#2

 スマホの発信者が映る画面をしばらく眺め、僕は体調不良の嘘について言い訳を考えた。


 少し放置したら切れるかと思ったコール音は、残念ながら鳴り止まない。


 そして、僕は意を決して通話ボタンをスワイプする。


「もしもし」

「もしもし螢?……体調悪いんじゃ無かったのかよ?」


 昴の声は少し苛立っている様に思える。まぁ、当たり前だが。


 僕はさっきまでの出来事をどう話そうかと考えながら、「うーん……そうだね。ちょっと生死を彷徨ってた」と冗談混じりに答えた。


「はぁ?!」


 しかし、体があまり強くない僕の冗談が通じる事なく、昴は勢いよく声を上げた。あまりの音量に堪らず耳からスマホを遠ざけた僕は、苦笑いしながら「冗談だって」と宥める。


「何だその冗談、笑えねー」

「ごめんごめん……詳しいことは帰ってから話す」

「ん」

「はい」


 電話はどちらがともなく切れた。


 すっかり静かになった端末をしまった僕は、再び空を見上げた。


「あっ……」


 空には色鮮やかな虹と、鮮烈な夕焼けが豪勢に広がっていた。


 大きく新鮮な空気を肺に吸い込み、今まで溜め込んでいた苦々しい感情を二酸化炭素に乗せて吐き出す。


 ──やってやろうじゃねぇか。


 誰ともなく拳を頭上に振り上げた僕は、自分の卑屈な感情に宣戦布告した。

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