第3話:忘れものと幽霊?

冷えたスイカを食べ終えた二人はソファの定位置に戻ってダラダラと話している。日はすっかりと沈んでいるようだ。夏の夜には虫が多く光に集まるので、俺は取り付けていた風鈴を外し窓を閉めた。


窓の外でやはり明日の鶴崎公園での祭りの準備が行われていた。日が沈んでも作業を続けるほど手のかかったお祭りであり、鶴崎神社という山にある神社まで提灯が並んであった。


「里美姉さん、私そろそろ帰ります!久しぶりに話せて楽しかったです!!」

「おうーまた涼みにきてな!それに明日のお祭りは楽しみだな!私の店にも顔出してくれよー」


そう言って朋香は帰っていった。俺は玄関まで見送りに行き、去り際に麦わら帽子に付いていた年季の入った緑色のリボンが落ちていることに気づいた。呼び止めようとしたが既にそこにはおらず、どうせ明日会うんだしその時にでも返してやろうと考えてリビングへと戻ってきた。


「おい秀、そのリボン、、、」

「このリボンがどうしたんだ?朋香の麦わら帽子に付いていたんだが、、」


里美は俺の手にあるリボンを見て目を見開いた。何か特別なものだったのだろうか?随分と年季が入っていて、リボンについてあったレースが剥がれかかっているように見えた。


「それは随分昔に朋香にあげたリボンなんだよ。あいつずっと使ってくれてたんだな。」


姉の目にはうっすら涙が浮かんでいた。涙の淵に緑色のリボンが逆さまに写った。しかし、涙が溢れることはなかった。その後、里美がこのリボンは私から返してやりたいと言ったので預けておいた。


「それとなんだが、昔母さんが使っていたミシンってまだ使えそうか?」

「あぁ、先週俺がズボンを縫った時に使ったから全然使えると思う」

「それじゃあ私は夕飯作っとくから私の部屋に運んでおいて!」


何をするつもりなんだか、、そもそもうちの姉さんミシンなんて使えったっけな?そう思いつつもまたもや言いなりになってミシンを部屋に運び込む。部屋は相変わらず散らかっていて置き場に悩まされる。


ふと部屋に置いてある紙袋が目に入った。これってそういや、里美が帰ってきた時に持っていたものだよな?もしかしたら子どもを助けたあの時の秘密が入っているかもと思い、こそっと中身を確認する。


これは、、、、??中には少し高級そうな分厚い紫色の布が入っていて、じっくり確認することはできなかったが花柄の布であることに気づいた。そして俺のもう一つ空いた方の手には何故かパンツが握られていた。


「おいおい、本当にうちの弟はえっちだな!」


後ろを振り返ると姉がいた。どうして俺の片手にパンツがあったかわからない。だが今はしっかりと否定しなければ、、痴漢冤罪でしてはいけないことは謝ることと逃げること。しっかり向き合おう。


「これには深いわけが!!!」

「まぁ別にえっちな弟も好きだよー?じゃ、夕飯食べよか」

「ほんとに違うんだって、、」


里美は強引に俺の話を止めて、勝手に納得しやがった。あぁ冤罪なのにぃ、、。結局紙袋の布の正体は分からずじまいだ。


「ご馳走様でした!」


里美のご飯はいつも通り大雑把な味付けだがとても美味しい。これなら確かに屋台でお店をしてもだいぶ売れそうだな。


「先にシャワー浴びてくるぞ。」


そう言って俺は風呂場へ向かった。うちには浴槽もあるが、湯船を張っても俺らはカラスの行水のようなので昔からシャワーだけにしている。


今日の事故の話も、さっきの布のことも結局姉の真の姿については何も聞けずじまいだ。朋香もあてにならないし、いつかは謎について知りたいのだが里美の方から隠している以上無理に聞く必要もないだろう。


「じゃあ秀おやすみ!」

「あぁおやす」

「だからおやすみを短縮するなっての!」


時刻は12時。もう良い子は寝る時間だ。そうして俺は自室へ向かった。そろそろ夏休みの課題もやらなければいけないので今日は少し夜更かしして勉強するつもりだ。よしやるか!机に向かって数学の課題を広げる。


夜にもかかわらず外は暑いため、セミが時々鳴いている。それにセミではない音が向かいの部屋から聞こえる。時刻は2時すぎ、音はがたがたと言った音に加えてたまにドスドスと言った音も聞こえてくる。


もしかして幽霊ってやつ!? この時間帯に姉が起きれるはずがないし、、もしかして強盗とか!? いやそれならアパートの防犯システムの音が鳴るだろう、ではなんの音なのか、俺は気になってそっと音のする戸を開いた。


部屋には電気がついてあり、反対側を向いてミシンを使っている姉の姿が見えた。紙袋の中の紫色の布を縫っていて、よく見ると浴衣のように見える。まさか、里美はたった一枚の布から浴衣を作ったというのか?(布の厚さやサイズ的に切り分けると手拭い12枚分くらいにはなるだろう)


(す、すごい。。)


音の正体はミシンで布を縫う音で、すごいことに姉は浴衣を作っていたのだ。俺はまた姉の意外な一面を見た。昼間の車の件といい、浴衣の製作といい、生まれてからずっと一緒にいるのに気づかなかった一面をまた見てしまった。



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超人姉さんの第3話を最後までご覧くださりありがとうございました。


どうしても前日までに回収しておきたかった伏線や超人エピソードを盛り込むために夏祭りが遠ざかってしまいました。((汗


次話こそようやく夏祭りが始まると思うのでどうか気長にお待ちください。それと、皆様が良い夏を過ごせますように。


追記:みなさん、応援コメントやハートをつけてくださりありがとうございます!みなさんの応援のおかげでより一層執筆活動に精が出ます!重ねて、本当にありがとうございました。



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