#10

 昼食代わりのパンケーキ3枚は、量の割に色々と重かった。


 きっと精神的攻撃が強かったせいだろう。

 思い返すだけで胸焼けがする。


 トボトボと校内を彷徨う僕を揉みくちゃにする程の人の波は、いつもの高校とは思えない

 ほど活気にあふれていた。


 元々人波が得意ではない僕は、浮き草の様に流れに逆らう事なく進んでいくと、突然「みーつけた」と聞きなれた声と共に腕を引かれる。


「うっわー……卑屈ニキ、顔色ヤバいですよー?」


 僕の腕を引いたのは柳田君で、彼はスリーピーススーツを着こなして、手に持っているのはかなり大きめの「お化け屋敷はこちら」と書かれたプラカード。


「あぁ……まぁ、色々あって、ね……」


 力無く柳田君を見つめる僕に「ははぁん、もしかして偽善者メイドにしてやられましたかー?」と彼は笑う。


「よく分かったね?!」

「まぁ、顔を見れば大体わかりますよー」


 ケタケタと楽しそうに腹を抱えた柳田君を見ていると、なんだか僕まで面白可笑しく思えてきて、釣られて僕も小さく吹き出した。


「……そういえば柳田君、なんでスーツなの?お化け屋敷なんじゃ……?」


 一頻り笑った僕は、まるで発表会衣装の様な彼の服装に疑問を持ったと同時に、口からその疑問が滑るように漏れ出る。


「そうですよー?……ほら、バンパイヤでーす」


 柳田君は上機嫌でスーツの上着を捲ると、首から伸びる大きな十字架のモチーフが付いたロングネックレスがお目見えした。


「いや、それ多分バンパイヤ着けないヤツじゃ……」

「いーんですよぉ……僕、怖いの嫌いなんで」


 自信満々にグッと親指を突き立てた彼は、意気揚々と宣言する。


 ──やっぱり怖いの駄目だったんだなぁ……。


 この前昴と小競り合いしていた時の言い訳を思い出して口元がニヤけた僕をみた柳田君は、少し不機嫌そうに唇を尖らすと「偽善者ニキには内緒ですよー」と文句を言う。


「分かった、内緒にする」

「ふーん……じゃあ、約束の駄賃にこれを上げましょー!」


 ゴソゴソとポケットを弄った彼はグーを作って僕に差し出すと、「ほら、手出して下さい」と促す。


 言われるがまま手を差し出した僕に、彼は包装の可愛らしいのど飴を3つ渡すと、「コレ、美味しいからよく買うんですよねー……気分転換と口直しにどーぞ」と悪戯っぽく微笑む。


「ありがとう」


 察しの良い柳田君から貰った飴を早速ひとつ口に放り込むと、パンケーキを中和するぐらい優しくて繊細な味がした。

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