1309 この問題を解決しておきたかった理由

 眞子が素直ちゃんの脱退問題を懸念する中。

とうとう、その運命の控室の扉が開き、素直ちゃんと由佳ちゃんが戻ってきたのだが……


***


「みんな、遅くなって、ごめん。素直チンと話し合ってたら遅くなっちゃった」

「ごめんなさい」


2人は、申し合わせた様に同時に頭を下げた。


それに良く聞けば解るんだけど。

由佳ちゃんが、さっきまで『素直』って名前を呼び捨てにしてたのに、今は『素直チン』ってあだ名に戻ってる。


これって、上手く話し合いが付いた証拠なのかな?



でも、まだ確信には至れない。



「別に良いけどさぁ。現リーダーと、次期リーダーが、同時に自分の職務を放棄して、ギリギリに入室して来るって、どういう事?……その理由だけでも聞きたいんだけど」


そう思っていると、伊藤さんが、この場を仕切ってくれた。

なら此処は、部外者である私が余計な口出しをする所じゃないね。

逃げ口上なのかも知れないけど、まずは話の流れに身を任せて、静観させて貰おう。


その結果如何では『私が招いた事態だと』キッチリ謝罪しないとイケナイからね。


まぁ……とは言っても、事がどうあれ、最終的には絶対に謝らなきゃいけないんだけどね。

此処は場を荒らした者のケジメとして、謝罪するのは当然の事だからね。



「ごめん。私が、素直チンの卒業に、どうしても納得出来なかったから、そこを素直チンに問い質してただけだから、素直チンに罪は無いの」

「そうなんだ。……っで、由佳チンは、納得出来た訳?」

「流石にイキナリ納得出来る様な内容ではないよ。でも、そこを強制する権利は、私には無いから、なんとも言えないしね。けど、私は、素直チンの意思は尊重する。私は、素直チンの卒業を認める」


まぁ話が話なだけに、早々に納得出来る筈もないか。

けど、大きな葛藤の中、納得出来ない也にも、素直ちゃんの卒業だけは認めてくれたみたいだね。


そこは良かったと思える。



「じゃあ、由佳チン。もぉ、素直チンを無視するのは辞める方向で良いの?」

「うん。そこもごめん。もぉ無視なんて陰湿な事は辞める。……そこはさっき、散々眞子ちゃんに怒られたところだしね」


そこは解ってくれたんだ。


でも、こう言うケースは、女子の中じゃ非常に珍しいケース。

普通は執念深く考えて、中々和解なんて出来たもんじゃないからね。


だから此処は、私のお陰と言うよりは、由佳ちゃんの性格が比較的アッサリしてたお陰と言った所だね。



「ヤッパリ、眞子ちゃん絡みか」


バレてたか。


意外と伊藤さんは周りを良く見てるね。


なら此処は、ライブ前の精神的にも大切な時間を、悪い空気の方向に持って行っちゃったんだから、素直に謝る所だね。



「みんな、ごめんね。私の、お節介が過ぎたみたい。ホントごめん」

「うん?いや、私、別に、眞子ちゃんを責めてないけど。寧ろ、責める処か、感謝してるぐらいなんだけど」

「えっ?そうなの?私の行為って迷惑じゃなかったの?」

「迷惑だなんて、とんでもない。今まで誰も触れなかった素直チンの卒業を、敢えて、自らの手で触れてくれたのは眞子ちゃんだけだったからね」

「それはそうかも知れないけどさぁ。今回は偶々話が上手く行ったから良かったものの。上手くくいかなかった時の事も考慮しないとダメだよ」


上手く行ったから、万事が全て『万歳』『良かった』って訳じゃないと思うんだよね。

こう言う憂慮すべき点も踏まえた上で、もっと上手く立ち回れる方向を考慮するべきだったから、故に今回は反省すべき点しかないのが現実だと思う。


こんなのは、感謝されるには程遠い、浅墓で、思慮の足りない愚行でしかないからね。



「まぁ、そうなんだけどね。私達は触れるのが怖くて、この話を先延ばしにしていただけの事だし。いずれ、こうなる事は必須だったと思うよ。遅いか、早いかだけの話。それに、もっと最悪な展開が有ったとすれば。そのままの最悪な状態で『素直チンを無視したまま卒業』なんて事も有り得た訳だから、そうならなかっただけでも、眞子ちゃんには感謝すべきだと思うよ」

「そぉだけど……」

「まぁまぁ。今回は万事上手く行ったんだから、もぉヤメよ。こんな話を続けた所で、ライブ前の雰囲気が悪く成るだけだっての。それに、折角、上手く話が纏まったのに、話をぶり返して、観に来てくれたお客様に迷惑掛けちゃあ本末転倒なんじゃない?」


そこを言われるとなぁ。

なにも言い返せなく成っちゃうんだよね。

上手く行った事は、確かに、お客様の為にも有用な事だしね。


ふぅ……じゃあ、もうこれ以上の口論は、無用なだけだから、今回は、これで許して貰うよ。


ホント、ごめんね。



「……そうだね」

「じゃあ、この話は、お仕舞いね」

「ちょっと待って、伊藤さん。僕は、みんなに話をしなくて良いの?」

「イラナイよ、そんなの」

「どうして?」

「だって、私達の決めた次期リーダーである由佳チンが『素直チンの卒業』を認めたんでしょ。なら、リーダーに従うのが私達の仕事。異存はないよ。それに……」

「それに?」

「それにね。私達が所属している『スリーストライプ』がOKしたんだから認めるしかないでしょ」


冷静な判断だね。


けど、実際は、そう言う事なんだよね。

所詮は、所属ユニットのメンバーに、そこまでの権限はないんだよね。


でも、だからこそ、早期の解決が必要だと思い、私は、これを問題視していた。

そうやって権利がないからこそ、あやふやなままでしていい問題でもなかったし、何より、今後の人間関係を考えたら解決しておかなきゃいけない問題だったしね。


けど、スッカリ忘れてたなぁ。

伊藤さんって、感情が表に出た時は丸っきり子供っぽくなるけど。

逆に冷静な時は、判断力が高く、人を良く見るタイプだった。


前例で言えば、去年の文化祭、真上さんが学校に来た時、いち早く真上さんが危険な立ち場である事を指摘したのも伊藤さんだったしね。


これが伊藤さんが持つ二面性って奴かぁ。


今度は、ちゃんと憶えとこ。



「でも、それで、本当に良いの?」

「良いに決まってるじゃん。……素直チンは、卒業後、自分のやりたい事を目一杯やりなよ。アンタのやりたい事は、此処じゃ出来無いんでしょ」


伊藤さんは、そう言う風に理解していたんだ。


けど、多分、ホンの少し間違ってる。

素直ちゃんが『卒業』を言い出したのは、この間のカラオケで大騒動に成った以前の話。

その時期を『ある事』照らし合わせたら、ピッタリ合点がいく。


その『ある事』って言うのは……『真琴ちゃん』の生還した時期だ。


故に、その時点での、やりたい事と言うのは強ち間違ってないんだけど。

現段階じゃ素直ちゃんは、真琴ちゃんとは恋愛感情を抜きにした友達関係が成立している。


だから、そこの固執しなくなってるだけに『素直ちゃんのやりたい事』っと言うのは、この時点では本当は存在しない。


けど……もぉ所属事務所を通してしまった以上、今更、後には引けない。

故に、此処から素直ちゃんがどう出るかは、一切予想が付かない状態だ。


ただ、辞める決意が変わってない以上、どうしても、もぉ一点だけ気に成る事がある。


でも……もし、仮にそれがそうだとしても、絶対に、此処では言葉にしちゃあイケナイんだけどね。



「違う……違うんだよ、伊藤さん。僕はね。僕は、もぉやりたい事なんて、なにもないんだ」


ヤバイ!!

この様子じゃ、場の雰囲気に呑まれて、ヤッパリ、そっちの話を正直に言う気だ!!


これは何があっても止めなきゃ!!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>


伊藤さんは普段、感情的に行動する事が多いのですが。

此処一番の所では、意外なほどに冷静な態度をとる事が出来『物事を客観的に見る事が出来たり』します。


まぁまぁ、こういうのは良くある話なので、そこまで特別な事ではないのですが。

こういう冷静に判断を下してくれる人材がユニット内にいる事は、かなり有用な事。


流石、時期サブリーダーに指名されただけの事はあって、良いポジションを確保していますよね(笑)


場の空気も和んだみたいですし。


さてさて、そんな中。

そんな伊藤さんの発言を聞いて『自身も、こんな風に正直に話さなきゃいけないのではないか?』と罪悪感に捉われた素直ちゃんが。

この場の空気が和んだ中で、なにやら伏せて置くべき事まで話してしまいそうな雰囲気なんですが。


眞子は、これを阻止する事が出来るのか?


次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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