#10

 土日開催の文化祭が無事に終わると、普通なら休み明けとなる月曜日は振替休日だった。


 まだ心のどこかで文化祭の熱が冷めやらない僕は、真昼間から昴と一緒に駅の大時計の前でメンバーを待っている。


 時計が2時を知らせる鐘を鳴らすと同時にやってきた先輩は、シンプルなジャージのスポーツウェア姿で「待たせた」と汗を拭う。


「いえ、まだ柳田君が来てませんから大丈夫ですよ」

「そうか……ならよかった」


 急いで来たのか、少し呼吸が荒い先輩はゆっくりと肩を動かして数回呼吸をする。


 ──やっぱり先輩って、どう見ても体育会系だし、優しいからモテるよなぁ……。


 昨日の彼女騒動に引っ張られてなのか、軟弱もやしの僕には羨ましいしっかりとした骨格の先輩を見ながら、僕は脳内で勝手な妄想を繰り広げた。


「どうした?……顔がニヤけてるぞ」


 そんな僕を訝しげに見つめる先輩の言葉で我に返った僕は、「いえいえ……な、何でもないです!」と動揺を取り繕う努力をして答える。


「螢はアレだろ……彼女の事考えてたんだろー?」

「だから違うってっ!」


 ニタニタという表現がよく似合う笑顔を浮かべた螢は僕の肩を勝手に組むと、「俺にも可愛い子紹介しろよー」と好き勝手に僕を茶化す。


「お待たせしましたー!」


 昴のだる絡みに嫌気がさした僕は弾むような明るい声が聞こえた方を注視すると、駅の改札口から走ってくる柳田君が見える。


 いつもは制服に坊ちゃんカットがトレードマークの彼は、お洒落な大きめのトップスにジーンズ姿で大きく手を振って僕らを呼ぶ。


 早く話題を切り替えたい僕は思いっきり柳田君に手を振って返すと、それに続いて昴も手を振り返した。


「……すみませーん、電車混んでて」


 へへへっ……と頭を掻きながら笑った柳田君は、服装も相まっていつもより大人びて見える。


「じゃあ、みんな揃ったし……行こうか?」


 メンバーの顔を見渡してから僕が声を掛けると、昴が「おう!」と元気に即答した。


「楽しみですねー、彼女さん」

「だな!」


 先輩と並んで先頭を切る僕の後ろで、女子の恋バナをするテンションの2人に呆れた僕は、無言のまま杜を目指す。


「美人……いや、美形だったぞ」


 先輩はこういう時だけ僕の心情を推しはからずに、盛り上がる2人の会話に平然と薪を焚べた。

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