第6話 目元を拭いているのは何故?

(放課後、活気ある運動部の声)

(微かに聞こえてくる吹奏楽部のトランペットの音色)


 遅くなっちゃった。

 日直に当たると帰るの遅くなるから嫌だな。

 夕方だし、あり得ない。

 1人で日直なのどうかしてる。

 2人体制だと、舘畑たてばた君と組めるかもしれないのになー。

 きっと面白いし楽しくなるのに。

 教室に誰かいる、誰だろう?


(静かに戸を開ける音)


 舘畑君だ!やった!

 あれ?なんか、ティッシュで目元を拭いているような…。


(ゆっくり教室に入る)


(1人分のスペースをとって立ち止まる足音)


「どうしたの?泣いてるの?」


(ガタンッと椅子が倒れそうな音)


「びっくりさせてごめんなさい。何かあったの?」


「へっ?目薬が上手くさせない?」


「外れまくって困ってるんだ!そっかそっか」


 なるほど、それでこんな時間まで。

 放課後になって1時間くらいだから、ずっと目薬と戦っていたってこと!?


「ずっと目薬が上手くさせてないんだよね?」


「もう1時間だよ?大丈夫?」


 ここは大丈夫じゃない、言葉選びを間違えたな。


「ごめん、大丈夫じゃないよね」


 うーん…ここは…あっ!分かった!


(パンと手を打つ音)



 ビクッと肩を震わせて後退りされた。

 怯えてない?そんな…ぴえん。


「怖くないし、大丈夫だって、任せてよ」


「出来ないから困ってるんでしょ?頼ってよ」


「はい、目薬貸して」


 よし、目薬を渡してくれた。


「両目だよね…オッケー。じゃあ目を開けてて…いきまーす…」


(右目に目薬をさす)


「どう?しみてるの?」


「良かった、じゃあ次は左目だね…いきまーす…」


(左目に目薬をさす)


「上手く出来たー、わーいわーい」


 目薬を舘畑君に返すと、彼の手は震えていた。

 面白いなと思いながら、小学生の頃を思い出しちゃった。


(椅子に座る音)


「私、小学生の時にね、花粉症で目薬さしてたんだけど、上手くいかなくてね」


「それで先生によくお願いしてさしてもらっていたから、思い出しちゃった」


「今は自分で出来るけどね」


 思い出しちゃったから、懐かしくなってきた。

 誰かにやってもらう嬉しさ。


「いつか、やってほしいな〜」



「自分で出来るけど、やってもらうのって嬉しいんだからね!」


 熱弁しちゃったけど、本当なんだから。

 高校生になっても、変わらないのかもしれない。

 やってくれる人がなら、なおさらだよ。

 わがままな、子供だね、私。


「上手くいったし、帰ろう」


(2人同時に椅子から立つ音、机に椅子を入れる音)


「コンビニ寄らない?」


「一緒にいいの?ありがとう!おすすめあるから早く行こう!」


(2人で廊下を駆ける足音)

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