#11
その後も校内を流されるまま回っていた僕は、薄くなった酸素を求めてバルコニーへと向かった。
新鮮な空気を深呼吸で肺に送り込んだ僕は、人気のないバルコニーの手すりにもたれながらしゃがむ人影を見つける。
料理上手なおばあちゃんが着ているような白い割烹着と、いわゆる「ヤンキー座り」がよく似合う鋭い眼光の見事なバランスに目を見開いた僕は、活発に動く腹筋を抑えながら「……お疲れ様です、先輩……っ」と声を掛けた。
「おう」
先輩は横に置いてあるスポーツドリンクで喉を潤すと、「見学か?」と僕に尋ねる。
「そうですね……先輩もですか?」
「いや……人集めも兼ねて休憩してこいってクラスの連中が」
「はっ……な、なるほど……」
我慢も限界、吹き出しながら答えた僕を見てどこか楽しげに微笑んだ。
「お前は笑顔がよく似合う……あんまり辛気臭い顔ばっかしてんな」
「えっ?」
「……生きれる時間が限られてるんだから、笑える時は笑っとけって事」
先輩は見た事ないぐらい優しい表情で僕を見るので、僕は驚きの余り目を瞬いて咳き込む。
「人が真面目な会話してるのにどう言うつもりだ?」
「……い、いや……先輩も今みたいに笑ったら良いのにって」
「笑う?俺が?」
自覚が無いのか、先輩は不思議そうな表情で首を傾げるも、暫くしてから「気をつける」とだけ答えた。
「はい!……そうしたら顔面凶器じゃ無くなるかもですね」
「お前は柳田か……一言多いぞ」
俯きながら静かに肩で笑う岡部先輩は新鮮で、この人でもこんな顔をするのかと少し感心する。
「そういえばさっき、柳田君に会いましたよ。バンパイヤのコスプレしてお化け屋敷の客引きしてましたけど、十字架付けてて……」
「最強だな」
「そうですね……本人は怖いのが苦手だから関係ないって……ふふっ……その口止めにのど飴もらったんですけどね」
「……口止め貰って俺に喋ってるなんて、お前もなかなかのお喋りだな」
「あー……おもしろ」と呟きながら左手を目元に当てて笑う岡部先輩は、「あんまり広めてやるなよ」と僕を宥めた。
「はい!……だからこれはお裾分けです」
柳田君から貰ったのど飴をひとつ差し出した僕に岡部先輩は眉を顰めると、「お前が貰ったんだろ?」と怪訝な表情を浮かべる。
「明日のライブの前にでも舐めた方がいいんじゃないのか?」
「大丈夫です……!3つ貰ったので、そのうちのひとつですから」
僕の返答に納得した先輩は、「おう」と答えて飴を快く受け取った。
「サンキューな」
可愛らしい包装を丁寧に破いて飴を口に入れた先輩がちょっとだけ可愛らしく見えたのは、きっとこの先も口が裂けたって言えないだろう。
「どうした?」
「い、いえ!……もう戻らないと……」
僕は相変わらず誤魔化したものの、今回ばかりは先輩に悟られてはいけないと思い、足早にバルコニーを立ち去った。
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