第5話 雨音と帰路

(雨が降る音)


(喧騒とする玄関)


 良かった良かった、傘持ってきて大正解。

 雨足が強くなる前の弱い今に帰っちゃおっと…ん?

 ぼけーっと突っ立ってる。

 どこか絶望が漂ってるような気がする。


「どうしたの?」


 ビクッと肩を震わせて後退りされた。

 私、怖いかな?怖くないのに、悲しい。


「何分くらいここに居たの?」


「20分も!?どうして?」


 雨、動かない、絶望と言ったら…あっ、分かった。


「傘ないの?」


 頷いた。やっぱり。

 なら、解決出来るね。

 予想しながら解決策を考えついたから提案してみよう。


「一緒に帰ろう?途中までだけど」


 フリーズからの首を横に振った彼。

 ふふん、そんなこともあろうかと、毎日鞄の中に常備しているのさ。


あるから」


 鞄から折り畳み傘を出して見せた。

 真っ赤な傘、柄やキャラクターはない、無地。

 あっ…安心した表情になってきた。

 よし、このまま押す。


「さあ、帰ろ帰ろ♪」


(トン、折り畳み傘を渡す音)

(下駄箱に内靴を置く音)

(外靴を取り出し履き替える音)

(つま先をトントンする音)


 慌ててるけど、一緒に帰ってくれるみたい。

 嬉しいな、良かった良かった。


(弱めの雨音)

(傘に雨がパラパラ降りそそぐ音)


「ねえねえ、一生帰れないって思ってた?」


 そこは頷くのか。なんて人、でも面白いな。


「そっか、救世主になれて私嬉しい♪」


「どういたしまして。折り畳みは毎日持ち歩いてるから、役に立って良かったよ」


「褒めてくれてありがとう、舘畑たちばた君も明日から持ち歩くといいよ折り畳み傘」


「あっ、でもやっぱダメ」


 そうだよ、真っ当な提案とはいえ、それじゃダメだ。

 なんでダメかって?そんなこと分かってるでしょ。

 分かんないから聞いてきたのか。

 もう、鈍いんだから。



 顔が一気に真っ赤になった。

 可愛い…反応が可愛すぎる。


「じゃあ、私こっちだから」


「返すの急がなくていいから、じゃあまたねー」


 手を振ると、彼も手を振ってくれた。

 小さい振り方だけど、そういう所、好きだなあ。


(パシャッと小さな水たまりを踏む音)


(軽やかで嬉しそうなスキップする足音)

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