないだろうけど、これを何度も繰り返すのは相当キツイ。
(この程度で音を上げるわけにはいかねえよな!)
一刻も早く強くなる必要がある。
無意識に荒くなっていた息を整えて、もう一度、尻尾を振り上げた。
(もう一度……くっっ)
パワースポットで霊力を吸収する訓練は、陰陽師の家系では七歳ごろから始めることが多い。
幼い頃から始めたほうが、霊力が増えやすいからだ。
だが、霊力の吸収には危険が伴う。
そもそも霊力を感じ取り、操作するということ自体、子どもには難しい。
その二つの理由と、霊力が増えるというメリットを天秤にかけた結果、七歳が開始時期として広まっているのだ。
しかし、俺は生まれたばかり。
いくら妖怪でも、生まれてすぐに霊力の吸収を始める奴はいないだろう。
だが、俺にはできる。なぜなら、陰陽師だった記憶がある転生者だからだ。
霊力の操作なんて、呼吸のように簡単に行える。
まあ、だからといって痛みがないわけではないのだが。
(はぁ……はぁ……)
霊力はまだまだ少ない。
だが、この調子で訓練すれば……前世よりも強くなれそうだ。
なんて、思いながら霊力の吸収をすること、数時間……。
(……ん? なんだ? 腰の辺りに違和感が……)
と思った瞬間のことだった。
腰の辺り……ちょうど尻尾の付け根辺りに、激痛が走った。
(いっった! 尻尾回しすぎてちぎれたか!?)
だとしたら、妖狐の尻尾が脆すぎて心配になるけど!
首を捻って、尻尾の無事を確認する。
(よかった……ちゃんと尻尾が二本ある……。ん? 二本?)
綺麗な二度見をする。
俺には、尻尾は一本しかなかったはずだ。なのに。
(尻尾が増えてる!!)
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