第2話 放課後
カフェに着くとセリナはすでにアイスコーヒーを片手に待っていた。
「セリナ、二ヶ月ぶりだね。」
と、私が声をかけるとセリナはにっこり笑顔で上げた顔を一瞬にして狐につままれたような顔に変えてしまった。
「えっユサ、何その格好!??」
元気で大きい良い反応だ。
「高校デビューだよ。」
「逆じゃん!真面目委員長キャラみたいな?先生ウケ狙ってんの?」
「これ嫌?」
セリナは後ろの高い位置で結んだポニーテールをバサバサさせながら大きく何度も頷いた。そこまで嫌なら変えるしかない。セリナにはリスロマンティックの事を話していないのだ。
「ちょっと待ってて、トイレで直してくる。」
スカート丈は膝上10cm、髪は後ろで高めのポニーテール、メガネは外し、手短にアイメイク。高校の制服は中学の制服より可愛さが増している。これぞ青春謳歌のための戦闘服だ。
「セリナ、これでどう?」
セリナは目を輝かせて小さく拍手した。
「やっぱユサはこうじゃないと!」
「可愛いでしょ。」
「可愛い!私たち可愛い!」
セリナといると自己肯定感が上がる。
「で、報告ってなに?」
「えっとね、私好きな人できたの!だから話聞いて欲しくて。」
上がりきった口角が引きつってしまう。いくらセリナでも苦手な話をするのは少し疲れる。
「出席番号が近いからすぐ仲良くなったんだけどね、女の子だと思ってたら男の子だったの!ギャップに心撃ち抜かれちゃったの!」
予想していた恋愛相談から大幅にズレている。
「せ、制服はスカート?」
「ズボン。」
「名前は?」
「ひらがなでゆう」
「髪型は?」
「ボブの女の子よりちょっと短いくらい。」
「………………」
「女の子だと思ったの!」
「セリナ…」
「はい…」
「女子用のズボンもあるんだっけ?」
「はい。」
「勘違いしちゃったんだ?」
「はい。」
セリナが心配だ。
「じゃあ、なんで好きになったの?」
「すごく性格良くて、優しくて、勉強できて、男の子だったから。」
「すごくいい子の女の子が、実は男の子だったから好きになったの?」
「男の子って知ってから、急にカッコよく見えちゃって。」
「付き合いたいの?」
「わからないよ。話すのも緊張しちゃうんだもん!」
「じゃあまずは緊張しないようにしなきゃね。」
セリナは大きく頷いた。
その後はセリナと、なんとも奇妙な緊張せずに話す特訓をしてカフェを出た。そして間もなく、後ろから声を掛けられた。
「ユサ、やっぱそっちの方がいいじゃん!」
振り返るとそこにはリョウがいた。
「…そうかな。」
少し気まずそうに私は答えた。
セリナは「そうだよね!」と答えリョウと話し始めた。
「あれ、リョウお前何ナンパしてんだよ!」
コンビニのビニール袋を手に声をかけてきたのは、高校でリョウとよく一緒にいるやつだ。
「俺にも紹介しろよ!」
リョウが「えっと」と答えかけるとセリナが一蹴した。
「私好きな人いるから。」
さすがセリナ。希望の欠片も残さない綺麗な断り方だ。
「こっちは俺の幼馴染のユサ。」
リョウの紹介に合わせて軽く会釈した。
「えっ、ユサちゃんって、今日もリョウと話してたあの地味子ちゃんじゃないの?えっ、フツーに可愛いじゃん!ギャップやべぇ!俺結構好きっすよ、そーゆーの!」
失礼な上にうるさくて厄介なやつだ。するとセリナが、
「ねぇ、リョウ!誰この失礼なやつ。私のユサに対しての態度酷すぎるんですけど!何よ、ユサちゃんって。」
と、ズバッと言ってしまった。
「こいつは俺の高校の友達。今日うちで遊ぶんだ。」
「遊ぶんだ、じゃないでしょ!」
「俺はコウタって言います!」
「うるさい!」
セリナが怒ってしまった。リョウの天然はセリナの火に油なのだ。自己紹介にうるさいと返すとは、かわいそうにも思える。
「まぁセリナ落ち着いてよ。コウタ君、リョウと仲良くしてあげてください。」
そしてセリナの手を引いてそそくさとその場を立ち去った。
「なぁリョウ。ユサちゃんってギャップあって可愛くて優しくてめっちゃいい子じゃんか。」
「うん、そうだよ。」
「なぁリョウ。俺ユサちゃん好きだ。」
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