Take a short break
#1
強引に無理難題を押し付けてくる白に、僕は心拍数を早めて憤慨しながら帰路につく。
白が提示した取引は至って簡単。
あの社は呪われているらしいので、無事に杜から出られるように守護を掛ける事を条件に、白の為だけの雅楽──作詞作曲から手掛けた演奏をするという事なのだが、問題はその後だった。
「これは妖呪の契りだ」
あの時、白は何の躊躇いもなく僕の唇に自らの小さな桜色の唇を重ねたのだ。
──な、何事?!
仮初にも狐神が、それも、僕のファーストキスを奪ったのである。
「な……、何するんだよッ!!」
「さっき言ったではないか?『妖呪の契り』だと……もしかして、初めてか?」
「う、うるさい!!」
声が震えているのは決して恋愛経験が乏しいからではないし、顔が熱いのは断じて彼女いない歴が年齢とイコールなせいでもない。
「図星か……まぁいい、この契りをかわした以上、我から逃げるのは不可能だな。……観念しろ、螢」
──うぅ……。
この杜にたまたま足を踏み入れて雨宿りしただけでわざわざトラウマを呼び返す迷惑事はゴメンだが、ここで呪われて不幸になる展開も受け入れ難い。
更に変な契りを結ばされては、僕の答えはひとつしか残っていなかった。
「……分かったよ、作ればいいんだろっ!」
そうして半泣きの僕が答えるのを待ってた様に降り続けた雨は、渋々承諾したタイミングで泣くのをやめた。
──あぁ、今日は本当に厄日だ。
さっきとは打って変わって快晴な空とは比べ物にならないほどの暗い気持ちで歩いていたせいか、水溜りに映った僕の顔は赤く、そして酷くやつれている。まだ心臓が強く脈を打つので、僕はヤケクソの様に地団駄を踏む。
えぇい、何がドキドキなんだよぉ……!!
「クソッ!」
僕は頭を抱えて絶叫する。
──そんな邪神だから封印されるんだッ!!
次から次へと溢れる感情に内心で悪態をつくと、白の言葉を思い出す。
『我は、この社に千年も封印されている』
とはいえ、千年もの間……白には一体何があったんだろう?たかだか17年生きた程度の僕では計り知れない時間を過ごした白に、ふと思いを巡らせる。
──まぁ、さっきの事があるので素直に同情はできないが。
僕には生まれてからずっと、昴がいた。
確かに鬱陶しい事も多々あるけど、それでも病弱だった僕を一番近くて心配して付き添ったくれたのは、他でもない昴だ。
いつもは避けている癖に、こんな厄日となればあいつに会いたくなるなんて、僕はなかなかの我儘かも知れない。
そんな事を考えながらスマホを取り出すと、計ったように携帯が鳴る。
相手は言わずと知れた、昴であった。
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