第4話:幼馴染と姉と夏祭り
少し時は巻き戻って、夜11時、朋香家での話。
「あれ?あれ?どこにもない!里美姉さんからもらったリボンがない!!」
朋香は秀と里美のアパートから帰ってきた後、麦わら帽子につけてあったリボンがないことに気づき部屋中を探し回っていた。父は単身赴任で母とは死別しているので、今朋香の家には誰もいない。探し回る声は誰にも届くことなく夜中の3時まで響いた。
━━━━昼過ぎ鶴崎公園にて
「2人とも、、、ひどいクマだね.....」
げっそりした顔の俺と朋香は、里美のお祭りの屋台の設営準備をしていた。里美は動きやすいジャージを着て長い金髪を一つに括っていた。朋香も似たような服装をしており、髪の毛を結んでいる。
「朋香、これ昨日うちに忘れてたろ?」
「あっっっっ!!それは!?」
里奈の手には昨日見た年季の入った緑色のリボン……いや至る所の装飾が直されており、元の姿よりも綺麗になったリボンがあった。緑色ベースのリボンには薄緑色のレースが施されて結び目には綺麗な花の装飾がされていた。
「えええ!?これ、、昔に里美姉さんからもらったリボンと同じものですよね??」
「そうだ。かわいい朋香のためにリメイクしてみたんだ、気に入ってもらえたかな?」
そう聞くと朋香は飛び跳ねて喜び、昨日持っていた麦わら帽子に装着する。新しくなったリボンは麦わら帽子によく似合っている。リボン付きの麦わら帽子は嬉しそうにはにかむ朋香の幼さを引き立てる。
「里美。ところで何の屋台をするんだ?しかも手伝いって何をしたらいいんだよ」
「まあ、何をするかは後で言う。まずテントから張っていこか」
そう言った里美は軽トラックを移動させてきた。荷台には沢山の荷物が乗っていて、テントだけでなくコンロや旗のようなものまで見えた。
「私は鉄板焼き屋さんをするぞ!」
里美は手に串のようなものを持ちポーズをとった。さながら本場の料理人だ。食材とかはどうするつもりだろうか?それに1人で切り盛りするのは大変なんじゃないのか?
「姐さん遅れました!!!」
そんなことを考えていると屈強な漢たちがやってきた。なんかヤクザ、、ぽいような?それに明らかに薬物をキメてそうな人までいる。えぇ、どうしたんだろうこの人たち?しかも里奈のことを姐さんって言ってたし………?
「里美姉さん、この人たちは…?」
「えぇーと、、あれだ!太極拳とかやってる体操教室の生徒だよ!」
朋香も俺も多分「こいつら絶対体操とかしてへんやろ」といった感想を持っているに違いない。それほどこの漢たちは屈強で雰囲気がヤクザとか極道組員のようなのだ。
「姐さん、俺たちの仕事は食材の管理と店の運営の協力でしたよね!!」
「今日のシノギ精一杯働かせていただきます!!」
自称太極拳グループの漢たちはせっせと運搬を始めた。腕や肩からちらっと見える刺青がどことなく見覚えがある気がした。まぁ気のせいだろうな、とりあえず協力者がいて助かった。
「里美、俺と朋香は何をしたらいいんだ?」
「あぁ、それなら……」
夕方ごろ、ようやく屋台が完成した。周囲にも屋台が立ち並び、それを祝福するかのようにセミたちが絶叫する。太極拳漢たちもすっかり疲れて休憩していた。
「2人ともお疲れさん!手伝ってくれてありがとな。」
「いえいえ、また何でも協力させてください!!」
朋香は元気一杯に答える。流石に2人とも汚れてしまったので着替えてまた集合しようという話になった。里美はというとこのまま鉄板焼きの準備を続けるのだそうだ。
そういえばあのトラックには紙袋が置いてあったよな。中身は里美の浴衣だろう、いつ着替えるんだろうか?
「お待たせ〜!浴衣着るの手こずっちゃって遅れた〜>_<」
「おう俺も今来たところだから大丈夫だ。」
朋香は小走りで待ち合わせ場所までやってきた。見たこともないほど華やかな髪型はどことなく花火を連想させる。それにピアスが燦々と輝き、まるで線香花火のようだ。全体的に水色で統一された浴衣とコントラストを奏でる顔まわり。普段よりも笑顔が際立つ服装に同年代とは思えない色気を感じた。
「えぇーっと、浴衣!よく似合っているな。」
「お、おう。」
朋香は指先で横髪をクルクルとさせながら言った。いじらしいその仕草に一般的な健全な男子高校生は爆発してしまうだろう。あれっ?こいつこんなに可愛かったっけな?スラッとしたスタイルに端正な顔立ち、ほのかに漂う香水の匂い。
「ちょ、大丈夫? 顔真っ赤だよ?」
俺は朋香に声をかけられるまで自身が照れていることに気づかなかった。これが浴衣パワーってやつか。本当に油断ならないな。
「あぁ、平気だ。じゃあそろそろ屋台でも巡ろうか!」
「うん!」
旧態依然として彼女は笑顔ではにかむ。俺とは馬が合わなかったはずだが、急にこうして祭りに出かけたりして過ごす日が来るとは思いもしなかった。
「あっ!あれやってみたい!!」
「ん?射的か、朋香は昔から得意やったよな」
「ちょー得意!私のかっこいい姿見とけよな!」
朋香は店員から銃を受け取り、銃に吸盤つきの棒を装填した。銃の突起から先を見据えて構える。両目を開き狙いを定めた。銃の先はおそらく動物のクッキーに向いている。
シュッと音を立てて景品に命中する。そのままバランスを失ったクッキーは台から落ちた。わずか一発で仕留めた朋香は次へと狙いを定めて2発、三発と打っていく。
「ま、、毎度あり……」
青ざめた店長はわずか一プレイで全弾命中させて景品をかっさらっていった朋香を恨めしそうに見る。朋香は両手いっぱいに景品を抱えて笑顔でVサインを向けた。
「どうだ!これが私の凄さだ!」
「あぁすごいすごい」
「ちょっとどこみてんの? ちゃんと目を見て言いなさい!!」
俺は遠い目をしていた。とりあえず景品を置くために里美のトラックに積んでもらおうと考えて鉄板焼きの屋台を目指す。
「おう!こりゃ大量だな〜!!」
「でしょ!全部私がとったんだよ!」
「そうかそうかすごいな〜」
里美は朋香の頭は撫でずに肩の近くを撫でた。おそらくセットを崩さないようにするためだろう。そういった気遣いに気づいたのか朋香はまた嬉しそうにはにかむ。
「とりあえず景品をトラックに積んでおくぞ」
そういって両手からバサっと景品を落として荷台の箱に詰める。どこかで食べれたらいいなと考えて、子供向けのクッキーを二袋だけとってポケットに入れておいた。
里美の店は大繁盛で忙しそうに回転していた。里美は鉄板を太(太極拳漢)に預けてこちらへきていた。「祭りに飽きたりしたらこっちに戻ってこいよ!いつでも人手は欲しいからな!」と言っていたので了解の旨を伝えた。
俺と朋香は鉄板焼きの屋台から出て、少し歩いていた。いつもなら真っ暗なこの辺も今日は祭り提灯でよく照らされていた。それに多くの人が往来してぶつかりそうになった。
「朋香、ほら」
秀もはそう言って朋香に手を差し出した。周囲は多くの人がいるし浴衣の俺たちは身動きがとりにくい分こうして繋がっていた方が安全なのだ。
「ありがと」
照れ隠しなのかぼそっと感謝を伝えた姿は、ちょっとかわいいなって思った。しばらく屋台を巡ったり歩きまわったりした。少し疲れたので道の脇のベンチに腰掛ける。
依然として手は繋がったままだ。
パシャッ…
突然正面のカメラを持った外国人に写真を撮られた。いきなりのことで驚いたのだが、話を聞くとその外国人は日本の恋人について知りくて、そのために祭りに来たと言う。
「びっくりしたな、今の俺たちは側からみたら恋人に見えるんだな」
外国人からもらった写真を見ながら、おれはイタズラ心でそんなことを言ってみた。さっき食べたレモン味のかき氷の味がふっと蘇る。気がつくと朋香の顔が自分の近くまできていた。
ちゅっ…
え?
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