#2

 滅多に使っていないバンドメンバーのグループで、昴からのLINEを訝しく思った俺は起き上がって、LINEを開く。


『 こんばんは!

 さっきは色々ありがとうございました。

 今、螢と話できました。』


 ──へぇ、あの2人が。


 どんな内容で、ちゃんと話し合えたのかは分からないが、あの拗れた関係が少しでも解れたのなら大きな進歩だ。


『 あと、相談なんですけど……文化祭の楽曲、螢に作らせても良いですか?』


 その文章で指が止まる。


 いや、俺は構わないが……これは螢が言い出したのだろうか?


 元々螢が書かなくなったのは昴と組んだからで、その理由は昴と言っても過言では無い。


 2人とも作詞・作曲者としての才能はあるのだろうが、昴は人柄同様にいかにも万人受けしそうな曲を書く。勿論それが悪いわけでは無いが、性格的に卑屈な螢が勝手に比べて落ち込む理由には十分だった。


『 良かったな。

 曲は螢が言い出したのか?』


 俺はしばし考えてから、返信を打つ。


 即座に俺の打った言葉は既読になり、数秒と待つ事なく返事が来る。


『 曲を作りたいって言ったのは螢です。

 文化祭の曲にするのは俺が提案しました。』


 どういう風の吹き回しだ?

 本当に、2人がちゃんと和解できたのだろうか……?


 まぁ、詮索はやめよう。

 もし何かあればきっと気付く筈だ。


 わざわざ俺のことが苦手な昴が連絡を寄越したのだ、何かの意図があるのだろう。


『 分かった、任せる。』


 愛想もクソもない一言に既読が付くのを確認して、俺はまた体をベッドに委ねる。


 ──『浩也はさ、真面目に考えすぎなんだって』


 「She's do」が解散した直後、取り憑かれたのように練習を重ねるを見兼ねた林先輩の言葉を思い出す。


 ──『お前がどんだけ他人になろうとしたって、お前が岡部 浩也であることには変わりないし、逆にどんな風になっても俺たちのメンバーに変わりないだろ?』


 俺は今、それをあいつらに言ってやれるだろうか?


 あの時の先輩の言葉に救われたように、俺もメンバーを救えたなら──。


 柄にもなく感傷的な気分になった俺は頭にメンバーの顔を浮かべると、ついでに「顔面凶器」と文句を言う柳田も浮かぶ。


 ──もうメンバー入りさせてんだな、俺。


 自嘲にも近い乾いた笑い声を上げ、俺は再びスマホを開けてグループLINEを開く。


『 連絡先知らないけど、柳田もここに追加しといて欲しい。』


 打ち終わるとそのまま画面を閉じた俺は、送信した返事を待つことなく大きく寝返りをうって早々に意識を手放した。

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