最強陰陽師の妖狐転生~裏切られ死んだ陰陽師、妖狐となって蘇る~

緒二葉@書籍4シリーズ

一章 転生編

第1話 最強陰陽師、死す

 死ぬ時は、妖怪に殺されるのだと思っていた。


 陰陽師の家系に生まれ、歴代最強だと持て囃され。

 皇室直属の対妖部隊『スイレン』に入り、異例の速度で出世し、二十歳にして一番隊の隊長になった。


 思えば、妖怪と戦い続けた人生だった。


 それを悔いたことはない。

 妖怪と戦い続けることが、最強の陰陽師と呼ばれた俺の使命だからだ。


 一般には認知されていないが、現代日本でも妖怪は社会に溶け込んでいる。


 隠れ潜むものもいれば、わかりやすく悪事を働くものもいる。

 あるいは人間に化け、人間のように暮らしているものもいる。


 その多くは人間に危害を与える。人間と妖怪は相容れないのだ。

 妖怪を殺すことは、国民を守ることに繋がる。


 だから、俺は死ぬまで妖怪と戦い、妖怪に殺される人生のはずだったのだ。


──まさか、味方の裏切りで死ぬとはな。


「がはっ……」

「悪いね、隊長さん」


 思えば、違和感のある任務だった。


 調査を専門とする三番隊。そのうちの一人が、休暇中の俺を個人的に呼び出したのだ。

 手が負えないから緊急で来て欲しい、と。


 多少の違和感を覚えながら、俺は現場に急行した。

 そこにいたのは、三番隊の隊員を名乗る男。見たことはあるが、交流はない人物だった。


 油断したつもりはない。妖怪は神出鬼没、常に気を張り、いつでも陰陽術を発動できるようにしていた。

 仮に味方に襲われようと、対応できるはずだった。


 ……陰陽術の封印。そんな未知の術を使われなければ。

 戦闘訓練を受けていようと、所詮、生身の肉体。

 さらに裏切り者の男だけ、なぜか術を使えていたのだ。


 明らかに、俺を殺すための策だった。


 揉み合っているうちに服が破れた男の肩に、不思議な刺青が入っていたのが印象的だった。

 その真相を知ることは、もうできないけれど。


「これも計画のためだ。……来たる日のために」


 朧げな意識の中で、そんな声が聞こえた。


(俺は妖怪に殺されたことにされるだろう。ここまで準備万端なんだ。隠蔽工作もすでにしているはず……。問題は、どこまで敵が入り込んでいるのか)


 可能なら全てを明らかにしたいが、命の尽きる俺にできることはない。

 そう、思っていた。


「おお、愛しい子よ。顔をよく見せておくれ」


 死んだはずの俺の耳に、鮮明な声が聞こえるまでは。


「お主の名は朔夜さくや。我ら妖狐族の王になる子じゃ」


 妖狐……古くから日本に生きる、伝説級の妖怪。

 最強陰陽師だった俺、東雲一茶は、死んで妖狐に転生したのだった。

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