第2話 転生したら妖狐でした

 陰陽師だったはずが、転生したら妖狐でした。


 最初は困惑したが、考えてみるとそれほどおかしな話でもない気がする。

 死んだ人間が、妖怪になる……。そんな伝承は、全国にいくらでもあるのだから。


 とはいえ、実際に起きたという話は聞いたことがなかったし、それが自分の身に起こるとは思いもしなかった。


朔夜さくやさま、ご飯ですよ~」

「きゃんきゃん!」

「ふふふ、そんなに欲しがらなくても、すぐあげますからね。お可愛い……」


 違う、威嚇してるんだ。

 だって、食事を運んできた世話係の弥子やこ……彼女もまた、妖狐なのだから。


 巫女服を着た、十五歳ほどの少女のような姿に変化している。だが、頭には狐の耳、腰には二本の尻尾、小麦色の毛……完全に妖怪である。

 妖怪は人間の敵だ。俺が人生を賭して滅してきた、絶対悪である。

 妖怪は全て殺さなければならない。


「はい、あーん」


 ましてや、その妖怪から施しを受けるなんて……許せない……滅してやる……美味しい……もっと食べたい……。

 はっ、また屈してしまった。


 転生してから一ヶ月。俺は弥子に育てられている。


 ふっ、敵を自ら育てるなんて愚かな妖怪だ。まあ俺も今は妖怪なんだけど。

 陰陽術が使えれば、すぐにでも滅するのに……。


「いっぱい食べて、立派な妖狐になるのですよ。そして憎き陰陽師から、稲荷神社を取り返すのです!」


 俺が暮らしているのは、とある山奥の神社だ。

 ここにはたくさんの妖狐が暮らしている。

 周りが妖怪だらけで全く落ち着けない。


(せめて人間に変化できないと、戦うことすらままならないぞ……)


 そう、俺は今、狐の姿なのである。

 純白の毛並みをした妖狐だ。生まれたばかりなのもあり、ろくに動けない。

 動物だからなのか、妖怪だからか、既に歩くことはできるけど。


「朔夜さまは、我らが王、白神十六夜さまの御子なのです。大きく、強くなって、私たちを率いてくださいませ」

「きゃん!」

「まあ! いいお返事です!」


 嫌だ! って言ったんだ。

 俺は陰陽師。妖狐族の王になる気なんてない。


 それに、俺にはやることがある。

 俺を殺した、裏切り者の陰陽師……。他にも対妖部隊に入り込んでいるであろう敵の存在を、かつての仲間に伝えなければならない。

 目的は不明だが、良からぬことを考えているに違いない。もしかしたら、妖怪と繋がっているかも……。


「おねむですか? ふふふっ、また後で来ますからね~」


 弥子がにこにこしながら、部屋を出ていった。

 耳と尻尾がなければ、女の子にしか見えない。人間に仇なす妖怪ばかり相手にしていたから、弥子のように穏やかな妖怪がいるとは知らなかった。


 ……まずい、懐柔されそうになってる。

 妖怪は悪、敵だ。弥子だって、人間が相手だったら牙を剥くに違いない。


(まずは強くならないとな……)


 和室で一人になった俺は、目を閉じて集中する。

 そして己の内に秘める力……霊力に意識を向ける。


(間違いない、これは霊力だ。なぜ陰陽師と妖怪が、同じ力を持っているのか)


 人間では限られた者だけが持つ、陰陽術の源。

 妖怪の使う妖術と、同じものなのかもしれない。


 驚きの真実だが、今はどうでもいい。

 なぜなら、同じ霊力のほうが好都合だからだ。


(霊力なら、すぐに使いこなしてやる)


 前世は、歴代最強と謳われた転生陰陽師だ。

 霊力の扱いには、誰よりも長けていた自信がある。


(妖怪になったからって、やることは変わらない。強くなって……妖怪を滅する)


 そう決意して、俺は修行を開始した。

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